Sid.104 階層主を倒し先へと進む
炎や雷に風が吹き氷の壁の向こう側では、激しい戦闘が行われているようだ。
棘が飛んでこないことで、こっちに感ける暇は無いのだろう。三体の精霊による攻撃は各十回と制限付き。攻撃回数が規定数に達すると消えてしまう。
まだ倒しきれていないようで。
「氷にひび入ってきた」
「張り直します」
氷の壁を張り直し防御するけど、同時に攻撃もし難くなる。
エルドクロットなら誘導できるから、モンスターの位置さえ把握できれば、倒せるとは思うけど。
僕が倒してしまうと意味がない。
「マサさん」
「なんだ?」
「一人連れて左右どっちからか攻めてみませんか」
マサには文字通り盾となってもらい、後ろから魔法使いに攻撃させる。ユズだけどね。
防御に限界が来たら僕と交代して後衛を守りながら攻める。
精霊は少し休ませておきたいし。
「棘が大きすぎるのと勢いがありすぎるから」
盾がもたないかもしれないと。
不便だなあ。人の作る道具はモンスターに対して、あまりに無力な気がする。
「じゃあ僕が盾になるのでユズが魔法で」
「ヒロトさん。大丈夫なんですか?」
剣で弾いていたら同じことだ。すぐ折れてしまうだろうし。でも氷の壁を小さく展開できれば盾として充分機能すると思う。破損しそうになったら張り直せるし。
何度でも復活させられるから、金属製の盾より使い勝手はいい。
説明するとマサが「魔法って便利だよなあ」と言って、幾らか残念そうな表情を見せる。
「フィクションみたいな素材ってないのか」
「ないでしょ」
「都合良すぎ」
マサの言葉にヴィーラとフラウが否定してる。
ミスリルもオリハルコンもアダマンタイトもない。ドラゴンの鱗だってないし、そもそもモンスターは素材にならない。
消えちゃうからね。
「じゃあユズさん。僕の後ろに」
「頑張ります!」
残る三人のために氷の壁を張り直し、自分の前には氷の大盾を発生させる。しっかり頭の中でも思い描けばサイズも自在なようで。
後ろにユズが付いて見える範囲で攻撃してもらう。敵は大きいから後ろに居ても視界に入る。
氷の壁から数歩出ると凄まじい勢いで棘が射出された。
ガリガリ削られる氷の盾だけど、守りに専念していれば、破損して間に合わないなんてことはない。
「エクスプロフーン、エクスプロフーン、エクスプロ……」
何それ。
攻撃対象の前に火炎球が発生し爆発する、新たに得た魔法のようだ。そう言えばレベル二十を超えたんだっけ。高い攻撃力を持つ魔法を手に入れたんだね。
何発も噛ますと棘が飛び散り周囲に飛散し、球体の至る所が削れて歪な形になってる。
幾度も攻撃されると、さすがに棘を飛ばす余裕はなく、その場を動き出し後退するようで。
「もう少しです」
「エクスプロフーン!」
削れた場所に発生させると球体の奥にもダメージ。結果、限界が来たようで崩壊すると消え去った。
氷の盾が邪魔になり放り出す。ついでに氷の壁も邪魔だけど、自然に消えるのを待つことに。
「なんかすげえ魔法」
「魔法使いってレベル低くても使えるのね」
「あたしが一番弱いのかなあ」
ヴィーラはさらにショックを受けたのかも。レベル二十台の魔法使いの方が、強烈な魔法を扱えるからだと思うけど。
対して精霊召喚士が召喚する精霊の攻撃力はそうでもない。だからこそ天使や悪魔召喚を期待するんだろうなあ。
「あ、ねえ。モンスターの居た場所の奥に」
「下層階への階段だな」
「じゃあれがフロアボスみたいな?」
「たぶんそうだと思います」
先へ進むかどうか。
「偵察してきてもいいよ」
言うと思ったけどね。フレージアが偵察すると言うことで、階段の先を見てきてもらうことに。
「じゃあ行ってくるねえ」
そう言うと飛んで行き姿が見えなくなる。
残ったメンバーは暫し休憩を取ることにした。地べたに腰を下ろす面々だ。
