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少女は運命に殺された  作者: Philia
Chapter2
59/60

Ep.54

「ユイ……私は大丈夫。それよりも……ウミの言ったとおりだ。黒幕は……二人いる」


 そこまで言って、ルゥは意識を失う。どうやら気絶しているらしかった。


「……なんでルゥから黒い涙が? 殺意なき殺人がきっかけじゃないのか?」


 疑問が頭の中を堂々巡りする。そんなユイを現実に引き戻したのは、先程のルゥの言葉だった。


「……二人目の黒幕……やはり、クモだけじゃなかったのか」


 サクラの手紙でも、クモが黒幕の可能性は低いとあった。それが当たったのだろう。


「ルゥはパソコンで何を見たんだ?」


 ルゥにはパソコンを調べてもらっていたはずだ。

 そう思い、ルゥを寝かせユイはパソコンの中身を見る。

 すると、何やら見たことのないフォルダの中に、数々のデータが保存されていた。


「これは……」


 その中の一つを開く。中に入っていたのは映像だった。

 映像は、牢屋の中から始まっていた。明らかに、この屋敷のものだろう。

 しかし、その映像に映る人間に、ユイは見覚えがなかった。


「……ボクたちより前の、過去の映像か」


 そう独り言をつぶやきながら映像を見続けていると、どうやら全員が集合している場面まで進んだようだった。


「一、二、三……九人か」


 そこで、先程見ていた資料を思い出す。

 第一回から第五回まで、最小でも十三人だった。

 しかし、ここに居る人影は合計九人。撮影者含めて十人だろう。

 今までの記録にはなかった人数である。


「やっぱり、第一回よりも前からあったんだ」


 ユイは自身の推測に確信を持つ。

 おそらくこの動画の撮影者はサヤカ自身だ。そして、何らかの出来事があり、今はクモとなった、と考えるのが自然であった。


「じゃあ他のデータは……」


 他にもデータがあったので、それぞれを確認してみる。

 殆どが屋敷での生活を記録した動画だった。その数は十や二十ではない。数え切れないほど多く映像が残されていた。

 しかし、動画だけではなかった。

 最も新しいデータの内容は、まるで日記のようだった。


『皆死んだ。私のせいだ。私が皆をまとめられなかったから。もしもやり直せるのなら、今度は皆を守りたい。そして、クモをこの手でぶっ殺す。

 そのためにはこの本の解読もしなければ。幸い、『愚者』の能力で隠し持たされていたメモに地下への秘密の入口が書かれていた。きっとここにクモは居る。私の『世界』は全てを観測し、支配する。一度この目で見てしまえば、奴は簡単に殺せる。奴を殺せば、本格的な解読作業だ。きっと、何かがわかるかもしれない。私の勘がそう言ってる』


 先程の記録のような日記ではなく、個人の思いが記された日記だった。

 その日記から、おそらく彼女はこの場所を見つけ出し、クモを殺し、そして解読をしていたということがわかる。


「なるほど……このデータの中に辞書とか入ってないかな」


 もしもサヤカが解読に成功していて、その方法がメモされていた場合、もしかしたらその方法が記されているかもしれない。

 そんな希望を持ってデータを開いていく。

 そんなデータの一つに、気になる文言を見つけた。


『やったぞ! ついに分かった! 運命だ! 運命を集めればいいんだ!』


 興奮気味に記録されたその日記は、なにか彼女にとって嬉しいことが分かったのだろうか。


「運命を……集める?」


 ずっと、疑問に思っていた。こんなことをする理由。おそらくは、その分かったことというのが、彼女を突き動かした理由であるのだろう。


「かはっ、はぁ、はぁ」

「ルゥ!」


 ずっと気絶していたルゥが目を覚ます。


「大丈夫、私は大丈夫。黒い涙も、多分大丈夫」


 自身に言い聞かせるようにルゥは答える。


「でも……」

「それを言うなら、ユイだって大丈夫じゃなくなる」


 言われて気づく。今までもずっと、自身は黒い涙を流し続けている。それなのになんともないということは、大丈夫ということだろう。


「それよりも、データの中、みたか?」

「……うん」


 すべて見たわけじゃないが、ほとんどは見終えた。


「……なら、運命を集めたらどうなるか、わかるか?」

「いや、そこまではわからない」


 そこまでは見ることができていなかった。そのため、ルゥが説明する。


「運命を集める……いや、そもそも運命に選ばれた時点で、『神様』とやらが現れるらしい。そして、その神様は、何でも一つ願いを叶えてくれるそうだ」

「それまじ?」


 驚愕の真実に驚きである。


「言いたかったのは、その神様とやらが第二の黒幕なんじゃないかっていうことだ」


 黒幕は二人いた、という事があっているのなら、その神様とやらが二人目の黒幕の可能性も十分にある。

 そもそも、願いを叶えるなんて胡散臭い話、黒幕でもないと話さないだろう。


「じゃあ、サヤカを殺したのもその神様ってこと?」

「いや、多分、サヤカは十中八九自殺だ。データに残っている最も新しい日記をみてみるといい」


 ルゥに促され、ユイはそのデータの最も新しい記録を開く。


『ああ、クソクソクソ! なんでまた「愚者」に邪魔されなきゃいけないんだ! 何だよあの手紙! おかげで「塔」が暴走したじゃんか! 

 はぁ、疲れたなぁ。これで初めからかぁ。神様ってほんとにいるのかな。なんかもう全部めんどくさくなってきた。「塔」に全部壊されて。全部の運命集め直しで。はぁ、もういいや。ごめんね。皆とまた会いたかったな』


 おそらくは、話し相手の居ないサヤカにとって、このパソコンへの書き込みは一種の会話だったのだろう。すべての記録がここに書かれていた。


「『塔』に全部壊されてって……もしかして」


 そこでユイは思い出す。まだ記憶に新しい、屋敷の崩壊だ。


「多分、サヤカは必死に集めた運命をヒナタに壊されたんだ。それで全てがどうでも良くなったんだと思う。記録を見る限り、残るは『愚者』と、『審判』だけだったから」


 五年以上必死に運命を集めて、残るは二つとなったところで全てが崩壊する。その時のサヤカの気持ちは想像に固くない。


「そういうことだったのか……」


 サヤカの死因は絶望による自殺だった。


「あと多分、黒いスライムが涙として出てくる条件も分かった」

「え、まじで?」


 ルゥは、頷きながら言葉を続ける。


「多分、あらゆるマイナスの感情……殺意や敵意だけじゃない。キモいとかグロいそういうのも含めて、それらを一切なくして死体を見ること。私は初めて、この死体に憐れみを感じた」


 そうして、哀れみを感じた瞬間に、黒い涙が溢れ出たらしい。


「そんなこと……普通できるの?」


 ただ、そんなことは普通できない。どんな人間でも、人の死体を見ればおそれおののき、人によっては吐くだろう。


「うん、できない。けど、今の私ならできたんだ。多分私、既に運命に呑まれてるから」

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