Sid.9 シスターに抱き着かれて
傷口に向けエルドクロット連射すると、徐々に後退して行く化け物が居る。
もしかして倒せたり?
なんて甘い考えを持ったのが運の尽きかも。
振り被るようにして襲いかかってきたし!
慌てて後退するも無理があった。その場でコケて上から巨大な口と牙。剣で受け止めるべく突き出す形になった。
突き出してどうする?
受け止められるわけがない。
でも口の奥に突き刺さって目の前で牙が止まった。
心臓がバクバクしてるし、手は震えるし、体も硬直気味だけど。
「え、エルドクロット」
口の中へ向けて火の玉を連射。
目の前で爆発するかの如く頭が炎に包まれる化け物だ。
同時に自分にも炎が降りかかって、熱いし顔が焼けてそうな感じで。たぶん髪や睫毛は燃えてる。
とにかく離れないと巻き添えで自分も大怪我だ。
剣から手を離し体を動かし化け物の頭から逃れる。足掻いてずるずる体だけ抜け出すと、同時に化け物の頭が地面に落ちてきた。
結構な衝撃音と共に残っていた自分の足が巻き添えに。
「いって!」
重みで足が潰れるかと思ったけど、引き抜くことができた。
痛みはあるけど骨折はしてない。たぶん。折れたらもっと痛いだろうし。
「あ、そうだ。剣」
頭の下敷きだよね。
死んでくれてれば消えてくれて剣は回収できる。でもまだ死んでないようだ。魔法って剣が無くても発動するのか。
振るえる手をかざしエルドクロットと唱えると、問題無く発動し火の玉を連射できる。
念のため頭以外の体にも火の玉を浴びせ続けると、三分ほどで全身が焼け爛れた化け物が居て炎が収まると消え去った。
深い安堵のため息が漏れる。
何とか倒せたけど、もう一匹出てきたら死ぬかも。
消えた化け物のあとには五百円玉くらいの青い魔結晶。それと剣。
立ち上がろうとするけど、少しふらつくし足は痛いし。それでも魔結晶と剣を回収し、痛む足を引き摺りながら森をあとにすることに。
これ以上の戦闘はちょっと無理がある。
コバロルムですらまともに相手にできないだろう。森の出口に向かい少しずつ進むと、こういう時に限って化け物と遭遇するんだよ。
「エルドクロット!」
軽快なステップなんて踏めないから固定砲台状態だ。
剣先を向けとにかく魔法を放ち続ける。下手な鉄砲も数撃てばって奴で。二匹向かって来ていたけど、しっかり撃ち落とせたようだ。
足を引き摺り魔結晶を回収。一円玉サイズの赤い奴が二個。
ここまでで随分と魔結晶を手に入れられた。このまま無事に戻れれば何も失わずに済む。
暫く歩くと森を抜けた。
「やった」
ここからは出てきても弱い化け物くらいだ。遭遇して倒したところで一円にもならないけどね。
無駄だと思うけど、戦闘に慣れるって意味では有効なんだろう。
街道を足を引き摺りながら移動し、何とか門まで辿り着き城壁の上の哨兵に合図する。
門が開いて中へ入ると門衛が僕を見て「酷い有様だな。何を相手にしたんだ?」と聞いてきた。
「蛇の頭を持った、八本足の」
なんか驚いてる。
「それってオクタプレヴロ、じゃないのか?」
「え、なんです、それ」
「森に入ったんだよな?」
「あ、はい。そうです」
オクタプレヴロとは八本足の蛇のような化け物らしい。町の衛兵では手も足も出ないとかで、危険モンスター扱いなのだそうで。ただ、森から出てくることはなく、冒険者が狩りに行くくらいだそうだ。
「まあ中堅冒険者なら手こずらないらしいけどな」
スカラーに昇格したばかりの冒険者が倒した、ってのが驚いた理由だと言ってる。
「でも何で火傷してるんだ?」
「自分の魔法で焼けました」
少し呆れるも接近戦になったと言うと「よく生き残れたな」と感心していた。
「お前、名前は?」
「え」
「名前だよ。運がいいのか悪いのか、実力があるのか無いのか」
変わった奴だから名前を教えてくれと。
