Ep.53
残された謎をまとめると、なぜサヤカは死んだのか、なんのために運命を集めているのか。
大きく分ければ、この二つであった。
「あれだけ豪華な食事に不自由のない生活は、多分ボク達の人間関係のこじれの殺意や敵意によってのみ殺し合いをさせるつもりだったのかなぁ」
ここまで分かってくると、自分たちがなぜあの待遇だったのかもわかる。
人間関係以外で余計なストレスを与えないためだろう。
スライムは殺意や敵意を餌にする。ならば、食事がまずいなどの感情は余計ということだろう。
「……今までの生活は、効率よく運命を集めるための箱庭だったってわけか」
不自由のない生活だからこそ、人間関係に不満が集まる。それがやがて殺意となり敵意となり、スライムの餌となる。
ユイ達は、悔しいほど思い通りに動いていたというわけだ。
「やっぱりその理由を知るのは、これを解読する必要がありそうだね……」
そうして、本を手に取る。読めない字がズラッと並ぶ。
「もしかしたらここになら翻訳があったり?」
希望を持って片っ端から本を手に取るが、翻訳に関する本は見つからなかった。
「なかったか……」
「そのようだな」
一応多少は挿絵のある本があったため、もしかしたら気合で解読できるかもしれない。
しかし、少なくとも今の二人に、その余裕はなかった。
「うーん、前に見た挿絵は誰かを崇めてたり、黒いスライムが書かれてたりしてたっけ」
「確かそう。ここにあるやつは大体……黒いスライムの集合か? それと、また誰かを崇めているような絵もある」
崇めているか跪いているかはわからないが、そういう絵とスライムに関する絵はかなり多かった。
ただそれ以外にも、異質なものも一つ発見した。
「こっちは……なんだこれ? 天使?」
雲の上から、人が降りてきている絵だった。まるで天使のような神々しい絵に、思わず気圧される。
「……わからん」
しかし結局それがなにかはわからなかった。
「ただこの本、明らかに重要って感じするよね」
その天使のような挿絵の本は、明らかに表紙が豪華であり、そしておいてある場所もすこし他と離れていた。
「大事ってことかな。わかんないけど」
ルゥの言う通り、おそらくはその本は何かしら大事な意味を持つのだろう。
しかしその意味はわからないので、一旦放置しておくしかない。
「あと、本読んでる時に思いついたんだけど、自殺っていう線はないかな」
「……たしかに」
本を読んでいる間にも、ユイはサヤカを殺した犯人について考えていた。
しかし、その状況からどう頑張っても第三者が介入することが難しいのだ。
「それこそ、透明人間でも居なきゃいけない。けどそんな人がもしいるなら、私たちがここに来る前からいることになる」
ここに連れてこられたのは自分たち十三人のみ。そして、ずっとこの屋敷で生活をしている。
全員の末路は既に目の前で見てきた。
サヤカが死亡したのは、少なくともサクラの裁判の後だ。
つまりは、自殺か……はたまた自分たちがここに来る前から潜んでいた透明人間の仕業になる。
「透明人間……流石に無理だと思う」
「だよね、サヤカの運命は『世界』だけど、本来の意味で行くなら『完全』や『統合』だったりする。透明人間なんて簡単に見つかると思うんだよね。私生活も監視してたらしいし」
ヒナタやケイは、牢屋の外で寝ていた時に忠告を受けていた。それはつまり、サヤカによる監視があったからとも言える。
「そんなサヤカが死んでいるということは、自殺による可能性が高い、ということ?」
「そゆこと」
しかし、それを示すものは特にない。状況から推測されるただの勘だ。
「自殺の線で考えると、なんで自殺したのかがやっぱり気になるよね。どっかにもっと詳しい日記があればいいんだけど」
サヤカが死んだ部屋にあった日記は、どちらかといえば調査記録のようなものだった。
いまユイが欲しているのは、サヤカ自身感情が載っている日記だった。
「ありそうなのは、最初の部屋か……パソコンの隠しフォルダ的なところか」
「うーん、パソコンには詳しくないからなぁ」
というわけで、ユイは最初の研究室のような部屋、ルゥがパソコンの中身を調べることになった。
「さて、まずは散らかった資料の整理から始めるか」
資料は色々と散らかっているが、もとはある程度まとまりがあったものだと推測できる。
「これは記録で、こっちは……私たちの情報か」
ユイはテキパキと整理を始める。
黒い涙は、どうやら紙に染みたりはしないようだった。
撥水加工の上を伝う水のように、紙の上を滑っていく。
「これは……サヤカ自身か?」
そんな資料の中には、自分たちではない……おそらく過去の人物の情報も残されていた。
そしてその中に、サヤカ自身の記録も残されていた。
「サヤカ自身も、はじめはここに幽閉された存在だったのか……」
そうしてユイは今まで見つけてきた人物の情報が書かれた紙の枚数を数える。
「……七十九枚。サヤカのを含めると……八十枚?」
そこで一つの違和感に気づく。
「あれ、第一回から第五回までの人数を合わせると七十九枚だから……一枚多い?」
もちろん、サヤカが自分で自分の分を作ったのかもしれない。
しかし、それ以上に嫌な予感が、ユイの脳内に巡っていた。
「もしかして、第一回が始めというわけじゃない……?」
ノノミが言っていた、挿絵の年代。おそらくは千年前と言われていた。
しかし、残っている記録は過去五年分。
そして、五年分に含まれないサヤカ自身の記録。
そこから導き出されたのは、第一回よりも前から、これは始まっているのだということだった。
「……なるほど、サヤカ自身も元は暮らしていたんだ。あの屋敷で」
それが、何かが起きてクモ……ゲームマスターとも呼べる存在にに成り代わった、という推測が成り立った。
「……結局自殺した理由はわからずじまいか」
しかし、有益な情報を得ることができた。早速、ルゥに共有しよう。
そうして、ルゥのもとに向かう。
「……大丈夫!?」
しかし、ルゥの様子は明らかにおかしかった。
その目からは黒い涙を流し、苦しそうにもがいていた。




