8-8.大きな湖
朝っぱらから、警備と言うか、見張りの人達が、慌ただしく走り回っていた。
何故か、俺と目を合わせようとしない。その割にはこちらを見ている。
こういうパターンは今まで無かった。
怪しい。
「何があるんだ?」
見張りの一人に近付いて、何があるのか聞いてみたが、モジモジして要領を得ないよくわからないことを言っている。
「あの、どういう髪型が好きですか?」
は? 髪型がなんなんだ。
すると、別の見張りがやってきて言った。
「あの、お決めになるんですよね!」
「私も……出ますから!」
「私、お気に召すよう頑張りますから!」
と言って、ニコっと笑った。キメ顔っぽくて、少しイラっとした。
意味が分からないが、とりあえず、俺が酷い目に遭うイベントが進んでそうなことは理解した。
「何だと思う?」とリナに聞いてみると、
「なんだろうな?ちょっと聞いてくる」と言い、情報を集めに行った。
そこらからキャッキャ聞こえるし、なんかこっち見てヒソヒソ話してるし、俺は猛烈に居心地が悪くなって、さっさと買い物に出かけて、そのまま帰りたい気持ちでいっぱいになった。
しばらくしてリナが戻ってくると、難儀な顔をして教えてくれた。
「祭りだ」
祭り……それは、まあ、なんか、そんな雰囲気ではあるが。
「大鎧が決まったからか?」
「そうだ」
祭り。だいたい想像は付く。ここで祭りと言えば相場が決まっている。
「俺は踊りを見る役なのか?」
「そうだ」
この世界の祭りはだいたい女が踊って、俺は踊りを見る役なのだ。
「なんだ、いつも通りだな」と言うと、
リナは少し困った顔をして「そうだな」と言った。
何か困ったことがあるようだ。……思い当たる節はある。
「ああ、また俺が選ぶのか」と言うと、リナは頷いた。
前に、戦争の代わりに踊りで決着付けたことがあった。
どの軍も戦う気はないのだが、退くにもきっかけが必要だったのだ。
だから決め方なんかどうでも良かった。
なので、踊りで勝負になった。そのときにも勝者を俺が選んだのだ。
ただし、俺が選んだ子は優勝しなかった。
なんか、エスティアが踊って戦争収めたみたいな話になっているが、それは嘘で、俺はトート森のかわいい子を選んだのに、勝手にエスティアが優勝になったのだ。
俺は、誰を選んでも関係無いのだ。
「俺が好きな子選べばいいのか?」と聞くと、
「まあ、確かにそうなんだが」と歯切れの悪い返事しか返ってこなかった。
とりあえず、リナの話をじわりじわりと聞いてみた。
俺はてっきり、ミス大鎧みたいなのを選ぶものかと思ったのだが違った。
俺が選ぶのは、俺の妻だと言う。
妻と言うのは巫女と呼ばれるらしい。
神の妻は巫女なのだ。近々巫女を選ぶ式典を行うという。
前に俺が巫女って言われたから、この世界の巫女は男なのかと思ったがそうでも無いようだ。
俺が使命を思い出せば、子を残すから、誰が産むのか決めるらしい。
なんだそれ。俺には自由恋愛の権利とか無いのか?
子供が産まれるのは勇者伝承だ。こっちにはこっちで、違う形で話が伝わるのか?
それにしちゃ、やけに計画が具体的だな。
「子供が産まれるのは勇者伝承だろ?」と言うと、
「大鎧様の子はトート森に残すべきだって」とリナが言った。
「俺が残すのは勇者の子だろ?」と言うと、
「そんなもの決まっておる」と残念な声が聞こえた。
振り返るとイグニスが居た。そうだ、ここはゲート近いから瞬時に現れるのだ。
「妾が子を産むというのに、人間どもが騒いでおるのじゃ。けしからん!」
「で、なんで、俺が人間の妻を選ぶことになるんだ?」とリナに聞いてみる。
「そんなの……ああ!そうか!」リナが何かに気付いたようだ。
「そうか、トルテラはまだ知らなかったのか。出たんだ、新しいのが」とリナが言った。
何の話かと思うとリナが再度言った「新しい文字が出たんだ」。
新しい文字?……そうか、わかった。あれか!
