Sid.109 跳ねる魚と地底湖で遭遇
四階層の長い洞窟を進むとスライムの団体と遭遇。
早速フラウがマギスクスコル、即ち魔法の盾を展開すると、ぼんやりと目の前に膜のようなものが広がった。若干濁った感じで視界を幾らか遮る。透明じゃないのか。
ユズが触れて確認してるようだけど。
「硬いです」
「おお、壁があるのがわかるな」
「へえ、これ、どの程度まで守れるの?」
「まだわからないけど」
攻撃はマサがアクティブスキルである、スネーストレッキで試してみることに。
剣を抜き横に構えると腰を落とし暫し動かず。
「すぐ発動しないんですか?」
「溜めが必要みたいだ」
そして剣を振ると見えない刃が発生したらしい。直前に迫るスライムの戦闘集団が上下に裂けた。何のエフェクトもないスキル。使われたら避けようがないかも。
当然だけど溶解液の飛沫を被りそうになる。でも不透明な盾に張り付く感じで、そのまま下に流れて行くようだ。都合の良いことに盾の内側からは攻撃が通る。外側からのものはしっかり防御する。ご都合主義だ。
とは言え団体で押し寄せてくるスライムゆえ、一発放っただけでは全てを排除しきれず。
続いてユズが魔法で片っ端から排除して行く。レベルが上がったことで威力が幾らか増したようで、効率よくスライムを倒してる。
だけど百匹を超える辺りで息切れを起こしたようだ。疲れて地べたに座り込んでるし。幾ら魔法の盾があるからって気を抜きすぎでしょ。
ユズは体力面に難があるな。もう少しなんとかすれば固定砲台になれるのに。
マサは一定間隔で剣を振り斬撃を飛ばす。疲れは無さそうで何度も繰り返すようだ。
ヴィーラも精霊を呼び出し攻撃させるけど、制限が掛かることで少しすると打ち止め。
魔法の盾は持続時間なのか、一定程度のダメージなのか、ある程度で消えてしまう。改めて張り直すことを繰り返すこと七回。
「終わった?」
「全部倒しきれたか」
「反応は無いですね」
「つっかれたぁ」
僕とフレージアは観戦してただけ。手を貸さずに済んだってことは、四人のレベルアップの効果は大きかったってことだろう。
全員が地べたに腰を下ろし疲れた感じだけどね。
「アクティブスキルって効果範囲が広いんですね」
「ああ、そうみたいだ。これは使えるな」
溜めが無ければ、もっと便利に使えると言ってる。ごく短時間とは言え動作が止まるから、どうしても隙ができるのが欠点。
「あと魔法の盾もしっかり防いでくれてます」
「使ってる時に気を抜くと消えるみたい」
マギスクスコルにも欠点があるそうで。集中していないと消える。盾を展開中は常に魔力を供給し続けているらしい。
途切れると同時に消えてしまうことで、維持するのが面倒なようだ。
「誰か怪我して治療が必要になるとね」
盾を張ることができない。同時に複数のことはできないから注意は必要だろうと。
その辺は物理的な盾とは違うところか。魔法で発現させるわけだし、メリットだけってことはないのだろう。
でも仲間を守れるってことは大きい。
あとはヴィーラの成長があれば、このグループに僕が居なくても存分にこの世界を楽しめると思う。
団体のスライムを倒し暫し休息ののちに地底湖を目指し進む。
地底湖に到着するまでに、もう一回スライムとの戦闘があった。難なくクリアし地底湖まで辿り着くけど。
「光源が一つだと」
「ほとんど見えないね」
「ヒロトは見えてる?」
「僕は問題無いです」
フラウの放つ光源は一つだけ。複数発生させることはできないようで。
松明を使うと手が塞がるし、明るさも充分とは言えないし。慎重に進むしかないのだろう。
僕が充分に気を付けていれば大丈夫だとは思うけど。
「進みますか?」
「見てても仕方ないからな」
「隊列は?」
「僕が先頭を歩くしかないですね」
