8-7.大鎧トラップ(後編)
ん?
突然、家の外から呼ばれた気がした。
なんだろう?
ストーンサークルから声が聞こえた……ような気がした。
ストーンサークルを見るが、何も無い。
家の目の前がストーンサークルだ。
いつも通りだ。そこには特に変わったことは無いように見える。
「トルテラ!」
リナが慌ててくっついてきた。
胸がむにょっと当たって、ちょっと困る。
”俺はショック! 俺の鼓動速くなるぅ!!”
悪戯かと思ったが、どうも違うようだ。
「何してるんだ?」 真面目に聞いてみる。
リナは答える。
「どこにも行かないで」
ふざけているようには見えない。
俺は、全くどこかに行こうと思っていない。荷物も持っていないし。
リナはなぜ俺がどこかに行こうとしていると思ったのだろうか?
「は? なにが?」
と言った途端、一瞬で知らない所にいた。リナも一緒に。
何があったかわからないが、とりあえず、俺もリナも特に怪我とかは無さそうだ。
どう見ても、さっきまで居た”拠点”とは違う場所に居る。
どうも、どこかに飛ばされたようだ。
……飛ばされるのはともかくとして、リナはなんで気付いたんだ?
衛兵みたいのが3人集まってきた。
「トルテラ様、どうやってここへ」
どうやら俺を知ってるようだ。トート森の警備兵の服装だ。
ここはトート森っぽい。
「ここは……トート森か?」
警備兵は顔を見合わせて、何か納得行かない様子だ。
改めて周りを見渡す。
よく見るまで気付かなかったが、ここは神殿跡地だ。特大の。
俺はすぐに理解した。でかいとは聞いてたが、こりゃ桁違いだ。
「カリオ神殿跡地か?」と聞くと、
「はい。今、突然現れたように見えましたが」と警備兵は答えた。
そして、
「オーテル神殿跡地にいらっしゃる予定では?」と言った。
「オーテル神殿跡地?」
何故、俺が”オーテル神殿跡地”に行く予定になっているのだろうか?
すると、また呼ばれてる気がした。
慌てて、リナを抱えてストーンサークルから出る。
……が、ストーンサークルがでかくて、なかなか出られない。でけえ。
なんなんだこのストーンサークルは、いったい拠点の何倍有るんだよ!
トート森では、世界最大とか言ってるけど、あながち嘘ではないのかもしれない。
なんとか、ストーンサークルから出る。
なんだか吸い寄せられるような力を感じる。
まだ呼ばれているようだ。
「オーテル神殿跡地に連絡に」とか言って衛兵が一人慌てて走って行った。
「俺、今まで拠点にいたんだけど」という話をすると、衛兵は、「今、オーテル神殿跡地にお呼びする予定になっていまして、その儀式に」とか言っている。
なるほど。俺を”オーテル神殿跡地”に呼ぶ儀式の最中らしい。
俺は間違って”カリオ神殿跡地”に来てしまったようだ。
本当に、ストーンサークルはゲートだったのか。
それにしても、なぜリナは気付いたのだろう?
「俺がわからなかったのに、リナはなんで気付いたんだ?」
「どこかに行ってしまうと思った」
要するに、理由はよく分からんってことか。
まだ、抱きかかえたままだったので、リナを地面に下す。
女を一人抱えるくらい何とも思わないほど力持ちになってしまった。
この世界の女はとても小さくて、だいたい痩せているが、それでも抱えていることを忘れるほど軽くはないはずだ。
俺の体も、何かおかしなことになっている。
俺は、ストーンサークルを使ってどこかに行く方法は知らないが、呼ばれているなら別だ。
今ストーンサークルに入れば、おそらくオーテル神殿跡地に行くはずだ。どうするか?
どうするべきか、決めかねていると、呼ばれてる感覚がなくなった。
どうやら諦めたようだ。
「どうする?」リナが聞いてきた。
歩きで”オーテル神殿跡地”に行くべきか……
悩んでいると、ストーンサークルに気配を感じた……何かが来る。
時間とともに、急速に存在感が大きくなる。
人間の気配では無い。
……この大きさは!