「大鎧の書か?」そういうと、リナが頷いた。
すると、「はて、すぐに伝えたはずじゃが?」とイグニスが言う。
大鎧の書に新しい文字が浮かんでいたのだ。
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神がいる場所が神殿であり、神が住めば聖域となる。
勇者は神が選ぶ。
神殿には竜が住む。神殿に住む一番大きな竜が人になった。
一番大きな竜が人になるとき、尾は剣に、牙は盾に、爪が鎧と兜になった。
決して壊れることは無い。
勇者は神に力を与え、
神の子は残った。
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は?なんだこれ。
”勇者は神に力を与え、神の子は残った”こんなの知らないぞ。
「トルテラに伝えるのを忘れていた」とリナが言った。
忘れていた、じゃねーよ!!
絶対わざと隠してたんだと思った。たぶん何か理由が有ったのだろうが。
「子を残すのは妾じゃ、人間ではない」とかイグニスが言っていた。
リナが、見張りに何かを言うと、リナとイグニスが連れて行かれてしまった。
俺一人残される。こういうとき当事者はやることが無いのだ。
アニメの演出とかでもよくあるアレだ。
なんか皆がよそよそしくて、隠し事してる……と思ってると、サプライズでお祝いの準備してました!!
的なやつだ。そういうの嬉しくないから!
なんか、よくわからないが、神の妻を選ぶ祭りが開かれるらしい。
たぶん踊りで俺がこないだのかわいい子を選ぶだけなのだろうと思った。
でも、選んでもどうせエスティアが選ばれたことになって終わるのだ。
俺が何しても、結果は変わらないのだ。
俺の心が折れて、もう駄目だと思って倒れてると、リナが優しく介抱してくれた。
なんて優しい子なんだ!ツンデレとかそういうやつなんだ、きっと。
見張りが何か騒いでる。子供できちゃうみたいなこと言って。
介抱すると子供ができる世界なのかよ!ここは!!
そんなんだったらもう100人くらい子供できてるよ!と思った。
昨日の晩だってリナと2人で寝てただろ!
リナは、俺がいつ消えても、俺と一緒に行けるようにと、いつも以上にぴったりくっ付いていたのだ。
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トート森がとっても居心地悪い土地になってしまったので、さっさと出る。
見張りがゾロゾロついてくるが気にしない。
トートピアにリナの服を買いに行くためだ。
トートピアはここの領の主都だ。
ダルガノードと比べるとだいぶ小さいが、一応首都だ。
店はそこそこ多い。そこにいつもと違うルートで来たら、大きな湖があった。
トート森周辺は、景色の良いところが多いが、ここは特別きれいだった。
家に居て急に飛ばされてきたので、リナは部屋着みたいな格好にマント姿だった。
冒険者スタイルよりずっとかわいく見える。
冒険者スタイルはあまり可愛くない。
アイスみたいに、冒険者服が似合う子も居るが、まあ、少数派だ。
水面がキラキラ光っている。景色は良いし、リナもいつもより可愛く見える。
なんか、写真撮りたい感じだった。この世界にはカメラは無いようだが。
大鎧は拠点に送ってもらった。
あれ背負って歩くと聖闘士みたいなので、たぶん余計なフラグが立ってしまう。
俺はフラグは立てない男だ。
※こういうことを言ってるから(略
一応リナに聞いてみる。
「星座って知ってるか? 星の並びが、何の動物に似てるとか言って名前付けるやつ」
すると、リナは「私は詳しくないが、聞いたことはある」と言った。
「犬座とか狼座って有るか?」と聞くと、
「犬は聞いたことがある」とリナが答えた。
