Sid.110 圧倒的な数で押してくる
決断と同時にフレージアが戻ってきて「右の洞窟が五階層に繋がってるよ」と報告してきた。
中央の洞窟は行き止まりらしい。しかも奥にはひしめくモンスター。左の洞窟はミミズの住処だと言ってる。直径八十センチほどの穴が無数に開いてるらしい。胴体径が八十センチとなると相当な大きさになるかも。土の中を移動しながら攻撃して来られると厄介だ。避けた方がいい。
「右の洞窟に出てくるモンスターは?」
種別としては人型らしい。
「人型?」
「うん。おっきくて棍棒持ってる」
姿形のイメージが掴めず、地べたに姿を描いてもらうことにした。スティレットを渡すと抱え持ち描くけど。
「馬?」
「違うよ。人型」
胴体に比して長い足が四本。腕も四本あるから馬じゃないのか。装備は棍棒。
「あとね、顔が二つあるの」
「頭?」
「違うよ。顔だよ顔」
左右にそれぞれ一つずつあるそうだ。描かせるとフレージアを画伯と呼びたくなる。これは良い意味じゃない。下手だからね。仕方ないけど絵心は無いのだろう。
まあ行けばわかるわけだし、武器を使うのであれば魔法で倒すに限る。接近戦で殴られるよりは。
「大きさは?」
「こぉんのくらい」
地面から飛び上がり僕の背を越えて、二メートル半くらいでホバリング。それなりに大きいけど近付かせなければ脅威じゃないと思う。
接近して来たら盾の魔法で防御して、攻撃はユズとヴィーラに任せればいいか。
マサも斬撃を飛ばせるから、また三人で対処してもらうことになる。
「じゃあ行きましょう」
「あ、他にも居るよぉ」
「どんなの?」
「狼」
他にも居るのか。
まんま狼ってことは無いだろうから、地べたに描かせることに。
体の前後に頭が一つずつ。頭頂部には角が一本。足は六本あるようだ。体の前後に頭があると死角はないのか。それにしても頭がそれぞれって、生物だとしたら排泄とか交接に影響あるのかな。首辺りから排泄だったら嫌だなあ。視界に入るよね。それとも腹の方に肛門があるのかな。ああでも、刺胞動物は口から排泄するんだっけ。
ああ、どうでも良いことだった。そもそも生物じゃないし。
でも、各々進もうとする方向が違う場合、どうなるんだろう。前後で引っ張り合いするのかな。
「あと尻尾とか」
「ないよ」
注意点としては火を吐くらしい。
まあ四人で何とかなると思う。僕は見学。危なければ介入するけど。
「行きましょう」
立ち上がる面々。そして洞窟を進むことに。
暫く進むと先に遭遇したのは狼だった。確かに頭が二つ体の前後にあるようだ。
「角の生えた、なんだあれ?」
「狼みたい」
「奇妙だよね」
呑気に感想を言ってると火を吐き出され、慌てて後退する面々だけど。
「マギスクスコル」
咄嗟にフラウが魔法の盾を張り炎を防ぐ。でも欠点はもう一つあって、盾を張っている間は自分は動けないみたい。移動する際は解除して移動先で新たに張る。
マサが前に出て斬撃を飛ばすと、前方の首が落ちるけど後方の首を向けてきた。死なないんだ。頭が二つあるからかな。
とは言え向いた瞬間、斬撃を飛ばし首を落とすと、あっさり消え去ったようだ。
「強くはないのか?」
「一匹しか出てきてないからでしょ」
「だよな」
「これでまた集団になったら」
矢継ぎ早に火を吐かれると遠方からの攻撃だけになる。接近戦は無理だろうと。
三人は中近距離攻撃できるし。遠距離は試してないから、どこまで飛ぶかは不明だけど。
魔結晶を拾い進むと今度は人型が出てきた。手には棍棒を持ち四本足で向かって来るようだ。
「人型には違いないんだろうけど」
「足も腕も何で四本ずつなの」
「この世界のモンスターって変わってる」
フラウが前進し盾を展開しマサが斬撃を飛ばし、ユズがエルドスピュートで体を穿つ。ヴィーラは集団戦になるまで温存するようだ。
