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8-9.オーテル神殿跡地

トート森で言う神殿跡地というのは、ストーンサークルのある場所で、ストーンサークルは竜が移動できるゲートになっている。


竜は、トート森では守り神、タンガレアでは悪という扱いになっている。


俺の知る限りでは、トート森にはストーンサークルは、大きいものがいくつかあるだけだ。

タンガレアには小さいのがたくさんある。

トート森には、有名なものでは大鎧の神殿跡地と言われるカリオ神殿跡地と、オーテル神殿というのがある。


俺の家があるオリアン神殿跡地は、伝承には出てこないので、もっとたくさんあるのかもしれない。

カリオ神殿跡地は、トート森では世界最大と言われているが、本当に特別大きい。


トート森は、竜に守られる土地で、竜が人間に化けた大鎧と言う一種の神様がいることになっていて崇められている。

先代領主とディアガルドという竜が画策して、俺を嵌めて、無理やり俺は大鎧にされてしまった。


以前から俺は、大鎧と呼ばれる鎧を見ていたが、あの鎧の大きさを見れば、俺用であることは一目でわかるのだが。

何故か、即、俺が大鎧認定されることは無かったので、今までは故意に避けてきたのだ。


ところが、ゲートで呼び出され、今回まんまと大鎧にされてしまったのだ。



竜は、自由に人の世界に来ることができると言うが、今は俺を除くと、ディアガルドと言う人と話せる竜が1頭居るだけで、他に竜は居ないらしい。


俺を除くとと言うのは、大鎧は竜が人に化けたもので、俺は竜の特性をいくつも持っている。

しかし人間の姿で、俺には竜だった記憶は一切無い。


イグニスは俺は竜ではないと言っているが、テーラは竜にカウントしていた。

分け方で変わってくるのだろう。


ディアガルドは人と話せると言うが、俺の知る限り、人と話せるのはイグニスと呼んでいる人型の分体とディアガルド本体のどちらか一方で、同時に話すことはできない。


ディアガルドは俺をオーテル神殿跡地に呼び出した。

しかし、俺が行ったのはカリオ神殿跡地だった。


俺はいつも、ディアガルドに呼ばれて、ディアガルドのボス部屋に行く。

ところが、ディアガルドに呼ばれても、俺はオーテル神殿跡地には行かず、何故かカリオ神殿跡地へ行った。


これには何か理由があるはずだ。

たぶん、本来の俺の神殿跡地であるカリオ神殿跡地が近かったから、そこに行ったのだろう……とは思っている。


だが、もしかしたら、特別な意味があるのかもしれない。


もしかしたら、今行ってはいけないところなのかもしれない。

しかし、だからこそ、行くべき。そう思った。


ディアガルドがオーテル神殿に呼び出そうとしたのにも意味があった。

俺がこの世界に来て一番初めに来るはずの場所だったからだ。


オーテル神殿跡地には、俺と関係する何かがある。


そしてやってきた。オーテル神殿跡地に。


========


「どうだ?見覚えあるか?」リナに聞かれたが、見覚えは無い。

「いや、さっぱり」と答える。


俺は、この世界に来た時、はじめはここに来たはずなのだ。

ところが、さっぱり見覚えも無ければ、ここに来たという記憶は無い。



ストーンサークルの大きさは、トート森での俺の家、オリアン神殿跡地よりちょっと大きめという程度。

神殿跡地と呼ばれる場所にはストーンサークルがある。

ところが神殿はどこにもない。

ストーンサークル自体が神殿跡地と呼ばれているのかもしれない。


ここで何かをやるつもりだったのか、(やぐら)が組んである。


たぶん、俺をここに呼んで何かするつもりだったのだろう。


歩きながら、何かヒントになるものはと見て回る。

ストーンサークルに近付くと、急に記憶が蘇った。


俺はこの世界に来て一番はじめに、ここに来たはず……らしい。

俺がここに来たのは、何か理由があったからだった……はずだ。それが何だったかは思い出せなかったのだが、やっとわかった。思い出した。


俺は確かに、転移する竜に会った。


そして俺は”自分で望んでこの世界に来た”のだ。


そうだ、俺は事故に巻き込まれて知らずにここに来たのではない。

俺が来たいと思ってやって来たのだ……


========


俺が横浜で過ごした最後の時、俺にはとても大切な人がいた。

突然現れた女だ。一目見て大切な人だとわかった。

大切だと思う理由は分からなかったが。


この人は俺に会いに来たと言った。


彼女は”転移する竜”で、彼女には神殿が有るという。


そこに行って欲しいと。


俺にとって本当に大事な人達がそこにいるからと言った。



不思議なことに、皆、彼女が存在していないかのように何の反応も無く、彼女が見えているのは俺だけのようだった。彼女の存在は俺以外の誰にも認識できていないのだ。


俺は幻覚だと思ったが、同時にその神殿に行ってみたいとも思った。



彼女は、この世界、つまり日本で未練を捨てれば、俺はそこに勝手に行くだろうと言った。

俺は不思議と彼女の言う意味がわかった。

