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4/7

私は逃げられない。



7月11日、全国大会予選。大量の汗がユニフォームに抱きついてくる気持ち悪さは、今でも思い出せる。


カウントはアドバンテージサーバー。ファイナルゲーム。


ボールをコートに軽くついて、息を整える。


落ち着いて、私。


セカンドサーブを入れて、あとは冷静にシュートボールを前衛にぶつければきっと勝てる。

さっきからあの前衛の子は、私のシュートボールに対するボレーのミスを連発して、失点を繰り返している。

このマッチポイントの緊張を利用して、返ってきたボールをそのまま前衛へ叩き込めば勝てる。

とても安直だけど、それがきっと最善手だ。


……私がこのポイントを決めれば、私たちの中学初の全国大会に上がれる。きっとみんな、私を褒めて、先生もきっと認めてくれる。


みんなの熱い視線と沈黙が、私を飲み込む。


視線、視線、歓声。


ボールをふわりと宙に上げる。


ラケットを振ったあと、掠れた音が小さく耳に届く。


あれ。


「フォルト」


私のセカンドサーブはネットに刺さっていた。


それから、私の記憶は焼き切れたように抜け落ちていた。


---------------------------------------------------------------


「ゲームセット」

記憶が復活したのは、その声が響いた瞬間からだった。


5-7。


私は負けていた。

「い、いや」


すべてが手遅れだった。相手のチームは歓喜の声を上げて抱き合っている。

あんなに熱かった周囲の視線が、敵意めいたどす黒いものに変わった気がした。


血の気が引き、とっさに振り向く。


違うの。みんな、私は。

振り向いて気づいた。


コートの柵の向こうには、誰もいなかった。


中学3年生の夏、あの日のことをよく夢に見る。



レイバースとの実戦を見た次の日、私は契約者との契約を行った。

場所は魔法連合会の本館。結婚式場のように洗練された厳かな建物で、内部は深い沈黙に包まれていた。


どんな魔法が使えるようになるのか、ワクワクして仕方なかった。

魔法を使えれば、私も何者かになることができると思ったから。

ゆうかちゃんやレイナちゃんのように。


私はルツボ先生の指示通りに動いた。静かに手を組み、膝をついて祈る。

そして、ただただ契約者が私のもとに降り、魂が繋がる瞬間を待った。


「足立ヒナ様、お目を開けて大丈夫ですよ」


契約者との契約は問題なく終わったらしい。


特に、何か特別な感覚が芽生えるとか、そんなことはなかった。

もっと言えば、想像していたような、手応えらしいものは何も感じられなかった。


「ヒナッち、おめでとー! これで名実ともに魔法少女だねー」

「う、うん……」


これで私も、ゆうかちゃんやレイナちゃんみたいな特別になれる。

そんな静かな満足感が、私の中に芽生えていた。


契約を終えて、三日間が経過した。

私は魔法が使えるようにはならなかった。



九月の夕暮れ時の校舎内は、生温い風が窓から入り込み、夏はまだ終わっていないのだなと感じた。

エアコンの切れた教室で、私はただ呆然と校庭を眺めていた。


校庭では、ゆうかちゃんとレイナちゃんが、魔法で標的を撃ち抜き、斬り捨てる特訓を繰り返している。


「ご加減はいかがですか、足立ヒナ様」

「先生……」


ぼんやりとした頭のせいで、ルツボ先生の声に少しだけ反応が遅れてしまった。


「お疲れのようでしたので」

いつもの淡々と感情を押し殺したような声に、今は威圧感を覚えてしまう。

「い、いえ。その」

私は気まずさを感じて、黙り込んでしまった。

「あれから、発現しましたか」

私は首を横に振る。

「そうですか」

…………。

「あの、契約者と契約を結んで、魔法が使えなかった方っていますか」


少しだけ間が空いて、ルツボ先生は答えた。

「正直なことを申し上げるのであれば、いらっしゃいませんでした」

「先生、私」

「あなた様には、あなた様の使命があります」


また、それだ。

以前、教卓の前で私に言った台詞だ。

今は、それを聞いても何も感じない。

むしろ、そんなわけないのに、煽りや挑発みたいに、私を追い立てる呪いの言葉にしか思えなかった。

「……魔法の使えない私に、何の使命があるんですか」


私は教室から逃げようとする。

その瞬間、

「緊急警報!! レイバースが三体、一キロ圏内の市街地に出現。直ちに殲滅せよ」

館内放送が鳴り響いた。

心臓がドクンと突き動かされる。

こんな時に……。

「足立ヒナ様」

「分かってます!」


私は逃げられなかった。

 



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