でかいのが現れた。竜だ。
俺が良く知ってるやつだ。
「ギャー」とか声がして衛兵たちが大騒ぎだ。
腰を抜かして転がりながら逃げ回る者も。
竜は、森の守り神なのに、それでもやっぱり怖いようだ。
騒いでる衛兵は無視して、話しかける。
「ディアガルド、お前、外出て良いのか?」
相変わらずガン無視だ。
「お主、なんでこっちにおるのじゃ?」と声がする。
見るとイグニスだった。
よそ見してる隙に、ディアガルドにべろんと舐められた。
すると、
「トルテラ様が竜に食べられてしまう」とか衛兵たちが騒いで大パニックになった。
「ほら、お前が来るとこうなっちゃうんだよ」と言いながら頬のあたりを撫でる。
ディアガルドは相変わらずのガン無視で、聞いてるんだか聞いてないんだか。
「どうなってるんだ?」と聞くと、
「なんで、お主は呼ばれたところに、来ぬのじゃ」とイグニスが言った。
「おまえのせいか!」
いや、知ってたが、言ってみただけだ。
イグニスは「せっかく本体に呼んでもらったのに、お主が別の口に行ったのじゃ」と言う。
「俺は行き先知らねーよ」と答える。
するとイグニスは「人間の領主が来るから待て」と言った。
俺は、領主は全員人間だよ!と思った。
30分ほど待つと、前領主と姫が来た。現領主は居ない。
イグニスには、前領主と現領主の区別が無いようだ。
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「お主は、自分の使命を覚えておらぬのか! このたわけが!」
からはじまって、何故か俺が散々罵られた。
俺が悪いわけじゃねーだろ!!!と全力で叫んだ。心の中で。
相変わらずイグニスの話は意味が分からないが、要約するとこんな感じだった。
領主との約束が果たされて、”大鎧の遣い”を探す仕事が終わって、大鎧をサポートする仕事に変わってるのに、俺がいつまでも大鎧を取りに来ない。
鎧無しで巨人と戦うと思わなかった。
ってことは、やっぱりこの鎧は俺ので、リーディアの予想は当たってそうだ。
巨人を倒すのは勇者だ。
勇者は勇者の鎧を持っているはずだが、巨人を倒した俺が元々勇者の鎧を持っていれば矛盾は無い。
大鎧が、元から俺にとっての勇者の鎧であるなら話に矛盾は無い。
この鎧が俺のなら、つまり、ここで神と崇められる大鎧は、俺ということになる。
いや、知ってたけど。
「お主は、お主の神殿に現れた」とイグニスが言った。
俺は、ああそうですかと思った。
ところが、
「カリオ神殿に大鎧様が戻られた」と言って前領主が泣いていた。
なんか、猛烈な勢いでスルー出来なくなった。
するとリナがペタっとくっついてきた。
目立つ……というか、皆が恐れるので、ディアガルドは迷宮に帰った。
やつは何の意味があって来たのだろうか?俺を舐めるため?
俺は、ディアガルドに舐められてベタベタなのに、よくリナは平気でくっついてくるなと思った。
明るいところではじめてディアガルドの全身見たが、超巨大な子犬だった。
100m離れて見れば、かわいいかもしれない。あれは狼じゃない、でかい子犬だ。
それにしてもゲートすげぇ。あんなでかいものが、ずぼっと出入りするのだ。
とりあえず”カリオ神殿跡地”に臨時本部みたいな大きなテントが建てられ、そこで話をすることになった。
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テントが建つまでの間、リナは俺から離れなかった。
理由はたぶん、俺がどこかに飛ばされるとき、リナも付いてくるためだ。
リナは良く言っていた、”どこにも行かないで”、と、”最後まで面倒見る”。
この言葉は、リナの本心なのだと思った。
簡易版ではあるが、テントが建った。
小さめではあるが、それなり豪勢なものだった。
またイグニスが話しはじめる。
「お主は、自分の使命を覚えておらぬのか!このたわけが!」から。
その部分要らねーだろ!!と思ったが我慢して聞いた。
言い返すともっと伸びるからだ。
今度の話の内容は興味深いものだった。
俺は、大鎧になるために、オーテル神殿跡地に呼ばれて行くはずだったが、順番すっ飛ばしてディアガルドの迷宮に行った。
そして、大鎧も持たずに巨人と戦った。戦いが終わっても相変わらず鎧を取りに来ない。
だから、今日はオーテル神殿跡地からやり直し、という計画だったのに、順番すっ飛ばして大鎧の神殿であるカリオ神殿跡地に来てしまったと言う。
「なぜオーテル神殿跡地なんだ?」と聞くと、
イグニスは「お主はオーテル神殿に現れる。そう決まっておったのじゃ」と言う。
”オーテル神殿跡地”に呼ばれた理由を聞いたら、俺は最初に”オーテル神殿跡地”に行くはずだったから。……らしい。
元のシナリオだと、オーテル神殿跡地に行って、カリオ神殿跡地に行って、勇者を連れてディアガルドの迷宮に行くはずなのだという。
俺は、やることが決まっているのだ。やっぱり、ゲームを模した世界なのではないか?
