07 シェリル妃の別邸
結局、別邸には私、ノア、テオの三人で行くことになった。
テオが「何だよそれ面白そう!俺も行く!」とか言い出したからである。まぁ護衛(?)は多い方がいいから構わないけど。
「何者だ。」
入ろうとした時に衛兵に一時は止められたけど、彼らはノアとテオの顔を見るなり「!これは第四皇子殿下と第五皇子殿下!失礼致しました!」と言ってすぐに扉を開けてくれた。
「僕たちがいて良かったね。多分ベアトリスだけなら入れてなかったよ。」
「うん…」
年齢は関係なく基本的に皇子の方が皇位継承位が高いので、衛兵や騎士たち、使用人がやたらかしこまるのは皇子だ。
一応別邸も皇族と関係者は出入りしていいことになってるけど、実質此処にはシェリル妃しか住んでない訳だし、もし皇女だったらシェリル妃に通してもいいか確認くらいは入っていたかもしれない。確かにノアたちが居てくれて助かった。
がらんとした邸宅だ。時々使用人が通るのは見かけるけど、皆何処か暗い顔をしている。別邸とは言え妃が住む場所だ、とてつもなく広くてこのままアテもなく彷徨っていてはいつまで経ってもレナルドを見つけることはできなさそうだ。
「なあ、第三皇子…レナルドだっけ?って何処にいるんだよ。このままじゃ日が暮れるぜ。」
「確かに埒が明かないね。誰に聞くとか…ちょっと、そこの君。」
「はっ、はい?!」
ノアが近くで掃除していた二人のメイドに声をかけると、他の皇族が此処に来るのが珍しいのかビクッと肩を震わせておどおどと此方にやって来た。
「数日前に此処に第三皇子が来たはずなんだけど、何処にいるの?」
「レナルド殿下が…?五日ほど前に姿をお見かけしましたが、てっきりもう帰られたのだとばかり…。」
「申し訳ありません、私共は下働きのメイドなのであまりこういうことは知らされておらず…」
「そう。じゃあ知ってそうな人を呼んできてよ。執事長でも誰でも良いから。」
「し、しかし、今執事長は出払っておりまして…」
「だから誰でも良いって言ってんだろ?耳ついてねぇのかよ。」
「ひっ、も、申し訳ありません!」
テオが凄むと、メイドたちは慌てた様子で長い廊下の奥に消えて行った。そして数分後、
年配の女性を連れて戻ってきた。多分他国出身なのだろう、色素の薄い人が多い北部では珍しい焦げ茶色の髪と目をしている。
「侍女長のアマンダと申します。レナルド殿下をお探しだとか。」
「うん、そこに案内して欲しいんだけど。」
「殿下に何用でしょう?」
「あ?侍女長風情に教えることじゃねぇんだけど。さっさと案内しろ。」
「申し訳ありませんが、どうしても急を急ぐ用でなければレナルド殿下に会っていただくことはできません。お引き取りください。」
「“皇族命令”だと言ったら?」
「私はアラビゴ王国の人間です。此処での私の主は姫様…シェリル様のみですので。」
「…お前、自分が何言ってるのか分かってるのか?」
テオが怒るのも無理はない。いくら侍女長が他国出身だと言っても、帝国にいる以上は帝国の規則に従わなければならないのは当然だ。
帝国での身分制度は絶対で、皇族はその一番上の位。対して侍女長ならば中位貴族程度だろう、そんな人物が皇族の命令に背いて良いはずがない。
ノアやテオ、私が侍女長への厳罰な処分を求めればその通りになってしまうだろうに、侍女長は強気な姿勢を崩さない。何かあってもシェリル妃に守ってもらえると信じきっているのだろうか。
しかし、このままレナルドのところへ案内して貰えないと困る。せっかくここまで来たんだから、どうせならしっかり無事を確認しないと。
「私、レナルドお兄様に“犬になれ”って言われたの。」
「はい?」
「お前何を…」
「テオ、取り敢えず聞こう。」
「レナルドお兄様はお父様みたいになりたいから、私に色々協力して欲しいって言ってた。で、頼まれ事をされたから今日はその報告に来たんだ。」
「…」
「どうしても今日じゃないとダメなんだって。」
報告は既に終わっているので真っ赤な嘘だが、どうやら侍女長には有効な話だったらしい。
「…此方についてきてください。」
案内されて行った先は、予想外の場所だった。




