Sid.14 受付嬢は惚れてるようだ
この世界の肉体は死んでも元の世界に居る僕は死なない。それは理解していても体が傷を負えば痛みもあり、苦しむ姿を見るのはつらいのだそうだ。
抱き締められていたけど離れると、僕の隣に腰を下ろし覗き込むように見るマリッカだ。距離が近いなあ。ちょっと気持ちを持っていかれそうな。
「まだ一人で行動しているのですか?」
「あ、えっと。募集はしてるんですけど」
希望者は居たらしいけど僕の惨状を聞いて、断ってきたとか言ってたし。リスクとなる行動はしたくないんだろう。考えなしに突っ込んで痛い目に遭うからなあ。
元の体が死ななくてもペナルティになる行動は避けたい。普通はそう考えるだろうし。
「私が少しでも戦えれば、ご一緒したかったのですが」
それはやめた方がいいと思う。どこで命を落とすか分からないし。
「僕だと守り切れないです」
マリッカとかアイナには死んで欲しくない。この世界の人は僕らと違い、生き返ることもできないのだから。気楽にゲーム感覚で遊べるのも、現実の死を迎えることが無いから。精神の入れ物が壊れるだけの話だ。
少し悲しげな表情を見せるけど、立ち上がり「お祈りしましょう」とか言って、僕の手を引いて立ち上がらせると祭壇前に。
跪いて手を合わせ目を瞑ると「私に続いて復唱してください」と言われる。
「天穹にましますは我ら創造の主よ」
「天穹にましますは……」
「願わくは御名を崇めさせたまえ」
「願わくば御名を……」
前に聞いたのと違う祈りだ。
「あまねく天穹を照らし地をも照らしたまえ」
「あまねく天穹を……」
「我らに日々の恵みを与えたまえ」
「我らに日々の恵みを……」
なんか長そうだけど、余計なことを考えず祈った方が良さそうだ。
暫しの間、マリッカの言葉を復唱し祈りを捧げると「これが正式な祈りになります」と言われた。
正式な祈りって信者のものじゃなかったっけ。
「えっと」
僕が言おうとすると首を横に振り人差し指で口を塞がれる。
「ヒロトさんは敬虔な方です。正式な祈りを捧げることで神の寵愛を得られることでしょう」
信者ではなくとも神の寵愛を得ることができれば、困難な事態に陥った際に手を差し伸べてくれるはずだと。
日々祈り続けることで感謝の念は届くはずと言う。
「ですが期待してはいけません」
期待するということは神に要求することと同義。だから期待せず、いつか自然と神に愛される存在になれば良いのだそうだ。
「私にできることは、このくらいですから」
寄進すると遠慮がちに受け取り「神のご加護がありますように」と言って「また教会にいらしてくださいね」と笑顔で言われた。
とても愛らしい笑顔だ。アイナが言っていたけど絆されるなと。でも邪な考えで見せる笑顔じゃないよね。本心から見せてくれてると、そう思う。だからと言って恋愛感情とは思わないようにしないと。あくまでシスターとしての務めだ。
教会を出ると見送りに出てくるマリッカが居る。
「今度からは祈りに来ますから」
「はい。お待ちしております」
挨拶を済ませギルドに向かうけど、互いの姿が見えなくなるまで手を振ってたな。
なんか惚れそう。
あ、でも、肝心なことを忘れてた。この体と見た目は僕とは違う。借り物だから本来の自分じゃないんだよ。性格だけで見てくれてるならともかく、見た目も含めてだと騙してる気分になる。その気はなくても。
その辺は分かってるんだろうか。
ギルドに入るとアイナがカウンターで手招きしてる。
向かうと早々に「応募してきた人が居ますよ」と言われた。
「え、来たの?」
「三人組ですけど全員レベル二十です」
「えっと、僕より上?」
「現時点では、ですよね」
僕のレベルも上がってるだろうから、そこは問題ないでしょう、だって。
上がってるかどうかは分からない。
「次回、顔合わせしてみると良いですよ」
「そうします」
顔を近付けてきて「教会、行きました?」と聞かれ「怪我したから治療してもらって来た」と言うと。
「ギルドでやれば完全ですよ」
「そうなんだろうけど」
「あ、本気になったりしてないですよね?」
「いえ、あの」
嫉妬してるの?
