Ep.51
ユイは、なんとなくゴミ箱を漁っていた。
理由は、たいてい捨てられた情報は有益だと考えたからだ。
「うーん、なにもないなぁ」
しかし、あったものといえばほとんどが暴言か愚痴だった。
「ねぇ、ユイ。ここを復元したらどうなる?」
「……たしかに」
ユイは自身の能力が過去の出来事を映し出すのを思い出す。
もしかしたら、この書類の主がわかるかもしれない。
「やってみよう」
早速行動に移す。
相変わらず黒い液体が漏れ出し、不快感が消えないが、いまはそれに耐える。
するとしばらくして、人影が現れた。
「あれ、これって……」
そこに写った人物は、衝撃的な人物だった。
「サクラ、だよね?」
「……うん」
明らかにサクラであった。
すると時間がないのか、急いで何かを書き記し、そしてすぐにそれを燃やすし、ゴミ箱に捨てる。
そして焦ったように階段を駆け上がっていった。
そこで復元は終了した。
「この部屋の主はサクラってこと?」
「いや、まだわからない。とりあえずそこのゴミ箱に捨てられたやつ、復元しよう」
ルゥの言葉に、ユイは言われなくてもと行動に移す。
灰を探し出し、それらを『復元』する。
すると、やはり一枚の手紙が出来上がった。
『時間がないので挨拶は省略!
ということで、謎の秘密施設に来ちゃいました!
資料を見た感じ、過去にも私たちと同じような目にあった子がいたようですね!
「愚者」の運命に手こずってて面白かったです!
最後に、新しく手に入れた情報があります!
黒いスライムが育つには、餌が必要です! それは殺意でも敵意でも、とにかく人に向けた害意、っぽいです!
それを黒いスライムは増やし餌とし、宿主が死んだ時に現世に現れるらしいですね!
ここにある資料はそれを「回収」と呼んでるらしいです!
ところで私、さっきアズキさんを殺意も敵意もなく殺したんですがお陰で黒いスライムが涙みたいに溢れてきました! 私どうなっちゃうんでしょうね!』
それだけだった。それだけだったが、非情に重要な情報だった。
「殺意や敵意……それに、黒い涙?」
それは、身に覚えがありすぎる案件だった。
「ユイ、たぶん……ノノミのこと、だと思う」
そして思い出す。自身を庇って死んでしまったノノミのことを。
「……そう、なんだ」
再認識せざるを得ない。
ユイ自身が、ノノミを死に追いやったのだと。
「……奥に行こう」
その事実を噛み締め、乗り越える。
涙は止まらず口の中はゲロのような味がするが、そんなことに耐えられないようではこの先に進めない。
まだ、奥に扉が空いている部屋がある。
二人はその部屋へと向かう。
「ここは……?」
見渡すと、そこは書斎のようだった。
そしてまた奥に一つ、開いた扉がある。
「……うっわ、これあの読めない文字じゃん」
ユイが適当に一冊を手に取る。
しかし、それは図書館で見つけたあの読めない文字で書かれていた。
隣の一冊も、そして他の本も、読めない文字で書かれていた。
「……無理だ」
ルゥも、最初は読める場所を探したが、一切見つからずに諦めた。
「うーん、よくわかんない。奥の部屋に行こう」
結局、大した情報を得ることができずに奥の部屋に行くことにした。
「うぇ……なんだこれ」
そこで二人は衝撃の光景を目にした。
オフィスチェアに、人が座っている。
少女というよりかは、もう少し大人びた女性と言ったほうが正しい。
なにやら作業をしていたようだった。しかし、なにか様子がおかしい。
「死んでる……」
そう、死んでいた。
その胸には、深々と見たことのある形の剣が刺さっていた。
「これって……」
「……殺人事件?」
ふと、その言葉が頭によぎった。
しかし、この場には二人しか居ない。どのようにして彼女は死んだのか。
そもそも、彼女の正体は何なのか。
「とりあえず、調べてみよう」
死体はそれほど古いものではない。最近死んだというのは、見るだけでも分かった。
剣に刻まれた数字は『XXI』、つまりは、『世界』を示すものである。
周辺には、散らばった資料と開きっぱなしのパソコンのような何かが置かれている。
「これって……」
床に広がる資料の内の一枚を手に取る。
『柊 ヒナタ
・突発的に局所的な記憶喪失を患う。利用可能。
・場に混乱と不信感を振りまく要素として期待。
・塔
備考:コミュニケーションは並以下だが、楠サクラとの出会いで解消。積極的に人と関わり、人間関係のこじれに期待大』
その資料は、ヒナタに関することだった。
「ヒナタ……記憶喪失ってもしかして……」
ユイは、ヒナタが殺された人物の記憶を忘れていたことを思い出す。
それは何かしらの影響ではなく、ヒナタ自身の問題だった。
「これ、私たちのことも書いてある」
ルゥが全ての資料に目を通す。ヒナタだけでなく、ユイやルゥ達のものまであった。
「うわぁ、ここまでのことどうやって調べたんだろ?」
想像以上に詳しく書かれており、背筋に冷たいものが走る。
「それに、これがやっぱり気になる」
そういってルゥが指したのは、開きっぱなしのパソコンのようなもの。
マウスやキーボードがついているので、使い方は同じようだ。
「ふむふむ、メール……これってまさか」
そのまさかだった。
そのパソコンに入っていたメールアプリ。開いてみれば、会話の履歴が写る。
そしてその相手は、サクラやヒナタなど、見たことのある名前だった。
つまり、クモの正体は、今目の前で死んでいる女性だったのだ。
「これ全部手作業で返信してたのか……あ、これは配信アプリ?」
メール意外にも、いかにも配信しますよというアプリがあった。
それを開いてみるが、使い方がよくわからない。
「これ、裁判の時のアレだと思う」
「ああ、確かに」
そうして思い出されるのは、裁判の時のクモの声だ。ボイチェンが入ったようなその声は、ここから発せられていたのだろう。
「あ、これは個人情報?」
更に探すと、個人情報について書かれているアプリを見つけた。
そこには、
◇名前:片桐 サヤカ
◇選ばれし大アルカナ:世界
と、書かれていた。
「片桐サヤカ……それに、『世界』か。サクラの言ったとおりだね」
サクラの推測通り、クモは『世界』の運命に選ばれていた。
「それはそれとして、なんでこんなことしてるんだろう……」
しかし、知れば知るほど、謎は深まるばかりだった。




