Sid.10 異世界でモテ期が到来か
魔結晶を見ただけでわかるんだ。
青い五百円玉サイズの魔結晶は、なんと十二ベリキで買い取ってもらえた。日本円で九万六千円だよ。それだけ危険なモンスターってことなんだろうけど。
赤い魔結晶が五個で十ベリキとなり八万円。緑の魔結晶が二個で十二ベリキとなって九万六千円。
今日一日で二十七万二千円の稼ぎだ。金貨が一枚混ざって出てきた。単位はクルタで一クルタ十六万円ってことらしい。
もしかして装備品とか買えるかもしれない。他にアイテムとかあれば、それも考えたいし。
受付嬢が真顔になって聞いてくる。
「魔法剣士ですよね」
「そうです」
「じゃあ、魔法剣士は強いのですかね」
「分かりません」
スタッフによれば成り手が居ないジョブと言われた。もし強いなら魔法剣士を選ぶはず。でも成り手が居ないってことは弱い、と思われてるからだと思う。
新人レベルの冒険者が一日で中堅冒険者並の稼ぎ。
「しかもソロで行動してますよね」
「仲間、あ、そうだ。誰か応募してきてませんか?」
「まだ居ませんよ」
「ですよねえ」
一日で集まる程甘くはないってことで。
「レベル五の実力ではないのは確かでしょうね」
「そうなんですか?」
「レベル五が二人居てコバロルムを倒すのがやっとです」
知らなかった。レベル五で二人じゃないと倒せないのか。
ソロで倒した僕って実はめちゃ強い部類?
「実はレベル十五くらいなんじゃないですか?」
「そうであれば嬉しいですけど、でも計測結果が」
「ですね。おかしいですよ」
「そう言われても僕にもわかりません」
急にカウンターに身を乗り出し顔を近付けてくる受付嬢が居る。
顔近いってば。この人も容姿は悪くないけど、なんか不愛想なんだよね。僕に対して少し冷たい印象があったし。無関心だったのもあるんだろうけど。
ぼそぼそっと耳元に話しかけてきた。
「怪我しましたよね?」
「あ、はい」
「治療は教会で?」
「そうです」
腕組みして「神の加護を授かったのかも」とか言ってる。
本当にあるの?
「あるんですか?」
「あくまで噂レベルの話ですけどね」
教会で治療してもらい寄付をして、神に祈りを捧げることで祝福を得ると。それがあれば一度は致命傷を回避できる、なんて噂があるらしい。
試した人も居たそうだけど所詮は噂だったと。何ら加護もなく死亡したそうで。ゆえに、そうであればいいな、程度の話になったそうだ。
そもそも冒険者は教会で治療なんてしない。その理由は完治しないからだけど。
「すぐに冒険に出たい人はギルドで治療しますからね」
リコールしている間に治療は済まされ、ソウルシフトした時点で完治しているそうだ。
治っているからすぐに冒険に出ることができる。
「でも最初に来た時は教会に行ってないです」
「あ、そう言えば」
またも腕組みして考えてる風だけど、そろそろ二時間経過しちゃう。戻らないと。
「あの、時間なので」
「もう二時間? 次回、また話を聞かせてください」
少し興味を持たれたのか。
「あの、戻りますんで」
「次回お待ちしてます」
二時間って短いな。四時間くらいじゃないと遠出できない。
でも、遠出したり魔王退治とかって、二時間とか四時間じゃできないと思うんだけど。みんなどうしてるのかな。
スタッフの人に聞いてみよう。
待機室に入るとスタッフが居て聞いてみると。
「四時間枠を二回とかですね」
「取れるんですか?」
「高レベル冒険者特典です」
レベル三十を超えると四時間取って、三十分から一時間程度の休憩を挟み、また四時間取れるそうだ。
元の体も意識がない状態に慣れてくる。アバターも長時間活動可能になる。
他の町へ出向いて、その町のギルドでリコールできるから、スタート地点も異なるわけだ。
また別の町からスタートすることも可能。一度行っていれば、の話らしい。
