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大秦戯界開拓録  作者: 御食山左近
ある商人の冒険
6/15

東経三度の雑貨商




嫌な沈黙が豪奢な室内に満ちる。


北方風に統一された室内に犠牲者は俺を含めた3人だ。


壁に架けられたいつの間に発注したのか、同志書記長のあんちくしょうの巨大な肖像画の前で虚空を見つめているのが、ついこないだ反革命罪で粛清されたパン屋の倅だ。


父親は今頃シベリ… 北方の開拓団送りだろうか?


パンの価格を抑えるためにいろいろふすま以外に混ぜ物をしたとか聞いたが、セルティアの家成法で禁止されていたというのに。


いや、もしかすると以前からこういった食料の高騰の兆候はあったのかもしれんな。


そしてもう一人衛兵に監視されてるのが、先月中部に教化に出かけて返り討ちにあった騎士殿か。


こいつも運がなかったな。どうも新しくレムルスから来た新参者らしいが、コネで任官したのか半島の常識のままこっちに来たのが災難だったか。


セルティアはまだまだ田舎だが中部は特に開拓村ばかりだ。となると当然退役した古参兵が多い。


もしレベルが低く見えたとしても、悪夢のような西方遠征というチュートリアルを生き延びた連中は基礎ステータスが少なくとも高位のオーガ並である。


新規プレイヤーとの差は大変なことになっているが、大半がスローライフの為に退役し帰農しているので現状問題にはなっていない。


問題になるのはこういうヒャッハァー!!な時である。


普通のこの世界の言葉を選んで言うと傭兵、つまり盗賊であれば人外の少ない都市部を狙う。


というのも多くのプレイヤーが豊かな里山でのスローライフを求めて、わざわざ現実と同じ狭い家に住みたからない為、都市はあまり人気がないのだ。


むしろ辺鄙な農村こそがモヒカン殺しである。


この世界では一袋の種もみと一杯の水の為に多くの盗賊が畑の肥やしとなっている。


セルティアの小麦は人間の血を吸って育つのだ。


辺境の農民にとっては、もはや農耕とこういった落ち武者狩りが主要産業である。


世紀末極まりない。


残念なことにこれに引っかかったのがこの可哀そうな少女ということになるのか。


生き延びたということはプレイヤーなのだろう。もしNPCだったらこのゲームが未成年者お断りな原因が繰り広げられていたからな。


いや、プレイヤーにはハラスメント防止機能があるからどうなのだろう?


俺のフィリップ・Kがアンヌにピクリとも反応しない原因はそれだが。


なにはともあれルシノーに金髪美女だけの盗賊団とか来ないだろうか?



----それで同志書記長。このパン屋と騎士崩れとしがない雑貨商の3人で誰とも知れぬ標的を暗殺してこいと仰るので?


「実の所そこの党への忠誠心の足りない二人はともかく、君のような革命精神溢れる優秀な工作員にはもう一つやって欲しいことがありましてね…」


また黙るのをやめろよ… というか今工作員って…


「さるやんごとない方からさる魔術の触媒に使うという、ヘカトンケイルの骨が欲しいというお話があるのです。」


政治的にこっちなら大丈夫だな。戦争の引き金をこの手で引くのは御免だ。


だが骨というとレムルスの皇統の秘術ぐらいしか思い浮かばんな。


…厄ネタだ!だがこっちのほうがまだマシか。


----少なくともどちらかを選ぶということでしたら後者を選ばせて頂きます。


「同志マルセル、それは聞き間違いですかね?」


おいまさかやめてくれ…


「当然両方です。この命令書を見ればわかるようにこれは党本部からの命令なのです。まったく金のない奴は脳味噌もないから困る。」


本音が、というか中身がレッドの反対色なんだよなこのおっさん。


差し出された羊皮紙にはブルティガラとトロサ、そして我がルシノーの南方の三大諸侯の署名があった。


想像以上にとんでもない厄ネタじゃねえか…


----謹んでお受けいたします。しかしアルビゲンシムにおわす、彼のお方の署名が見当たりませんが?