ひし形の陣形で進むけど先頭は僕。左右にユズとヴィーラ。真ん中にフラウで殿はマサ。
橋を渡り始めると無数の反応を感じ取れる。続々と橋の周囲に集まる何かだ。
「あの、凄い数が向かってるので」
「魚か?」
「何かまではわかりません」
「ちょっと思い出した」
森で遭遇した水のモンスター。あれだとしたら厄介だと言ってる。引き摺り込まれたらどうなるか。見た目はただの水だったけど、引き込む力は強かった。
でも違ったようで。
一斉に橋の両側から飛び出す水棲モンスターだ。
「ウンディーネ!」
ヴィーラが即座にウンディーネを呼び出し、向かって来る存在に攻撃してる。
水流で包み込み撹拌し遠くへ飛ばしてるようだ。魔結晶の回収は無理みたい。
ユズはエクスプロディエラで対応し、使うと湖面が盛り上がり広範囲に水飛沫が上がる。当然だけど音もすさまじい。
「ピラニアに羽が生えてて足もありますね」
「何だそれ」
「半漁人みたいな感じ?」
羽、とは言ったけど胸びれが羽みたいになってるだけ。トビウオと同じ感じで。
尻びれ付近から足が四本生えてる。あれで歩き回れるのだろうか。
大きさは三十センチ程度。魚として見れば大きいけど、モンスターとして見れば小型だ。
一匹向かって来たから掴んでみると手の中で藻掻く。フレージアが僕の行動に疑問を抱いたようで。
「ヒロトなにしてんのぉ」
「観察」
「食べるの?」
「食べない」
噛みつかれさえしなければ強いモンスターじゃないな。牙は凄いし足で蹴りを入れてくるけど、攻撃力はさほど無いみたいだし。
手に力を込めて握ると拉げて消えてしまった。その際に魔結晶を落とす。小さいものだし価値は低そうだ。
「弱いね」
「魚だし」
僕の後方では乱戦状態になってる。
マサは溜めからの斬撃飛ばし。何度も繰り返してる。ユズは魔法で吹き飛ばしヴィーラは三種類の精霊を交代で使ってる。フラウは魔法の盾を発動し防御に専念。
僕は松明を手に見てるだけ。危なくなれば手助けするけど、今のところ問題は無さそうだし。
暫くすると静かになったようで。
「数が尋常じゃない」
「次々出てくるし」
「ねえ、ヒロト君だけの時も同じ感じ?」
ここまで大量には出てこないにしても、数で押してくるのは定番だった。
「これより少し少ないくらいです」
「全部相手にしてるのか?」
「相手にしないと怪我しますし」
「それができるのがねえ」
ソロの時は相当な無茶をしてるのかと。時に無理を通すこともあるけど、そんな時はぼろぼろになって帰って来てる。
そう言えば背中に背負ってる長剣、使ってないなあ。せっかく買ったけど味方と距離が近いと巻き込みそうだし。もっと広い場所かモンスターに囲まれた時だよね。
橋の上で暫し休息を取り移動を開始すると、またも大量のピラニアの群れが飛び掛かってくるわけで。てんやわんやになり、それでもレベル上昇の恩恵だろう、何とか切り抜けると橋を渡り切れた。
「なあ、もうレベル上がったと思わないか?」
「そうよねえ。どれだけ相手したか」
「ここで引き返すの?」
「五階層の情報程度は欲しいですね」
橋を渡り切った先には広いスペースがあり、その先に洞窟が三つあるようで。いずれか進むと五階層に向かえるのだろう。
フレージアが「偵察してくるよぉ」と言うから任せることに。
戻ってくるまで休憩と言うことで、地べたに腰を下ろす面々だ。
「あたしは戻ってもいいかな」
ヴィーラは戻ってレベルの確認と、新たな精霊を手に入れたいようだ。今使える精霊は制限が多く攻撃力も低いから。次に手に入る精霊には期待してるんだろうな。
マサは進みたいようでユズも進みたい。フラウはどちらでも構わない。
「ヒロトは?」
「とりあえず五階層に向かう階段まで行きたいです」
リーダーは僕、と言うことでリーダーの意見が尊重された。