「ああ、もう絆されてるんですね」
肩を竦め両手のひらを上に向け嘆くアイナが居る。多少は絆された感じはあるけど、でも恋愛感情にまで至ってないと思う。ちょっとは揺れてるけどね。
次行った時には本当の僕はもっと軟弱で、頼りない存在だからと言わないと。元の世界では冴えない男子。喧嘩したら小学生にすら負けそうなくらい。
借り物の体のスペックは高い。本当の僕は貧相だし。
これはアイナにも言わないと。
「あの、本当の僕は」
「分かってますよ。異界の人だし、その体が作り物だってことも」
「元の世界の僕は最弱です」
「でも、この世界では強いですよね」
初心者でありながら他の冒険者が尻込みする森に入って、大きなリスクを厭わず上位のモンスターを倒してくる。心の強さがあるはずだと。
「外見だけなら気になったりしません」
少々無謀な点はあれど戻って来られる。危険に飛び込む勇気もある。
女性を惚れさせるに充分だそうで。
惚れられたんだ。
「マリッカに絆されたのは仕方ないです。でもあたしの気持ちも本物ですから」
そうは言われても。この体じゃ如何わしいことは一切できないし。プラトニックな関係にしかならないけど、それでいいのかなあ。
それに毎日来られるわけでもない。時間も限られる。普通にお付き合いは無理だよね。
それを言うと。
「教会で何か言われませんでしたか?」
「え、何を?」
「まだ教えてもらってないんですね」
「あの、なんですか?」
マリッカの口から聞いて、だそうだ。自分からは言えないからと。
何かあるのだろうか。
「そろそろ時間じゃないんですか?」
「あ、そうだった」
「レベル上げてから戻るんですよね」
「その予定です」
さらに強くなっているなら自分を見て欲しい、だって。アピールが凄まじいなあ。こんな作り物と恋愛しても、どうにもならないと思うんだけど。
この世界にも男はたくさん居るだろうに。僕より優しく強く勇敢な人だって。
史上最速で昇格とレベルアップしたってことで、過剰に評価されてるんだろうな。少しすれば熱も冷めるんだろう。
「じゃあ戻るんで」
「次は色好い返事を聞かせてくださいね」
「えっと、善処します」
受付を離れ待機室に行きスタッフにレベルを、と言うと。
「今回は何を倒したんですか?」
「えっと、空飛ぶクラゲを」
「イレクトリコスを倒したんですか?」
「あ、それみたいです」
空を飛んで攻撃を躱す速度が尋常じゃない。とてもレベル二十以下で倒せるモンスターじゃないはず、と言われた。
しかも電気ショックで麻痺させられ、まともに動けなくなるのだと言うけど。
動くことはできた。あとから痺れてまともに喋れない状態だったけどね。
「なんにしても例外はあるものですが」
さすがに過去に類を見ないケースだと。
感心なのか驚きなのか「何が起こってるのか確認させてください」だって。それは以前に許可したと思う。何をされるのかしらないけど、次に来た時、異常がない状態なら構わない。
そしてレベルだけど。
「二十一です。幾つ倒したんですか?」
「四匹ですね」
しばし絶句してたけど「もう驚きませんよ」だって。
「ではランクも上がってスカラーBですね」
もう中堅クラスだそうだ。史上最速で中堅冒険者。そうは言っても経験不足だから、経験を積んだ冒険者とは違うと思う。
これのせいでアイナからの評価が無駄に高くなるんだよ。
あ、そうだ。
「あの、四時間枠って」
「取れますね」
余裕を持って行動できる。




