Sid.12 大怪我を負い心配される
生身同様、怪我の度合いに応じて痛みを生じる。
骨折までしてるってことは重傷ってことだ。生身なら全治何か月になるんだろう。一か月以上激しい運動は避けるってことになりそうだよね。
でも生身じゃないからギルドで治療は可能。お金掛かるけど。次に来る時は完治した状態。
城壁の上で大声を出す人が居て、門が開くとセヴェリさんとトゥオモさんが出てきて「何があった?」とか「大丈夫か?」なんて気にしてくれてるようだ。
体を抱えられ門の中へ運び込まれ「ギルドに連れて行ってやるからな」と。
ギルドに運び込まれると「異界人の担当者を呼んでくれ」とセヴェリさんが言ってる。
受付嬢に目を向けると青ざめた表情をしてるし。
スタッフが出てくると「これはまた派手にやられてますね」と言って、別のスタッフを呼び出し待機室に運び込まれる。
後ろの方で「まあ死にはしないんだろうけど、今度何があったか教えてくれ」と言っていた。
待機室に入り急遽担架を用意され、その上に置かれると「完治させるには費用が掛かりますが」と言ってるけど。
「お願い……します」
「では、次回までに完治させておきます」
それと何にやられたのか気になるようで。
「無理に話さずとも良いのですが、何があって?」
森での経緯を話すと「全部倒したんですか?」と驚かれてしまう。しかも満身創痍の状態で戻ってきたことも驚いてるようで。
通常なら痛みの激しさから意識を失い、その場でリコールに至るそうだ。体は失われるが稼ぎや装備はその場に残るとは言うけど。あとで取りに行くこともできる。ただ、他の冒険者が持ち出してしまうことも。その場合は諦めるしかない。
「リコールしますか?」
「苦しいでしょう? リコールしてしまえば痛みから解放されますよ」
頷くと意識が一瞬飛んで狭い部屋が視界に入った。
「心拍と血圧と呼吸に乱れがありましたが、アバターの生命に危機が及んでいましたか?」
スタッフが顔を覗き込み、そんなことを言っている。
これも頷くと「ギルドでリコールしたのでしたら、ペナルティは無いので安心してください」だそうだ。
ヘッドギアが外され電極も外されると「借り物の体とは言え、痛みは生身と同じく感じますから」と言う。
「初心者の内は慎重な行動を心掛けると良いですよ」
少し慢心があったんだろうな。強くなったからと。
でも数で押されると痛い目を見る。やっぱり共闘できる仲間は必須だ。
アーススパイアホールをあとにし、次回の予約と思ったけど四回分は使い切った。
母さんに相談しないと向こうに行けない。出してくれるかなあ。来月まで待てばいいだけなんだけど、その間、向こうの体もそうだけど支払いもあるし。
今回一度だけってことで何とか出してもらおう。
家に帰り相談すると。
「向こうで死ぬとこっちの体はどうなるの?」
「死なない」
アバターは単に精神が入り込んだだけのもの。その世界で活動するための器。だから危険性はほぼ無いと言ってみるけど。
命を落とすような危ない遊びはやめて、と言われた。
それでも今回は例外として一回分、出してくれることに。
早々に予約を入れておく。
「その異世界って、どんな世界なの?」
「こっちで言う中世ヨーロッパ風」
「モンスターって人を襲うの?」
「遠慮なく向かって来るけど対処はできるから」
今までは一人で行動してたから、危ないこともあったけど、仲間さえできれば互いにカバーし合える。そうなれば安全性は高まるから問題無い、と言っておいた。
そして予約当日。
「痛みがあるって言ってたけど」
「あるけど、耐えられない痛みじゃない」
「なんで痛みがあるの?」
「リアリティの追求だと思うけど」
