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Sid.15 小遣いの増額交渉は不発

 異世界での活動時間が倍になった。二時間制限が外れ最大四時間まで。休憩を挟んで追加で四時間となると、もっと高レベルにならないと無理だけど。

 それでも活動時間が伸びるってことは、現地の人たちとの交流時間も設けられる。

 少しはアイナとの時間も取れそうだ。喜ぶかな。


 ただ、問題は異世界ではなく現実世界にあった。


 自宅での夕食時。

 ダイニングテーブルを囲み父さんと母さん、そして僕の三人で話し合い中。


「六万円?」

「えっと、活動時間が長く取れるから」


 二時間で八千円だけど四時間だと割引があって一万五千円。月に四回行くとすればの話しだけど。

 そう、最大の問題は金が掛かり過ぎるってことだ。


「バイトしなさい」


 これまで通り月額三万二千円が上限で、それを超える分は自力で何とかしろと。

 学業に支障が出るようならば、遊びをやめれば済む話だとも。


「遊びたい気持ちは理解するが、さすがに六万円ともなるとな」


 現時点でも大幅な譲歩をしている状態。不足分は自力で稼ぎ充当すれば良いと、もっともなご意見だけど。上京して勉学に励む学生よりは、実家暮らしゆえに金銭的に楽な面はあれど、それでも親が気軽に出す額じゃない。

 さすがに通るわけないか。そうなると学校終わりにバイトして稼ぐしかない。学業に支障のない範囲で。


「そのゲームだけどな」


 父さんが詳細な説明を求めて来た。これまでは目新しいゲームとだけ認識していたが、強い痛みを生じたり簡単に死んでしまう、まあこっちの世界の体は死なないけど。それでも向こうの体に死はある。そんな世界観のゲームだと精神に支障を来さないのかって。

 ゲーム扱いしてるけどゲームじゃないな。向こうもまた現実だし。生きてる人たちが居て生活してる人たちが居る。僕らは急に現れた厄介な異分子でしかない。


「場合によってはPTSDを発症する危険性はあるかも」

「提供してる企業は責任を負うのか?」

「一応誓約書があって最低限の責は負うらしいけど」

「最低限ってのは?」


 この世界の体の生命。絶対はないけど必要な措置は講じる。その上で万が一の際は保証しきれない。死亡した場合は一定程度の慰謝料を支払うんだろう。

 PTSDを発症したとしても、責任の度合いは折半になるようだ。自己責任の面もあるだろうから。

 凶悪なモンスターに蹂躙されて死ねばね、おそらくは精神に影響はあるだろうし。

 向こうの人を殺害しても同様。実際に殺害してしまったプレイヤーも居る。


「もっと穏やかなゲームならまだしも」


 そんな危険なものをゲームと呼べるのかと、もっともな意見だと思う。

 あれはゲームなんかじゃない。生死を賭けたサバイバルだ。ただ、こっちの世界の体が死を迎える可能性が低いってだけで。

 セヴェリさんが言ってたけど、遊び感覚で現地の人を見下すプレイヤーが多い。原始人扱いなんだろうと思う。でも違う。精神だけが移動するから実感し難いけど現実に存在する世界なんだよ。


「技術の進歩は凄いと思うが、それで他所に迷惑を掛けてるわけか」

「行動次第だと思うけど」

大翔(ひろと)は迷惑掛けてないだろうな」

「少しは掛けてるけど優しくしてくれてる」


 セヴェリさんたちやマリッカには迷惑掛けてる。倒れて担ぎ込んでもらったり、治療してもらったりしてるし。

 少しは期待もされてるし心配もされてるけど。


 もし精神だけじゃなく物質そのものが移動できていれば、きっと世界中の国々が資源を求め侵略しに行ったんだろう。中世くらいの世界だ。植民地化も進んだ可能性はある。圧倒的な武力でもって。人の歴史なんて隷属と収奪だ。隷属させられた国家や人に発展はない。同じようにするんだろう。こぞって異世界に行き力で従わせる。