攻撃を食らう人型だけど意外にしぶといようで。狼のように簡単には斬撃で斬れず、炎の槍でもダメージは少ないようだ。
「かったいな」
「近付いてくる」
棍棒を上段に構え振り下ろしてくるけど、魔法の盾が防ぎ一度は攻撃が止まる。
再び振り上げると勢い棍棒を振り下ろす。二度の攻撃で盾が消失したようで、急いで展開するフラウが居る。二発で駄目になるのか。
「インレコラプス!」
ユズの魔法が発動すると人型が血を吐き倒れた。どうやら体内を破壊されたようで。体表が幾ら丈夫でもね、中身は脆いだろうから。効果覿面のようだ。
「一発で仕留められました」
「ただ、数で押されたら」
「手に負えないです」
連発できない魔法だからだそうで。魔法使いの魔法は強力ではあっても、僕の魔法のように連射できないものが多いみたいだ。
エルドスピュートとかは一応連射タイプだけど、あれも溜めておく必要があるし。
少し大きな魔結晶が転がり拾っておいた。
「進みますよ」
「なんか余裕あるな」
「脅威には感じないので」
「まあそうだよな」
レベル六十は伊達じゃないのだろうと。
まだみんな余裕があるにはある。数で押されたら厳しいかもしれないけど。
少し進むと狼と人型の混合部隊と遭遇。しかも数が多い。小手調べが済めば実力に応じた数を揃えるのだろう。
先陣を切って狼の群れが接近し、次々火を吐き出し攻撃してくる。
「マギスクスコル!」
フラウも慣れてきたのか防御が早くなった。すぐに盾を展開するとマサが斬撃を飛ばす。狼であれば斬撃で倒せるから。
ユズがエクスプロフーンを使い吹き飛ばす。エクスプロディエラは危険ってことで、洞窟内で禁止したから違う爆発系魔法を使うようだ。
ヴィーラも精霊を呼び出し攻撃させるけど、三種呼び出しても最大で三十匹までしか倒せない。すぐには呼び出せなくなるし。
圧倒的な数を前に徐々に押され始める面々だ。
洞窟を埋め尽くすほどの数だし。幾ら僕が居るとは言え、この数は反則でしょ。
「ヤバい。間に合わない」
「走ってくるから魔法が」
「盾もあんまり持たない」
「あたし、暫く打ち止め」
僕の頭をポンポンするフレージアが居る。
「無力化」
「まあ仕方ないね」
「やるよぉ」
フレージアにより押し寄せる狼が瞬時に無力化された。洞窟を塞ぐ狼のせいで人型は向かって来れない。
無力化されている間にマサとユズで削って行く。僕はと言えば見てるだけ。
「ヒロトは何もしないの?」
「僕が出ればすぐ片付くけど、それだとみんなが成長できない」
「ふうん」
ある程度残すとフラウの居る場所まで戻る二人だ。あえて無力化された狼を残せば、人型の移動に制限が掛かり体勢を整えられる。
体勢を整え迎え撃てる状態になると、片っ端から攻撃し消滅させると人型が向かって来た。
「かなり厄介なんだよな」
「インレコラプス!」
斬撃を飛ばすマサと魔法で内部から破壊するユズ。マサの攻撃は充分に通らないけど、ユズの魔法は効果があるけど集団戦には向かない。
少し手詰まり気味だ。四人の視線が僕に向くんだよね。
突進して来られると身を守り切れなくなる。僕がやるしかないか。
「あたしがやりたい」
「フレージアは駄目」
「なんでぇ」
「言ったでしょ。生命力が僕に集まっちゃうから」
仲間に割り振られないからソロの時だけ。四人のレベルアップで来てるんだから、フレージアが攻撃したら意味がなくなる。
「ジーベンス!」
一度に複数の対象を攻撃できるアイテム魔法。相手のレベルも少し高いだろうから麻痺してくれればいい。
放つと閃光と轟音が響き渡り、向かって来る集団の前列がバタバタと倒れる。
止めは三人にやってもらおう。
と思っていたけど倒れた人型が片っ端から消えてるし。
障害物が無くなれば後続が群れを成して向かって来る。