なるほど。たぶん俺は犬座の青銅聖闘士だ。
※この世界では、犬は、伝説上の生き物です
トートピアに着いた。そんなに遠くないし荷物も無いので楽々だ。
服はあっさり決まった。
リナはトート森の民族衣装みたいのは合わないけど、普通の町娘服ならなんでもOKで良く似合う。
あんまり立派だと俺が召使に見えてしまうのでダメだし、あんまり緩いのも違和感有るので、程々ので好きな奴というと簡単に決まった。
「トルテラの好きなやつでいい」と言うが、トート森の色は青が多い。
青の染料がとれるからだ。デザインにもそんなに種類がない。
なのであっさり決まってしまう。
エスティアの時も本当は簡単に決まるはずだったのだ。
金の制限があったから困ってただけだ。
でも、青って、それはそれでフラグっぽい気もするのだ。
その者青き衣を纏いてとか、よくわからない伝説があったりすると困る。
服にはサイズ直しが入ることが多いのだが、ぴったりだったのでそのまま買って、いきなり着て帰った。
心なしかリナが嬉しそうにも見える。
そう言えば、リナと二人きりってのも珍しい。リナが大怪我したとき以来かもしれない。
見張りが付いてくるので正確には2人きりでもないのだが、いい加減見張りに慣れた。
また湖に行きたいと言うので、その日は湖で野営した。
夜営セットは見張りに言うと用意してくれた。
その晩、リナは珍しく自分の過去のことを話してくれた。
「私の元の名はエステリア」と言って、文字で書く。
見慣れた字だ「エスティア?」
「そう。同じなんだ」
字で書くと一緒になるのか。
ここの文字は、文字の種類が少なくて、組み合わせで単語が決まる英語っぽい感じなのだが、同じ文字の組み合わせなのに、読みがいくつもある場合がある。
漢字ほどではないが。
そして、リナは言う。
「私は家が嫌いで飛び出した。男が嫌いだった」
「ああ」俺は相槌を打つ。確かにはじめのころ、俺はリナに歓迎されていなかった。
「そこに、元気で頑張ってる同じ名の子がいた。読みは少し違ったけど」
エスティアのことだ。
「私はエスティアに自分の姿を重ねてみた。
冒険者をやるにしても、ああやって前向きに生きてみたかったと思って」
「ああ」
「冒険者の仕事を一緒にやるようになったのは偶然だった。
エスティアは野営道具持ってなくて安い依頼しか受けれなかったからだ。
私は野営道具を持っていたが、家がなかった。
私は男が嫌いだった。それに何より貧乏だった。
だから、あのときトルテラを引き取るのに反対した」
まあ、だいたい理解できる。
貧乏人は男も子供も持てないのだ。この世界では。
「崖から落ちたとき、私は死ぬはずだった。
だが、トルテラが身替わりになって助けてくれた。
あのとき私はもうトルテラはろくに働くことはできなくなった。そう思った。
そのとき、決めたんだ。私はなにがあっても最後までトルテラを見守る。
トルテラが死ぬときまでずっと傍に居るって。
ありがとう。この服は一生大事にするよ。
最後まで面倒見るって決めてるから。どこにも行かないで」
「そうだな」俺はそう答えた。そうとしか言えなかった。
なんだ……自分語りじゃなかったのか。
皆、漠然と気付いているのだ。
先日のリナとテーラとの3人仕事も、それぞれ、俺と過ごす短い時間、思い出を残せるようにと。
残された短い時間を有効に使おうと、リナはそう考えて行動している。
前回は、おそらくリーディアが機会を用意してくれたのだ。
今回は偶然だが。
……果たして偶然なのか?
それにしても、俺は、気軽に着れる服を買いに来たのに、やけに重い服になってしまった。
俺に残された時間は、俺が思っているより短いのかもしれない。
明日はオーテル神殿跡地に寄ってみよう。