俺は未練を捨てることができる。そうすれば、ここを離れてどこかに行く。


どうして即決断したのかは思い出せないが、俺は自分の名前を捨て、家族や友達の思い出を捨てた。


何故か彼女は俺に会って安心したようだった。そして彼女は消えた。

俺には分かった。彼女は死んだのだ。

彼女の体が消えるとき、俺も消えていった。


俺が、あの場所に留まる最後の未練は彼女だったから。


その記憶が蘇った。




俺は安心した。ずっと気になっていたのだ。

俺は通勤ラッシュや、使っていた通勤に路線まで覚えているのに、なぜか親や友達の記憶がほとんど残っていなかったのだ。

そんなに簡単に忘れてしまうほどどうでも良いことだったのか、或いは忘れたいことだったのかと思っていた。

でも、逆だった。どうでも良かったからではなく、大事なことだったからなのだ。名前も。


捨てないと、ここに来れないから捨てたのだ。


俺は、未練のあるものすべてを捨てて、ここに来た。


俺は理解した。

俺は、元から普通の人間では無かったのだ。


普通の人間は、未練など無くても、どんなに絶望しても転移などしない。俺はする。

俺も転移する者なのだ。たぶん”転移する竜”なのだろう。


俺は、今でも自分の名前も親のことも思い出せない。

横浜に来た女のことを思い出せたのは、彼女の記憶は捨てなかったからだ。

捨てる必要が無かったのだ。


彼女は亡くなったから。


彼女は、彼女自身のことを転移する竜だと言った。

だが、彼女の姿は人間の姿だった。


イグニスは、転移する竜は、竜の姿をしていると言っていた。

この差は何だろう?


…………


「どうした、トルテラ、何か思い出したのか?」

俺の反応で、リナが気付いたようだ。


「ああ。思い出したよ。俺がこの世界にやってきた理由を」

よほど予想外の答えだったのか、リナが固まった。


「リナや皆に会うためだよ」と答えると、安心したようだ。


リナはたぶん、俺が何か使命を思い出して、どこかに行ってしまうと思ったのだろう。

そのあとリナは特に話しかけてこなかった。


========


推測だが、今まで聞いた話と合わせて考えると、俺は最初に、ここに来たのではないかと思う。

ただし、右も左もわからないうちにフィーにひっつかれて、もがいてるうちに、ここでやるべきことをやる前にゲートでカリオ神殿跡地に移動してしまった。


そこでアイスに拾われたってことだろう。


ここにはストーンサークル。つまりゲートがあるのだ。

ここでフィーに襲われて無意識に転移したがフィーがくっついたままだった。

そこでアイスに助けられた。


俺がアイスのことを覚えていなかったのは、フィーに吸われて倒れてた時間が長いからだ。

アイスに聞いたが、俺は寝てばかりだったと言っていた。

それは、寝てたんじゃなくて、気を失ってただけだと思うのだが、まあ、それはともかくとして、俺はエスティアとリナに助けられたとき、アイスのことも覚えていなかった。



横浜に来た女の言っていた本当に大事な人達。たぶんリナやエスティア達のことだろう。


大事な人が居るからそこに行って欲しい。そう言った。


どういうことだろう?


自分の身を犠牲にしてまで俺を大事な人に会わせる必要があったのだ。

何か重要な意味が、俺の使命があるはずなのだ。


それに、ここでいきなり思い出すのは、何か記憶に制限でもかけられているのだろうか?



ただ、1つわかったことがある。


未練を捨てて転移するのは、普通の人間ではない。

おそらくその性質を持つのは転移する竜だ。

普通の人間は未練など無くても転移しない。

俺はきっと、元から転移する竜だったのだろう。


あの女の人は、転移する竜を探しに来たのだろうか?

何故死んでしまったのだろう?

そして、何故俺は死んだと思うのだろう?

また消えただけかもしれないのに。


でもたぶん死んだ。なんとなくわかるのだ。

転移すると、死ぬことがあるのだろうか?


俺はその気になれば、いつでもどこにでも転移できる。

きっと日本に帰ることもできるのだろう。

ただし、そのためには大事な思いは全て置いていかなければならない。

リナやエスティア達との思い出を捨てなければならないのだ。


そんなの無理だ。この歳で今更大事な思い出を捨てて転移することはできない。


だから、実際はどこへも転移などできない。俺は転移できない竜だ。


横浜に来た女は、何のために俺を呼びに来たのか?



……リナは知っているのだ。俺がいつでもどこにでも行けることを。

だから、いつも言うのだ「どこにも行かないで」と。


何故知っているのだろうか?


俺はリナに言った。

「思い出したよ。俺にはどこにでも行ける力があるが、

 実際はもうどこにも行けないんだ。

 ここには、大事なものがあるから」


リナは抱き着いてくると、「良かった」と言った。

俺は、突拍子もないことを言ったつもりだったが。リナには伝わったようだ。

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