Sid.16 新規で習得した残念魔法
カウンターの上に手を出して、と言われ素直に応じると。
「あの」
「大きくはない手なのに」
「えっと」
「嫌なんですか?」
嫌じゃないけど、少し恥ずかしいと言うか。
僕の手を掴んでるんだよね。軽く撫でてみたり指を絡ませたり、感触を確かめてるのかもしれないけど、所詮は作り物だよ。
暫く会えなかったからだろうけど。やっぱり好かれたんだよね。
「ちょっと恥ずかしいだけです」
「この世界で生活しませんか?」
「はい?」
「冗談です。元の世界の方がいいですよね」
本気で言ってると見た。でも僕はこの世界に恋愛をしに来たわけじゃない。アイナとかマリッカとか悪くはないんだけど、完全にプラトニックな関係ってのもね。物足りなさを感じちゃうし。
一応、男だから欲もあるし。この体だと反応してくれる相棒は居ないけどね。
だから冷静になれる面はある。
じゃなくて、そう言えば応募してきた人って。
「あの、応募してきた人」
「諦めたみたいです」
「え」
「ヒロトさんが来ないので」
少し間が空き過ぎたのかもしれない。いつ来るのか分からないってことで他を当たろうってなったのか。
残念ではあるけど中堅冒険者なら、今後も仲間になろうって人も出てくるんだろう。掲示板の使用期限は過ぎてるし、もう一回掲示し直すことにした。
今回は「スカラーC以上のメンバー募集。前衛を熟せる人一名、後衛を任せられる人二名」と記載した。
ジョブには一例として前衛は剣士や戦士、後衛は回復士や魔法使いなど。
一名は支援職でも可としておいた。
自身のことはスカラーBと記載し、魔法剣士をやってることも。
「またランクが上がったんですね」
「一応」
「短期間でここまでって、他に居ないですよ」
「そうみたいですね」
四回や五回程度でレベル二十を超え中堅冒険者。運がいいのか魔法剣士は育ちやすいのか。
当初は失敗と思った魔法剣士でも、これだけ短期間で強くなるなら、大当たりのジョブじゃないかって思う。
アイナが何やら言ってるようだ。
「新しい魔法を覚えられますよ」
「え、勝手に覚えるものじゃないんですか?」
「違いますよ。ガチャです」
「……ガチャ?」
疑問を生じているとしゃがみ込んで、見覚えのあるガチャをカウンターに置いてるし。
何それ。
「一回だけ引けます」
「あの」
「出たものを覚えることができます」
「いや、あの」
カプセルの中に魔晶石なる石が入っていて、それを飲めば魔法を習得できるそうで。魔結晶とは異なり魔法の種なのだと言ってる。意味が分からないけど。
ただし、ジョブによって習得できるレベルが決まっている。魔法剣士はレベル十毎に一つ魔法を習得できるのだとか。
「さあどうぞ」
これ、運試しの要素が強過ぎない?
「選べないんですか?」
「システム的に無理だそうですよ」
「なんでです?」
「なんででしょう?」
何種類あるのか。
「この中に何種類あるんです?」
「えっとですね、六種類あるそうです」
「その割には数が」
「重複してますから」
つまり外れが多数あって当たりは少数の可能性も。まさに運試し。幸運度が高ければ強い魔法。低ければ使えない魔法が出るのか。
「あの、どんな種類の魔法が」
「各種属性系魔法と治療系ですね」
「それって、どんなジョブでも?」
「いいえ。魔法剣士用です」
魔法剣士は魔法使いに次いで、多様な魔法を扱う能力があるそうだ。ただし、レベルが十毎だから習得できる魔法の種類は少ない。魔法使いはレベルが三か四上がる毎に一つ習得可能。初期でも六種類の魔法を扱えるそうだ。
ガチャを見る。中にはカプセルが複数。誰がこんなものを作ったのやら。
そもそも運任せなんて誰が考えたのか。素直に選ばせてくれないんだ。
「どうぞ」
「えっと」
「ヒロトさんは怪我をしやすいので治療系が良さそうですね」
そうじゃなくて。
仕方なくガチャを試してみるけど、把手を捻るとカプセルが落ちてくる。
「開けてみてください」
カプセルだけど木製。プラスチックなんてあるわけ無さそうだし。木製の球体を捻ると中身が出てきた。
黄色い魔晶石のようで、どんな魔法なのか。
アイナを見ると微妙な表情をしてる、ってことは外れを引いたってことだ。
「外れ?」
「あ、いえいえ。使いようによっては」
「外れですよね」
「だから使い方次第ですよ」
どんな魔法なのか教えてはくれない。飲み込んでみて理解するのだろうけど。アイナは分かってるんだよね。
アイナを見ながら口に放り込んでみるけど。
「どんな魔法か分かりましたか?」
「知ってるんですよね?」
「あたしからは口外しません」
属性としては大気。使ってみないと分からないけど、あんまり期待できるものじゃないな。
完全に外れだ。
「これ、他にどんな魔法が入ってたんです?」
「爆炎魔法と氷の槍と土の槍、あとは精霊魔法に治療魔法です」
精霊魔法って何?
