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Sid.105 怒涛の大群が襲い掛かる

 ムササビの化け物が大挙して押し寄せてくると、一時的にパニック状態に陥るようで。

 噛まれたり引っ掻かれたりで、怪我をする面々だけど僕だけ無傷。手で払うと拉げてしまうからだ。こんな浅い階層は僕が攻略する場所じゃない。もっと深いところまで行かないと。

 手古摺るメンバーに群がるムササビを排除すると、口々に女性の顔を狙うなんて、と文句を漏らす女性陣だ。


「男でも顔は嫌だぞ」

「マサの顔なら問題無いでしょ」

「あのなあ」

「ヒロト君は綺麗ねえ」


 力の差があるからだと思う。それと光源に頼ってるから暗がりだとつらいでしょ。僕は暗くても見えるから向かって来ればわかるし。

 滑空時にほとんど音がしないのも、見えないメンバーにとっては不利だろうなあ。

 フラウが治療を施し怪我が治ると再び進む。


「痛い!」

「また噛んできた」

「こいつら鬱陶しい」

「ヒロトさぁん!」


 またも同じ状況に陥る。少し進むと群がるムササビ。どれだけの数が居るのやら。

 僕に抱き着いてくるユズだけど邪魔だってば。叩き落とせないでしょ。


「ヒロトくぅん」

「あ、あの」

「守って」


 守りたいけどユズ同様に抱き着かれたら邪魔なんだってば。

 ユズの真似をしたのか女の子を意識してるのか、こんな姿一度も見せなかったのになんで?

 絡む女性二人が邪魔だけど腕を振り回し、群がるムササビを排除すると静かになった。


「もう、怪我を治したばっかりなのに」

「少し進むだけでこんな調子なの?」

「数が多すぎるな」

「思うように進めないですぅ」


 天井に張り付くムササビが滑空攻撃してくるわけで。数匹程度なら楽勝でも一回に付き五十匹は向かって来るからね。幾ら弱いモンスターと言えど、薄暗い中では対処も容易じゃない。

 これ、レベルが二十くらいだと苦戦するんだろうなあ。でもレベル三十五程度あれば七階層くらいとか言ってたのに。二階層や三階層で苦戦してる。ああ、そうか。僕が居るからだ。


「数多すぎない?」

「すみません。僕が居るからだと思います」

「そうだよねえ」

「ヒロト君のせいだと思いたくないけど」


 でも僕のせいだ、と言いながら「しっかり守ってね」だそうで。

 治療が済むと移動するけど、これ何度繰り返せばいいんだろう。


「また噛んできたぁ」

「くそ! いってえなあ」

「いたたた」

「顔はやめてよぉ」


 いちいち大騒ぎになるし、一回目二回目より数が増えてきてるし。薄暗い中で剣を振り回しても当たらないから空振りし捲るマサだし。

 魔法で排除するユズだけど適当に撃つから、周りのメンバーが危険な状況になる。都度僕が弾いて被弾しないようにしてるけど。

 そしてモモンガに攻撃されないフレージアだけ、どこ吹く風状態だし。


「ねえねえ、あたしが無力化してあげようか」

「試練は乗り越えるためにあるから」

「つまんなぁい」


 フレージアの無力化は効果的だけど、みんなに戦闘慣れしてもらうためだし、乱戦で倒せる術を身に着けないと今後も苦戦する。

 そう思っていたけど、洞窟内を埋め尽くす数が出てくると、最早戦闘にすらならないようだ。


「無力化ぁ」

「僕がやる」


 進行方向に向け衝撃波を放つ。指向性を持たせれば僕より後方に影響はないはず。

 でもちょっと見積もりが甘かったようで。

 後方で衝撃波の余波に晒されるメンバー。全員が軽く吹き飛ばされた。壁に反射してあらぬ方向に向かうみたいだ。いや、あらぬは違う。凹凸の激しい洞窟内で衝撃波を発生させれば影響は極めて大きい。光よりも回折しやすいだけに反射して響き捲る。多少の指向性程度は意味がなかった。もっと絞らないと。