痛みもないゲームなんて本当に遊びでしかない。でも現地の人は生きていて痛みを感じる。条件を揃えておけばNPCだと思ってても、同じく命ある人だと理解できるだろう。それを目論んだんじゃないのかと言ってみる。
現地人を殺すような奴も居るけど、それはこの世界も同じだし。人の苦しみを楽しむ異常者はどこにでも居る。
母さんに見送られ家をあとにし、アーススパイアホールに行く。
所定の手続きを踏み異世界へ。
視界にスタッフが入る。周囲には僕と同様のプレイヤーが複数。次々立ち上がり冒険の旅に出るようだ。
スタッフに「治療費の支払いですが」と言われ金額を問う。
「打撲や擦過傷だけであれば十二スレブロですが」
骨折もあったことで倍の二十四スレブロだそうだ。まあ一万円に満たない程度なら。
ポーチから貨幣を取り出し渡すと「ソロは慎重さが大事ですよ」と言われてしまった。
「確かに短期間で強くなってますが、ソロだと行き詰まることになりますし」
分かっててもね、仲間ってそう簡単にできないみたいだし。一緒にこの世界にソウルシフトしてきた人たちも、さっさと冒険に出ちゃうでしょ。誰も会話すら交わさないし。
まあいいや。一応募集はしてるから。
「あの、それとレベルアップなんですが」
「倒した数から言えば上がっていそうですね」
ということで試すとレベル十八になってた。
「スカラーBランク昇格はレベル二十ですので、もう少しです」
さすがにそう都合よくはいかないか。でもまあレベルが上がったから良しとしよう。
体の調子もいいみたいだし前より軽く感じる。
待機室を出ると受付嬢が手招きしてるし。アイナだっけか。カウンターに向かうと耳を貸せと。
「この前、何があったんですか? ボロボロでしたよね」
「森で木のモンスターに」
「ネヴマデンドロですか?」
「えっと、それって」
樹木の精霊って意味らしいけど、森に入って来た人間を攻撃する木の化け物らしい。
たぶんそれ、と言うと。
「一体?」
「えっと十本以上」
しばし言葉が無かったけど。
「全部倒したんですか?」
「倒さないと、やられそうだったんで」
驚いたのと感心してるようだけど「あの、あんまり無理をしないでください」と言われてしまった。
ついでに手を取ると握られて。心配したんだろうな。この体は壊れても僕は死なないんだけどね。
それともう一点あるそうで。
「えっとですね。ヒロトさんが居ない間、応募してきた人が居たんですが」
お、早速。
「ですが森で大怪我したと知って」
「知って?」
「辞退されてしまいました」
何それ。
「巻き添えは嫌ってことでしょうね」
現在のレベルや何を相手にしたのか、など勝手に話はできないことで、引き留めることはしなかったそうだ。
一応、僕の同意を必要とするらしい。
「次からは言っていいです」
「ではそうしますね」
僕が特殊な存在だと知れば仲間にしたがる人は多いのでは、と言うアイナだけど。チート持ちを歓迎する人って居ないと思う。嫉妬されるだけだろうし。
何かしらズルをしてる、そう考えるだろうからね。そうなると仲間を得るのも難しいのか。
「私が冒険者だったら一緒に行きたいんですけど」
「受付ですよね」
「戦闘は無理なので」
掌の感触は柔らかいし腕も細いし、およそ戦闘とは無縁の感じだよね。
帰ってくること、またこの世界に来てくれることを期待し、待ってるそうで。なんか本気で惚れられたのだろうか。
あ、そうだ。
「じゃあ出るんで」
「いってらっしゃい。あ、他に女性居たり?」
「えっと」
「居るんですよね。誰です?」
なんか追及されてる。っていうか何で分かるの?
「親切にしてくれる人は」
「マリッカさんですか?」
「えっと、はい」
誰にでも愛想が良いから騙されるな、だそうで。
聖職者であり愛想は良くするし、優しく接するのも仕事なのだからと。慈悲深さを演出してるのだから絆されないように、だって。




