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EP 7

太平洋ミッドウェー。日米豪 vs 中国主力

 太平洋、フィリピン海域。

 鉛色の厚い雲が垂れ込め、荒れ狂う波が白い牙を剥く海上に、アメリカ海軍第七艦隊とオーストラリア海軍からなるAUKUSオーカス連合艦隊が陣形を組んでいた。

 旗艦であるアーレイ・バーク級ミサイル駆逐艦のCICで、ジャック・ジャスティス大将は、ジャミング(電子妨害)のノイズで埋め尽くされたレーダー画面を睨みつけていた。

「……中国の野郎、日本近海で非核EMPを使いやがった。こちらのシステムも一部イカれたが、何より……日本の“盾”である出雲艦隊とのデータリンクが、完全に途絶したぞ」

「大将! 左舷前方に艦影! ……国籍不明、システムでの識別不可能です!」

 レーダー手が叫ぶ。

 ジャックが双眼鏡を引っ掴み、防弾ガラス越しに荒れ狂う海面を覗き込んだ。

 そこに現れたのは、黒煙を上げ、甲板が焼け焦げ、レーダーマストが沈黙した巨大な鉄の塊——護衛艦『出雲』だった。

 電子の息の根を止められたその姿は、まるで墓場から蘇った幽霊船のようだ。だが、そのマストの頂上には、色鮮やかな『Z旗』が、暴風の中でちぎれんばかりにはためいていた。

 チカッ、チカチカッ。

 出雲の艦橋から、探照灯サーチライトによる強烈な光が点滅した。

 モールス信号だ。

「……発光信号、読み上げろ!」

「は、はい! 『ワレ、電子ノ目ヲ失ウモ……闘志、衰エズ。……共ニ、地獄ヲ歩コウ』……サカガミ将補からです!」

「……クレイジーなヤクザ野郎め。EMPを食らって、なお前に出る気か」

 ジャックの顔に、獰猛な笑みが浮かんだ。

「よかろう。第七艦隊全艦に通達! これより我が艦隊が“目”と“盾”になり、アウトレンジで敵を叩く! 出雲艦隊は我が艦隊の背後に回り、損害を……」

『——警告アラート!! 前方五百キロ、中国空母『福建』を中心とする主力艦隊より、極超音速対艦ミサイル(YJ-21)多数発射!! ……マッハ10で接近中! 着弾まで、あと二分ッ!!』

 ジャックの言葉を遮るように、絶望の悲鳴がCICに響き渡った。

 沈威シェン・ウェイ提督の容赦なき先制攻撃。

 アウトレンジ(敵の射程外)からの、絶対的な物理の暴力。これが、現代の大艦隊決戦ミッドウェーのリアルだ。

「SM-6(艦対空ミサイル)、全弾発射! CIWS起動! 絶対に抜かせるな!!」

 ジャックの怒号と共に、AUKUS艦隊のVLS(垂直発射装置)から、数百発の迎撃ミサイルが一斉に空へ向けて吐き出された。

 空を埋め尽くす白い煙の航跡。

 だが、マッハ10で落下してくる極超音速ミサイルの雨を、完璧に防ぎ切ることなど、物理的に不可能だった。

 ドガァァァァァァァァァァンッ!!!!

 海面が爆発し、天が裂けたような轟音が太平洋を揺るがした。

 ジャックの目の前で、第七艦隊の誇るイージス駆逐艦二隻が、艦橋のど真ん中にミサイルの直撃を受け、凄まじい火柱を上げて真っ二つにへし折れた。

「……くそッ! 空母『ロナルド・レーガン』の飛行甲板にも被弾! 艦載機の発着艦、不可能です!」

「オーストラリアの『ホバート』級、沈没します!」

 これが、CSISが弾き出したシミュレーションの『真の絶望』。

 無人兵器による非対称戦ではなく、大国同士が正面から正規軍をぶつけ合えば、いかに世界最強のアメリカ軍であろうと、一瞬で数千人の命と数兆円の兵器が海の藻屑と化すのだ。

「……ジャック!!」

 燃え盛る海の中。

 ジャックの耳に、通信機からではなく、スピーカーのノイズ越しに直接、坂上真一の怒号が響いた。

 出雲が、AUKUS艦隊の『盾』の後ろに隠れることを拒否し、ミサイルの雨が降り注ぐ中を、単艦で全速力で突出し始めたのだ。

「サカガミ! 貴様、何をしている! レーダーのない船で前に出れば、ただの的だぞ!!」

 ジャックが発光信号で呼びかけるが、出雲は止まらない。

     * * *

「……機関最大フル・アヘッド!! 回避行動などクソ食らえ! 一直線に敵のど真ん中へ突っ込めェッ!!」

 出雲の暗い艦橋。

 坂上真一は、双眼鏡を目に押し当てたまま、血の滲むような声で吠え続けていた。

「お、おっちゃん! 右舷からミサイル来る!」

 蘭が、窓の外を指差して悲鳴を上げる。電子のレーダーを失った彼女は今、自らの肉眼でミサイルの航跡を探す『見張り員』となっていた。

「面舵一杯!! CIWS、マニュアル(手動)照準で撃て!!」

 坂上の野性の勘と、操舵手の神業により、極超音速ミサイルが数メートルの至近距離をかすめ飛んでいく。

 しかし、すべては避けられない。

 ズガァァァンッ!!

 左舷後方に直撃弾。

 凄まじい衝撃に、坂上や蘭の体が艦橋の床に叩きつけられる。艦が大きく傾き、断末魔のような金属の軋み音が響き渡った。

「被害報告! 後部甲板大破! 火災発生!」

「消火班、急げ!! 機関は生きてるか!!」

「……スクリュー、回ってます! まだ、進めます!」

「なら、止まるな! 突っ込めェェェッ!!」

 額から血を流しながら、坂上は悪鬼のような形相で立ち上がった。

 アウトレンジでのミサイルの撃ち合いになれば、丸腰の出雲はただなぶり殺しにされるだけだ。

 活路はただ一つ。中国艦隊の防空の傘の内側——ミサイルが使えない『至近距離インファイト』まで、この巨大な鉄の塊を直接ねじ込むこと。

「おっちゃん……! 死ぬ……このままじゃ、近づく前に船がバラバラに……!」

 蘭が、恐怖で震えながら坂上の背中にしがみつく。

「泣く暇があったら、双眼鏡を覗け、蘭! 敵の空母『福建』のツラを探せ!!」

 ミサイルが飛び交い、友軍のイージス艦が次々と火柱を上げて沈んでいく地獄の海。

 その血みどろの海原を、レーダーを失った満身創痍の『出雲』が、全身に被弾の炎をまといながら、ただひたすらに、ただ狂気のように、中国主力艦隊の喉元へ向けて突進していく。

 第三次世界大戦の命運を決する大艦隊決戦は、血の海を越える『ヤクザの殴り込み』へと変貌しようとしていた。

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