 腹に響く重低音まであって一時的に難聴状態になるメンバーだし。

 狭い場所で使うものじゃないな。


「ヒロトヒロト」

「何さ」

「無力化なら影響ないよぉ」

「悔しいけどそうだね」


 とは言え一発放つと数百メートル先まで処理できてる。

 弾き飛ばされたモモンガの集団が、進んだ先で塊になっていたようで。洞窟内を埋め尽くす状態で身じろぎ一つしない。あとは煮るなり焼くなり好きにできる。


「酷い目に遭った」

「ヒロト君。もう少し考えて欲しい」

「まさか味方に吹き飛ばされるなんて」

「ヒロトさん無茶苦茶ですぅ」


 謝罪はしておいた。

 何やら会話をしながらモモンガを潰すメンバーたちだけど。


「ヒロト君の魔法の方が影響が大きいかも」

「だよなあ」

「妖精さんの無力化の方がいいです」

「便利そうだよね。場所を問わないなら」


 モモンガの処理が終わり奥へと進む。そして進んだ先に扉があった。


「この先に待ち構えてたり?」

「居るよぉ」

「どうせヒロトが先に入るんでしょ」

「レベル高いので」


 何かあった際に即座に対処できるのと、ダメージを食らい難いから。マサでもいいんだけど盾が傷むだろうし。高そうな盾だからなあ。

 何度も買い替えできる代物じゃないと思う。


「じゃあ開けます。みんな少し離れてください」


 扉を押し開けると広い空間があった。空間の最奥に鎮座する存在は階層主かな。

 鎮座する存在の上を飛び回る、ここでもモモンガが無数に居るようだ。


「先行するので少ししたら入ってきてください」


 どんな攻撃をしてくるかわからない。リスクは最小限にしたいから、僕だけ入って敵の動きを見ることに。僕だけ、とは言ってもフレージアは一緒に居るけどね。頭の上に乗って面白がってるから。

 少し進むと動き出す存在は巨大なモモンガだった。全長三メートルはありそうな。

 しかも頭が三つあって腹に足が十脚。全てに鋭い爪があり「ぶぉー」と鳴く。微塵も可愛くないな。

 のそっと動き出すと壁によじ登ろうとしてる。


「エルドクロット」


 登ろうとする先の壁に向け火炎弾を放つと「ぶぉー」と鳴き僕に視線を向けてる。

 邪魔されて登れない。登れなければ滑空攻撃もできないでしょ。なんか間抜けな階層主だな。


「みんな入ってきてください」

「大丈夫なのか?」

「階層主は僕が抑えるので、取り巻きを攻撃してください」


 ぞろぞろ入ってくるメンバーが臨戦態勢になると、取り巻きのモモンガが一斉に滑空攻撃をしてくるけど、数は洞窟内と異なり少ないから楽に処理できる。

 階層主のモモンガには高い場所へ移動させない。地べたを這うモモンガなんて敵じゃないでしょ。巨大だからか動きも鈍いし。


「ヴィーラさんは取り巻きを、ユズさんはボスを攻撃してください」


 マサには後衛三人の防御をしてもらう。

 精霊を召喚し滑空して来るモモンガを撃ち落とし、ユズの爆弾魔法でボスにダメージを与え続ける。

 ある程度弱ったボスだけど、ぶるぶる震え大きな鳴き声を発すると、空間内に衝撃波が発生したようだ。

 衝撃波の影響でメンバーたちが転がる。僕は耐えたけど。レベル差だろうなあ。


「ヒロトかと思ったら違うのかよ」


 ゲームでもあったなあ。HPが減ると攻撃方法が変化する奴。こんなところで再現しなくてもと思う。

 転がっていたユズだけど起き上がり、再び魔法で攻撃すると断末魔の悲鳴と共に、巨大モモンガが倒れ消滅したようだ。


「なんか、階層主の方が楽だった」

「数が限られてるからですよ」

「そうだよねえ。洞窟の方が酷かったし」


 倒すと壁の奥に新たな階段が出現する。


「まだ進みますか?」

「この辺で戻ろう」

「また大量のモモンガに襲撃されるんでしょ」

「フレージアに無力化してもらいます」


 行きはしんどいけど帰りは楽してもいいと思う。ユズとかヴィーラは疲れてるみたいだし。

 フラウも少し疲れ気味のようで「こんなに回復したのは初めてかも」だそうで。


「戻ったらレベル上昇に期待できますよ」


 レベルが三つか四つは上がっていて欲しいと口々に言ってる。

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