「それは儂から話そう。」


勲章で敷き詰められた熱い胸板を持つ、豪奢な軍服を身にまとった中年の偉丈夫が椅子から立ち上がる。


「我が騎士マルセルよ。今回の件は我らの独断だ…、王には伝えておらぬ。」


首謀者はルシノー伯か!だが何故?!


----しかし閣下!この計画を実行に移せば戦乱は必須です!陛下がお望みになるはずはありません!


「馬鹿者め。陛下は望まずともこの地の民は望んでおるわ。西方領南部に我らが拠点を移して以来、南方の抑えの為にどれだけ我らが血を流してきた?それは貴様も知っておろう。」


----確かにヴァレリーの憎き取り巻きどもは南方領へ物資をばらまき、混乱を助長し、我らが領土への侵攻を数多引き起こしてきましたが!


「そうだ!何年我々が耐えてきたと思っている!これは正当なる復讐なのだ!まず手始めに懲罰という名目で捨て駒を送り込み、あの肥え太った参事会あたりの幹部を警戒させでもしよう。そして失敗しようが成功しようが連中が軍備を整え始めようというあたりで、適当な難癖をつけて複数の方面からペリエールを攻撃し併合する。これで我らが悲願!未回収のオクシタニアを我が手におさめるのだ!」


ん?なんかおかしいぞ?いかん勝手な推測で粛清されるのは不味いから口に出すのはやめよう。


ロールプレイはこのあたりが難しい。


----我が君、承知いたしました。もう臣から申し上げられることはありません。しかし肝心の兵の問題はどうなさるおつもりで?


「そのために貴様はまずマッシリアに行け。既に侵攻作戦の為に黙示録の赤騎士を含む複数の大祖霊の触媒を手に入れているが、死霊王が出てくる可能性もある為より戦力をより確実なものとする必要がある。ついでに現地の奴隷を解放して、統治基盤を混乱させるというのも考えておる。」


それにしても一都市相手に過剰な戦力だな。しかし四騎士の、しかも赤の使用は対外的に大丈夫なのだろうか?


----それにこの二人を連れて行けと?それは無茶でしょう。


「こやつらは好きに使って構わん。貴様は途中で別れて触手祭りに潜入し骨を奪取してくるのだ。場合によっては買ってもよい。何が何でも必ず手に入れるのだ。」


----諒解いたしました。久々の商人らしい仕事もできそうなので命に代えてやらせて頂きます。


しかし酷い茶番だ。


「ゆけ ゆうしゃよ まおうを たおし あるびじょあに へいわ を とりもどすのだ」


戦争を引き起こしたのは連中だが、より大きな戦乱を巻き起こすのはこいつらなのにどの口がほざいてるんだか。


というかこの経済封鎖は中部による牽制だよなどう考えても。


それに魔王を認定していいのは大神殿だけだろうに。今密告したら異端審問待ったなしだな。


「貴様には軍資金の金貨百枚と青銅の剣を与えよう。これだけあれば十分なはずだ。」


どこぞの勇者とは大違いの待遇だ。大祖霊に通じるのは知っている限りでは折れやすい黒曜石か高価な青銅ぐらいだし、金貨百枚とか結構な傭兵隊が雇えてしまう。…逃げるか。


「わかっていると思うが、いつも通りに敵前逃亡は一族郎党まとめて死刑だ。だが安心せい。逃げるような事態にならないようにアルビジョア商業同盟に全面的な支援を命令している。資金が足りなくなったら現でに請求せい。そして支援が得られん時はその二人を売っ払ってもよいぞ。安いエルフと違って今や人間は貴重だから高く売れるだろう。東方あたりで需要があるからな。」


監視されているということだな。あと邪魔だからこいつらペリエールについたらロッジ以外に速攻で売り払おう。



----では閣下、準備が出来次第直ちに出発いたします。



「うむ、健闘を祈る。」
















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