「精霊魔法って」
「四元素のうち一つを扱えます」
「四元素ってことは」
火、水、風、土ってことか。で、大気属性の魔法は今回習得したけど、これは精霊魔法じゃない。ただの風が吹くだけだったら意味無いなあ。
なんかツキが無い。そもそもガチャは苦手だ。今までいいものが出た例がないし。
「ま、まあ、いいじゃないですか。魔法なんですよ。あたしには使えませんし」
「はあ」
「大丈夫ですよ。使い方次第ですし、威力はレベルに応じて上がりますから」
慰められると余計に悲しくなる。
仕方ないか。レベル三十になった時には、もう少しましな魔法を習得できると期待しよう。
今回の魔法は使いどころは無さそうだけどね。自分に向けて送風とかかなあ。
「じゃあ、探索に出るんで」
「いってらっしゃい」
ギルドを出て門に向かうとセヴェリさんとトゥオモさんが居る。僕を見ると相好を崩し「久しぶりだな。しばらく見なかったが、やめたのかと思ったぞ」なんて言ってる。
「ちょっと忙しくて」
「そうか。異世界の生活もあるだろうからな」
「これから出るのか?」
「そうです」
怪我しないようにな、と言われて送り出された。
街道を進み森へ向かうとスライムが出てくるけど、大気属性の魔法ってのが何かを試しておこう。どうせ威力なんて無いに等しいだろうから、スライム相手が丁度いいんだろう。
「えっと、なんだっけ?」
頭の中に浮かぶ魔法名。剣先をスライムに向け唱える。
「スタートヴォーグ」
飛び跳ねて向かって来るスライムだったけど、剣先から発生した風で弾き飛ばされてる。風圧で飛ぶだけ?
それとも他に何か効能があるとか。
風が吹き出す瞬間に小さくボフンなんて音がしたし。
もう一度試してみよう。飛ばされたスライムだけど戻ってきて、また攻撃してこようとしてるから。
もっとしっかりイメージすれば、少しは威力のある魔法になるかもしれないし。
「スタートヴォーグ!」
空気砲?
やっぱりボフンって感じで風が吹いて、吹き飛ばされるスライムが居る。
もう少し真面な説明をしてくれても、と思う。これじゃあ使いどころも何もあったもんじゃない。
面倒になり剣で薙いでおいた。
森に入ると早々にコバロルムと遭遇。空気砲は使い物にならないから、剣を構え勝手に突き刺さってもらう。
倒して魔結晶を回収しポーチに仕舞い、さらに奥へと進み泉まで向かってみることに。
オクタプレブロやネブマデンドロを倒し突き進むと、空飛ぶクラゲの出現する泉に着く。イレクトリコスだっけ。
意外にもすばしっこい相手だったし、感電させてくるから厄介な相手だ。
レベルが上がってるから、少しは楽になるとは思うけど。
暫し待っていると出て来た。
「エルドクロット」
連射すると秒間六発になってる。