「ジョブって変更できるのかなあ」
「今さら?」
「だって、弱い」
「まだわからないだろ」
たかだかレベル三十台。レベル六十の僕を引き合いに出し「六十でも使える魔法が数種類なのがヒロトだぜ」と言ってる。攻撃に使える魔法は火炎弾と収縮だけ。蛙化は無力化するだけ。あとは衝撃波。ジーベンスはアイテムだし。氷の壁と足場と暗視は防御や補助。
しかもレベル六十で、だからね。とは言え工夫次第でどうにでもなるのが利点。元より器用貧乏なのが魔法剣士だし。
精霊召喚士は魔法剣士同様、成長の遅いジョブなのかもしれない。レベルが上がった先に何があるのかはわからないけど。天使や悪魔召喚は無いんじゃないのかなあ。
「変更できるなら魔法使いがいいな」
「まあ俺も魔法使ってみたいけどさ」
「でしょ。圧倒できるよね」
確かに魔法使いは成長すれば圧倒的な火力を得るのだろう。
「だけどさ防御力は紙レベルだろ」
「ヒロトが居れば大丈夫でしょ」
「ヒロトが居るなら魔法使いも要らないだろ」
「あ、そうだよねえ」
ソロで洞窟攻略できる力がある、とか言ってるし。その僕ですら手も足も出ない相手が居た。あれは強いとかそういう次元じゃない。レベルを幾つ上げれば倒すに至るのか。
底が見えない相手ってのは恐怖でしかない。魔族より強いかもしれないし。
でも倒さないと農地にモンスターが出没するし。発生源を叩けば周囲は安全になると思うから何とかしたいけど今は無理だ。
「ヒロトヒロト!」
フレージアが戻ってきたようだ。
「見てきたよ」
フレージアの報告によると階段を下りると、狭い空間があり洞窟が三つあるらしい。右の洞窟は入り組んでいて複雑な構造。中央の洞窟は途中まで直線だけど下り続けている。左の洞窟は小部屋が複数ある洞窟だそうで。
「モンスターは?」
「小部屋のある左側はね、腐ってる」
「腐ってるって何?」
「腐敗したモンスターが居るの」
アンデッドって奴かもしれない。
「他は?」
「真ん中はね、羽の生えたのがたくさん」
「鳥? コウモリ?」
「壁から壁に飛び移るみたい」
モモンガかムササビだろうか。集団ならモモンガかも。単独でムササビとか。モンスターじゃなくモモンガとかなら可愛らしいんだけどなあ。
「右側は?」
「アリンコ」
「え」
「アリンコの巣だってば」
ああ、そういうことね。複雑な構造は蟻の巣だから。
フレージアの報告を聞き、どの洞窟を攻略するか決めることに。
「左側がいいと思う人は挙手してください」
誰も手を挙げない。腐ったモンスターの相手は嫌だよね。不衛生な感じはするし臭そうだし、腐肉に触れたりしたら気持ち悪いし。
「右側がいいと思う人」
これも手を挙げる人は居ない。蟻の巣に入る気はないんだ。数が多そうだからかな。
「じゃあ真ん中で」
全員が頷くから羽の生えたモンスターの居る洞窟を攻略する。
立ち上がるとフラウが光球を飛ばし足元を照らす。先頭はマサで続いてヴィーラ、フラウ、ユズで殿は僕。
階段を下って行くけど、段数はそれほど多くはないのか。数えていたけど五十二段で三階層に辿り着いた。
狭い空間内を光球で照らすと確かに洞窟が三つ。
中央の洞窟に足を踏み入れ進む。フォーメーションは洞窟の広さから、先頭はマサでフラウを中央に左右がユズとヴィーラ。殿は僕が務める。
少し進むと飛来する存在が居る。飛ぶ、じゃなく確かに滑空する感じだ。足を広げると飛膜がある点ではムササビだけど、腹側に凶悪な爪のある足が六本。顔は豚の鼻に大きな耳と上顎から下に向く牙。体長がね、五十センチはあるみたいで。可愛げが無いなあ。
やっぱりまともな動物じゃないんだね。
「なんだこいつら」
急に飛び掛かられ噛み付かれそうになる。
「ちょ、ちょっと」
「引っ掻かれた」
「噛まれた!」




