Ep.52
「それにしても、なんでこのサヤカ? って人は死んでるんだろう」
胸から血を流し死んでいる。
見たことのある形の剣は、『世界』の数字が刻まれている。
「ユイ、なんか日記見つけた」
周辺を調査していたルゥが、何やら日記を見つけてきた。
「うーんと、ってこれ、五年ぐらい前からあるの!?」
その日記の一番古い日付は、自身の知る年の五年前のものだった。
「たしか、最初の部屋で第何回とか……私たちが五回だったはず。だから、一年に一回こういうことをしている……と思う」
ルゥが思い出すのは一番はじめに見た部屋の資料だ。そこには、第一回から第五回までの記録が残っていた.
「たしかにそうだね。五年で五回か……」
目的はわからないが、それほど長くやっているのなら、何かしらあるのだろう。
「それにしてもこの剣、誰が指したんだろう?」
疑問なのは、その剣が誰によって刺されたのかだ。
「……一応、写真に残しておこう」
ユイとルゥの頭に、一つの可能性がよぎる。
この空間に自分たち以外の、クモことサヤカを殺した犯人がいる可能性だ。
「ただ、これ以上部屋ないよね?」
「そう……だな」
ただし、この地下の部屋はここで終わっていた。いくら探しても、これらの部屋以外には見つからなかった。
捜査も行き詰まったので、一旦一番最初の部屋に戻る。
「ユイ……」
「大丈夫、大丈夫」
しかし、問題があった。自分たちがここに来るために使った階段の目の前に、黒いスライムがいた。
「奴らは無害だよ」
「それは分かってる。でも、あの様子は……」
まるで、通せんぼをしているようだった。
意思があるのかはわからないが、ここは通さないという意図を感じる動きだった。
「……まぁ、まだ出る気はないし放置しておこう」
まだ、サヤカの事件の真相が分かっていない。
「そういえば、ここに来た時にそこの扉全て空いてたよね」
「……たしかにそうだった」
ユイの記憶では、ここに来た際に部屋と部屋をつなぐ扉はすべて空いていた。
「……これ、サヤカ本人がやったのかな、それとも犯人がやったのかな」
まず、この場所を知っている人物が少なすぎる。
「……犯人が居たとして、誰になる? クモは、昨日の裁判の時点では生きていた。だから死んだのは……サクラの処刑後のはずだ。だが……この場所を知っている人物もまた、サクラだけだ」
サクラは、このことを他の誰にも話していなかった。
「それに……ウミの『2』も気になる。地下二階があった、というだけなのかもしれない。けど、もし他に意味があったら……?」
考えるほどきりがない。思考の沼にハマってしまいそうだ。
「ボクには難しすぎるなぁ」
そう言って、ユイはふとスマホを見る。
相変わらず時間も検索も備わっていないが、今はもう慣れたものだ。
そこで、サクラの裁判の際のクモの言葉を思い出した。
「そういえば、運命から抜け出す、ってなんのことだろう?」
「……なんだっけ、それ」
ルゥはなんのことかのユイに聞き返す。
「アレだよ。裁判の時にサクラから黒いスライムが出なかったじゃん? その時にクモが言ってたことだよ」
「……あぁ、思い出した」
ルゥの記憶にも残っていた。ミュートし忘れた時の話だ。
「アレって、今のボクの状態の可能性……ないかな」
サクラがここに訪れたことを『復元』した時、サクラも今のユイと同じような状況になっていた。もしかしたら、それが運命から抜け出している状態なのかもしれない。
「そういえば、黒いスライムは運命そのもの、って言ってた」
ルゥの言葉は、ユイに一つの可能性を思いつかせる。
「……なるほど、殺意や敵意を餌にする黒いスライムは、その感情を増やし餌とする。ただ、殺意も敵意もなく人を殺せば、餌がないわけだ。だから、運命から抜け出す……いや、運命が抜け出してるんだよ」
「……黒いスライムは、寄生虫みたいな生態、ってこと?」
ユイは、自身の推測に自信を持っていた。
いや、もはや確信までしていた。だが結局、一つの大きな問題が立ちふさがる。
「……ま、それが仮に事実だったとして、クモはなんのためにそんなことをしているかってわけだけど」
そして、部屋の中の資料をとる。
「多分、この『愚者』の回収に失敗ってやつ。歴代の『愚者』はずっと、こうやって運命から抜け出してきたんだ」
そして、資料を見直せば、いまだ自身の『審判』の回収はされていなかった。
もしも今もクモが生きていれば、この記録に『審判』の回収に失敗という一文が増えるだろう。
「てか『魔術師』回収されてるじゃん」
「……ホントだ」
既に、ルゥの運命である魔術師は回収されていた。おそらくは人を殺し、処刑され、黒いスライムが現れたのだろう。
「回収された運命って再利用できる……いや、これは多分運命を決めることはできない……ってことかな」
今のユイは冴えていた。次から次へと、自身の推理を話していく。
「なるほど、でもそうなると、もしもここで私が人を殺さなかったらどうするつもりだったんだ?」
「……多分だけど、回収済みの運命はいつでも回収できる、っていう可能性が一番高いんじゃないかな」
だからこそ、こうやって自由にさせていたのだろう。
既に回収済みの運命に興味はなく、新たな運命の回収を目指す。それがクモにとって最も都合のいいことなのかもしれない。
「被りなく回収するのが目的、それなら、クモが言ってた『豊作』という言葉も理解できる」
実際、これまでの記録に、『星』、『悪魔』、『月』は存在していなかった。三回連続で新規の運命を回収できればさぞ嬉しいだろう。
「なるほど……逆に抜け出されるとその回はどうやっても回収できないから困るということか」
ルゥも、一つの結論にたどり着く。
そうして、一歩一歩、黒い涙を流しながらも少しずつ真相に近づいていくのだった。




