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06 初めまして、皇太子宮


 いやいや全然、レナルドが心配とかじゃないよ?会って間もない訳だし、何なら犬扱いされてるし。けど私がレナルドに父がレナルドをどう思ってるか報告した時を境に急に現れなくなったから、明らかに原因は私にある訳で。これでレナルドがショック受けて寝込んでるとかだったら寝覚め悪いから。

 だから取り敢えず生まれて初めて皇太子宮に来てみることにした。此処には皇太子を始めレナルドを含めたその他の皇子たちが住んでいるのだ。マリーが知ったら心配するので、皇女宮をこっそり抜け出した。布団を丸めた身代わりを置いてきたからしばらくは大丈夫だろう、多分。

 父に邂逅した時のように庭園をブラブラ歩いてたら会えないかなーと思い一通り歩き回ってみるが、レナルドらしき人物はおろか朝だからか人影一つ見当たらない。

 仕方ない、宮殿の中に入るしかないか。


「あの、中に入りたいんだけど…」

「!何者だ、皇族と関係者以外は通すなという皇帝陛下のご命令がある。」

「私は第七皇女のベアトリス・デル・フィニアン。皇族だから入ってもいいよね?」

「第七皇女…しかし、貴様は皇族の証を持っていない。」

「皇女の身分を詐称している可能性もあるしな。青い瞳でなければ通すことは出来ん。」


 融通効かない衛兵だな!だから第七皇女だって言ってるじゃん、私が青じゃなくて赤い瞳を持ってるってことは周知の事実なのにそれでも通さないってただ私に嫌がらせをしているようにしか思えない。

 皇族の証を持ってない者は基本的に“皇子”とか“皇女”とかの身分を与えられる前に離宮に追いやられるから、いくら皇帝が許可しても私みたいな皇女がいることが気に入らない人はたくさんいるということだ。


「何してるの?早く開けてよ。」


 頑として扉を開くつもりがない衛兵を前にどうしたものかと思案していると、後ろからそんな声が聞こえた。見ると緑がかった黒髪をした可愛らしい顔立ちの少年が後ろに立っている。


「第五皇子殿下!今すぐに!」


 それまで固く閉ざされていた扉が実に呆気なく開いた。少年が振り向きざまに私に視線をやり、くいと手招きをした。


「君も来なよ。」

「え?!殿下、それは…!」


 これ幸いとサッと衛兵の横をすり抜けて宮殿の中に入る。よし、どうにかミッションコンプリート!

 少年…第五皇子にお礼を言うと、「別にいいよ。ただの気まぐれだし。」と返ってきた。


「君第七皇女なんでしょ?何で皇太子宮にいるの?」

「レナルドお兄様に会いに来たんです。」

「“レナルドお兄様”って、第三皇子のこと?」


 こくりと頷くと、第五皇子は不思議そうな顔をした。それはそうだ、ここまで兄弟姉妹が多いと基本的に異母兄弟のことを“お兄様”だとか“お姉様”だとかいう風に呼んだりしないから。そんな風な呼び方をするのは同じ母を持つ者同士くらいだ。


「第三皇子は数日前に別邸に行ってから帰ってきてないよ。」

「別邸って、シェリル妃のですか?」

「そう。彼の母親のところ。ていうかさ、いつの間に君はそんなに第三皇子と仲良くなったの?」

「な、仲良くだなんて…」

「第三皇子が皇女宮に行くようになったって噂本当だったんだ。大方君を利用して皇太子の座を狙ってるってところかな?」


 私より少し上くらいの見た目だろうに、第五皇子は随分と頭が良い。原作では登場してないから皇位継承権争いには参加してないんだろうけど、これは敵に回したら怖いタイプな気がする。


「?…私はただ、レナルドお兄様が突然私と仲良くしてくれるってお話に来てくれたので、私は家族で仲良くするのが夢だから、“レナルドお兄様”とお呼びする許可をもらったんです。」

「…なるほどね。」


 ふむ、と第五皇子は頷いた。どうやら私への不信感は拭えたらしい。“ただただ家族に憧れがあるだけの健気な娘”の演技、これは使えるぞ。


「なら僕のこともお兄様って呼べるってことだよね?僕は今年で七歳になるんだけど。」

「は?…じゃなくて、私がそうお呼びしても良いんですか?」

「うん。僕はノア・デル・フィニアン。」

「では、ノアお兄様!私はベアトリス・デル・フィニアンです。」

「そうだ、ところでベアトリス、別邸の件だけど…」


 ノアが何かを話そうとしている途中で、突然何かが衝突してきた。「テオ!!」と怒ったようなノアの声が響く。


「きゃ?!」

「ノアがガキと話してると思ったら、何だよこのちんちくりん!」

「はぁ…ベアトリスだよ。第七皇女だって。」


 吹っ飛んで尻もちをついた私をノアが助け起こしてくれている前で仁王立ちする少年の顔を代わる代わる見て私は驚愕した。


「お、同じ顔が二人!!」

「俺たちは双子なんだよ。ちなみに俺が兄貴の方がけどな!にしてもお前、第七皇女ってアレじゃん、ホコ…モゴッ」

「父上に殺されたいの?前に第七皇女への侮辱は許さないって宣言してたばっかりだろ。」

「あーそうだったな、此奴妙に父上に気に入られてるから…って、ノア、お前そういうことか!此奴と仲良くしとけば将来得するかもしれないって魂胆か!」

「…」


 うわ、ノアがめちゃくちゃ双子の兄のこと睨みつけてる。大丈夫だよ、私は今の言葉は聞いてないから。やれやれ、気付かないふりもなかなか大変だ。


「俺は第四皇子のテオ・デル・フィニアンだ!俺のこともテオお兄様って呼んでもいいぞ、妹よ!」

「う、うん…わぁ嬉しいな、テオお兄様!」


 クッソこの手のタイプはテンション合わせるの難しいな…。ノアはそんなテオの様子を見て顳かみに手を当ててげんなりているようだ。確かにこんな双子が居たら大変そう。


「…あ、そうだ。でさっき言おうとしてたことだけど、第三皇子に会いに別邸に行くんでしょ?」

「え、あ、いや…」


 別邸に行くのは父にも止められているし、イーノックも危険だって言ってたし、いくら寝覚めが悪いって言ったってそこまでしようとは思ってなかったんだけど。


「え、もしかして行かないつもりだった?」

「ま、まさか!レナルドお兄様に会いたいですし、行くに決まってます!」


 此処であっさり引き下がったら私が大して“家族”にこだわりがないことを、賢いノアは察してしまうだろう。いい言い訳を考える暇もなかったので反射で頷いてしまった。


「だよね、なら僕も行くよ。」

「えっ」

「何?このチビと何処に行くって?」

「シェリル妃の別邸。第三皇子を探しに行くんだってさ。僕もちょっと用事があるし一緒に行く。」


 用事って何の用事だよ…と思ったが、ノアが居れば一人よりは心強い。私だけだとシェリル妃に何かされそうになっても神聖力を使わなきゃいけなくなっちゃうだろうし。

 いざとなったらさすがに出会って初日って言っても私を抱えて逃げるくらいしてくれるでしょ。


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