 幸い精神しか行けないことで、どの国家も一部研究対象として見ても、関心を示さないと思う。

 ゆえにゲームになってしまう。


 もし、異世界がこの世界より遥かに発展した世界だったら。

 僕らの方が原始人扱いだったかも。その場合は実験材料になったかもね。異世界から現れた精神生命体。格好の研究材料になったりして。

 きっとそんな世界もあるんだろうな。たまたま文明レベルが低い世界だっただけだ。


「人さまの迷惑にはなるなよ」

「分かってる」

「しかし、よくそんな危険なものを」

「そこまで危なくはないけど」


 これまで死にそうにはなってもトラウマは抱えてないし。ただ、何度も戦闘ばかりをしていたら精神面で影響はあるかも。それが対人ともなれば。

 やっぱり適度に距離を置きつつ嗜むのがいいんだろうな。

 嵌まると危ないのは確かだ。


 結局、増額はならず自力で稼ぐことに。

 当面は今まで通り二時間とするしかないか。それか四時間を二回。感覚が鈍りそうだから二時間を四回にしよう。バイトで稼げたら四時間にすればいい。


 三月下旬になると大学のガイダンスが始まり、そして四月から入学式となり履修届で悩ましい。サークルや部活の勧誘もあるし。どこにも参加する気はないけどね。サークルや部活なんてしてたらバイトできないし。

 バイトができるとしても五月かな。四月は無理だろう。で、五月にバイトした分は六月に入るから、四時間枠で活動できるのは六月も後半。

 仕方ない。無い袖は振れないのだから。


 入学式には母さんが付き添い。父さんは仕事で忙しいから。

 入学後二週間は異世界に行けず。日曜日くらいは時間もあったけど、少し落ち着いてから行きたかったのもある。

 授業は月木は六時限まで入れてある。終了が十九時四十分で遊ぶ暇なし。火金は五時限までで水曜日は四時限。

 水曜と土曜日にバイト、なんて思ったけど都合よくあるわけもなく。


 バイトは飲食店が多いけどランチ時に人手が必要。昼に入れない人は不要ってことで。居酒屋なら夜間は歓迎されるけど、騒々しいし酔っ払いは嫌いだから無し。他には倉庫の軽作業や塾講師に家庭教師。あとはデリバリーだったりで。

 結果、コンビニが一番融通が利くってことで。

 週に二回、水曜日は十七時から二十三時までで休憩十五分、土曜日は十時から十八時までで休憩一時間。

 捕らぬ狸じゃないけど月に六万程度稼げれば、小遣いと足して充分な時間を確保できる。


 日曜日は異世界に行く。二時間だけ。

 あとはしっかり休息して月曜日に備える。


 四月に入ってから暫し忙しない時期を過ごし、久しぶりに異世界に下り立つと。

 体が少し硬直気味だった。


「週に一回程度動かさないと、筋繊維や関節が固まりやすいですからね」


 人間も同じだ。一週間寝たきりだと筋力の低下と、関節の拘縮により可動域が狭まる。作り物だから拘縮くらいで筋力の低下はないようだけど。

 ゆえにストレッチをしてから探索に出ることに。


「なんかポキポキギシギシ言ってます」

「きちんとストレッチをすれば元に戻りますよ」


 少し動かすと柔軟性が戻り可動域も広がった。

 不思議でもなんでもないかもしれないけど、時間軸は元の世界と同じなんだ。ここで一時間は元の世界でも一時間。一週間置けば、こっちも一週間経過してるわけで。

 同じ時間の流れって、やっぱ不思議だ。過去や未来に行けないのも不思議に思う。それぞれの未来や過去に行けそうな気もするんだけどな。


 ストレッチを済ませ待機室を出ると、受付に居るアイナと目が合った。

 手招きしてるし。向かうと「長く待たされた気がします」だって。


「ちょっと用事が重なってて」

「これからは以前と同じくらいで来れるんですか?」


 難しいとは思う。休みだったから二日や三日で来れたけど。


「三か月くらいすれば」


 じっと見つめられてるし。アイナの瞳って綺麗な緑色なんだね。

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