行動範囲が広がれば様々な町をスタート地点に選べる。今はまだ駆け出し冒険者ということで、この町周辺を散策するのが良いそうだ。
いずれの話ってことで。
リコールして元の世界に戻り予約を入れるんだけど。
試しに四時間で取ろうとしたら、エラーが出て予約できなかった。エラーメッセージも初心者は受付できません、だって。
まだ馴染めないからか。
後日再び二時間枠で異世界に来る。
待機室でレベルアップ可能かどうか先に確認することに。
「レベルですか?」
「はい」
「前回レベルアップしてますよね」
「でもオクタプレヴロを倒したんで」
ならばレベルアップしている可能性はあるそうで。
レベル・インプルーブメント・デバイスを使うと。
「凄いですよ。もうレベル十です」
「え」
「史上最速でレベルが上がってますね」
因みに四千円取られた。次はレベルが五上がるごとに四千円掛かるそうだ。
タグを渡してくれとなって渡すと、別の部屋に行き戻ってきて「おめでとうございます。スカラーCランクです」だって。
凄い勢いで駆け上がってる。
スカラーBランクまで行くと中堅冒険者扱い。一歩手前まで来てる。たった三回来ただけなのに。今回で四回目でしかない。
「過去に類を見ないですね」
何が起こってるのか、どうして低レベルで高レベルのモンスターを倒せるのか、リコールしている間に調査したいと言い出した。
この体を調べたいってことだよね。なんか嫌だ。でも必要となれば強制してでも調べるんだろう。
一応、今日終わったら調べてもいい、としておいた。
待機室を出て受付を見ると笑顔で手招きしてる。前と違い過ぎるでしょ。
仕方なく受付に行くと「レベル上がりましたか?」と聞かれ、タグを見せると仰天してるし。
「スカラーC?」
「なんか、そうなりました」
レベルを問われ答えるとまたも仰天。
額に汗を浮かべながら「例外中の例外ですね。今まであなたみたいな人は居ませんでした」だって。
「ここに手を置いてください」
「え」
カウンターに手を置いてくれと言われ、素直に応じて手を置くけど、何がしたいんだろう。
なんて思っていたら受付嬢が上から手を被せて来た。
「あ、あの」
「大きくはないのに強いんですね」
「いえ、あの」
見つめてくるその瞳は潤んでいて、恋愛経験のない僕でも勘付く何か。
「一緒に食事、と思いましたけど食べないんですよね」
「えっと、はい」
「二時間しかないんですよね」
「は、はい」
誘われてるのかもしれない。でもこの世界の人と恋愛関係になっても、先へ進むことはできない。だから意味がないしプラトニックな関係にしかならないでしょ。
それでいいのかなあ。
「あの、僕は異世界人ですよ」
「知ってます」
「この体も」
「そう、なんですよねえ」
残念そうな表情を見せる受付嬢だけど、僕の目を見て「私はアイナって言います。ヒロトさんですよね」と、手を掴んで自分の胸元に引き寄せてるし。
ねえ、これって惚れられたの?
「とっても残念ですけど、でも精神的な繋がりだけでも」
「あ、あの。僕は恋愛に興味ないんで」
「寂しいですよ。ずっとこっちに居られないんですよね」
「無理だと思います」
思いっきりため息吐いて「どうしてヒロトさんは異世界人なんでしょう」なんて言ってるし。
強い人って魅力あるのかな。この体が強いのであって僕自身、元の体は平凡なんだけどなあ。この体は所詮作り物だし。思考だけが自分のもので。
でもモテるってのは悪くないと思えた。
「外に行きたいんですけど」
「あ、ごめんなさいね」
いってらっしゃい、と笑顔で送り出された。
急なモテ期到来ってのもなあ。この体じゃなければ歓迎したかもしれないけど。現実の僕だと好かれないよね。ぼっちだし。
門を抜ける際にセヴェリさんに挨拶された。