名乗ると門衛も名乗ってきて「セヴェリだ。それとこいつはトゥオモ」と言って、セヴェリと名乗った門衛の隣に立つ門衛の名も教えてくれた。
「ヒロト、か。他の冒険者とは違うみたいだしな」
「腰が低い。興味深いな」
なんか興味を持たれたみたい。
怪我してるなら教会で治療してもらえと言われた。
「火傷もその程度なら治るだろうからな」
「マリッカだな。もう知ってるんだろ?」
「あ、はい。先日治療してもらいました」
「可愛い子だろ」
へらへらと笑いながら「手は出すなよ」なんて言ってるけど、肝心なものが無いから問題無いと思う。可愛らしいとは思ったけど。
この世界の人は知らないのかな。
門衛と別れて先に教会へ行くことに。
白い塔のある教会。
中へ入るとマリッカが居て僕に気付くと歩み寄ってきて「酷い怪我をしてます」と言ってベンチに腰掛けてと言われる。
「前より酷い怪我ですよ。痛みませんか?」
「痛いです。あ、足も」
「足ですか? 見せてください」
ベンチに腰を下ろし裾を捲ると「痣になってます。でもこのくらいなら治します」と言って、手をかざし何やら詠唱すると少しずつ痛みが引いていく。
足の痣が消えて痛みも引くと続けて顔も見てくれる。
「顔も治しますね」
前髪は焦げて縮れて眉毛も縮れてるらしい。顔の皮膚も爛れていて完全には治せないが、できるところまでやってくれるそうだ。
「髪とか睫毛とか眉は生えてくるのを待つしかないです」
焼けて爛れ気味の皮膚の治療を済ませ、ひりひり痛む感じも無くなった。
「何を相手にしたのですか?」
「えっと、オクト何とかってモンスターです」
「オクタプレヴロですか?」
「あ、それです」
良く生きて帰れたと。なんか知らないけど抱き着かれた。
「初心者の冒険者さんだと遭遇したら生き残れる確率が低いです」
これまでに何人も死んでるそうだ。まあこの体が死んでも元の体は問題無いから、何度でもチャレンジできるってのはある。お金さえ払えばレベルも維持できるし。
だから気楽なゲーム感覚で挑むんだろう。慎重さと緊張感が欠如してる可能性はある。
でも、この世界の人は死んでも生き返れない。NPCじゃないから。
離れると「冒険者さんは何度でも生き返れるのですよね」と言って、少し落ち着いた感じになった。
「ですが無理はしないでくださいね」
眉尻を下げ僕の頬に手を当ててる。小さな手だけどなんか温かい。
「あの、いずれお話しできると思いますけど」
「何をです?」
「いずれ、です。今は」
聞くなってことか。勿体ぶられてるけど惚れたとか? それだったら嬉しいには嬉しいけど、この体じゃなあ。何もできない。
実に健全と言えば健全。
あ、違うか。惚れたとか、つい都合よく考えてしまう。
「えっと、じゃあ寄進するんで」
「はい」
ポーチから十スレブロ出して渡そうとすると「そんなに受け取れません」とか言ってる。
でも気持ちの問題だからと受け取ってもらった。
「神のご加護がありますように」
ついでに祭壇で祈りも捧げておく。運よく生き残れたのも神の加護のお陰、と思っておけば気分も悪くないし。
魔法があるんだから神様だって居るかもしれないし。
マリッカに見送られ教会をあとにし、その足でギルドに向かう。
受付嬢と目が合った。カウンターの前に立つと「髪と眉毛とか睫毛、どうしたんですか?」と聞かれる。
オクタプレヴロとか言うモンスターとの戦闘で、と説明すると。
「レベル五のスカラーDランクで良く倒せましたね」
「運が良かったんです」
「普通は死んでますよ」
レベル一でコバロルムを倒し、レベル五でオクタプレヴロを倒した。一般には成し得ないことをしているそうだ。
「運が良い程度では不可能です」
「そうなんですか」
魔結晶を出すと「本当なんですね」とか言ってる。