「……で、なぜ最初がオーテル神殿跡地なんだ?」と聞く。
「そんなのは”転移する竜”が言ったからに決まっておろう!」とイグニスが答えたが、
俺は猛烈な勢いで、そんな決まり知るかボケ!!と思った。
まあ、とにかく、”転移する竜”がそう言ったらしい。
「”転移する竜”がオーテル神殿跡地に俺が来るって言ったんだな?」と念押しで確認する。
するとイグニスは「”転移する竜”が妾の母に言ったのじゃ。妾は迷宮で夫を待っておれば良いと」と言った。
なるほど俺は理解した。ディアガルドが迷宮に居るのは婚活のためだ。
俺は、エスティア達に助けられる前に、カリオ神殿跡地周辺でアイスに助けられたはずだが。
既にオーテル神殿跡地に来て、カリオ神殿跡地に来たのではないだろうか?
どの情報が本当なんだ?
”転移する竜”と言うが、俺をここに来させたのは、人間の女だったはずだ。
横浜に来たのは女だった。
「”転移する竜”というのは、イグニスみたいな格好してるのか?」と聞くと、
「竜は竜の姿に決まっておろう」とイグニスが答えた。
じゃあ、いったい、横浜に来たあの女は誰だったのだろう?
オーテル神殿跡地は、ここから割と近いところにあるらしい。
「よく鎧を取りに来てくれました。ずっと待っていたのですよ」と前領主が泣きながら言うので、俺は反論できなかった。
すげー。勝手に話が進んでて、俺全然関係無ぇ。
周りの兵やら大鎧なんたらの会の人達も泣きだして、猛烈な勢いで拒否できない感じになった。
先代領主のありがたいお言葉聞いて、よく分からないけど、俺は正式に大鎧と認められた……らしい。
……俺が大鎧……知ってた。なんというか、知ってた感が凄い。
今日は豪勢な仮本部テントみたいなやつに寝泊まりしろと言われて、領主とイグニス、その他大勢は去っていった。見張りが何人も残ったが。
俺の目の前には、やたらでかい立派な箱に入った大鎧が。
こんな”でっかい鎧の箱”を背負って歩いてたら聖闘士みたいじゃないか!
聖闘士というのは、俺がまだ若くて日本に住んでいた頃に流行ったマンガに出てくる戦士のことなのだが、鎧に変形する大きな箱を背負っているのだ。
が、持ち物は、その箱一つで弁当も持ってなかったりするのだ。
この場合、荷物はどうすればよいのだろうか?
でもやっぱり、こうなっちゃうんだなと思うと心のエネルギーが枯渇して、俺がくてっと倒れると、リナがいつだかのように親身に世話してくれた。
「大丈夫だ。私が見ているから」
もしかして、リナって見られてると嫌なだけで、本当は世話したい派なんじゃね?
今度買い物行くって話してたし探ってみようと思った。
すまん。俺は今までリナは俺に悪戯する酷い子だと思ってた。
緊急連絡網みたいので伝えてくれるというので、リナとトート森に居ることと、2日くらい滞在してから帰ることを拠点の皆に伝えてもらった。
滞在するのは買い物のためで、元々リナの服を買う約束をしていたので、トートピアに行くことにしたのだ。
情報は、トート森の緊急連絡網より先に、リーディアに届いた。
二人で家出したとか失踪したとかで、既に手配がかかっていたのだ。
細かいことはともかく、トート森に居ることは伝わった。
リナの服を買いに行くのだ。
正直、リナには”トート森”より”拠点”の方の服の方が合うような気がするのだが。
大差ないけど、流行りなんだか気候の差なんだか、デザインに少し差があるのだ。




