Ep.49
ユイは、瓦礫の山を歩いていく。
不安定な足場だが、その足に迷いはない。
「ユイ……その黒い涙は……?」
「……? ああ、これか、なんだろうね」
黒い涙は今も流れ続けている。
ユイ自身も、それについてわからなかった。
「まぁ、大丈夫でしょ。それよりも早く行こう」
瓦礫が想像以上にゴツゴツとしていて歩きにくい。
もともと屋敷の玄関があった場所まで、かなり時間がかかってしまった。
だが、十分程歩き、ようやく辿り着く。
「……ないね」
そこには、玄関すらなく、やはり瓦礫の山だった。というか屋敷が上から降ってきているのだから玄関も根こそぎなくなってしまっているのは当たり前の話だった。
「そこが玄関ならこの辺に地下への入口が……あった」
ルゥが、かつて皆で寝ていた牢屋への入口を発見する。
しかし、瓦礫出入り口の殆どが埋まってしまい、入れない状態だった。
「『創造』でダイナマイトとか作れないの?」
「無理。それよりも『復元』で少しこの辺直せない?」
ダイナマイトが作れれば話が早かったが、そのようなものの知識をルゥは持っていない。
しかし、ユイの『復元』なら話は別だった。
「ああ、確かにできそう」
そして、ユイは『復元』の能力を使う。
すると、牢屋の入口を塞いでいた瓦礫がスルスルと戻っていき、一つの壁となった。
「……こんなに『復元』できたっけな?」
今までは小物の復元程度しかできなかったが、気づけば壁の修復までできていた。もしかしたらもっとできるのかもしれない。
「それで、行くの?」
「もちろん、行かなきゃ何もわからない」
そしてユイとルゥは、牢屋の部屋に入っていく。
中は案外綺麗なままだった。
どこの部屋も、先日まで誰かが住んでいたかのようだった。
「あれ、これ……」
サクラの部屋の枕が、少しほつれている。
もしかしたら誰かがなにかしたのかもしれない。
そこで、たった一つの善意で、そのほつれを『復元』した。
するとどうだろう、いつの間にか目の前に、手紙が現れていた。
「それなに?」
「さぁ……?」
二人は、その手紙を見る。
『こんにちは! もしかしたらこんばんはかもしれないし、おはようかもしれないけど、まぁいいよね!
この手紙を見ているということは、私はきっとすでに死んでいるんですね。それに君は、きっとすごい能力の持ち主でしょう!
なぜならこの手紙は私が直々に燃やした上、誰にも見つからぬように存在を”欠落”させていますからね!
そんな手紙を復元するなんてなかなかミステリー殺しなことしてくれるじゃないですか!
まぁ、それはおいておいて、本題に入りましょう。
手紙を復元しているってことは、きっと謎に挑む準備があるのでしょう?ならば私が見つけた情報を書き残します。だれだか知らないけど、役に立ってくれたら嬉しいです!
さて、まず一つ目は、この屋敷から外に出ることは叶わない、ということです。
正確に言えば、外に出ようとしても運命的に外に出ることができないみたいな感じですかね。たとえばあの高い塀にロープをくくりつけて出ようとしても、ロープが切れたり……そんな感じで何度も試したんですがダメみたいですね!
二つ目に、ここには黒幕がいます。
それがゲームマスターなのか、はたまた別の存在なのかはわかりませんが、私の推論によると必ずいることになるんですよね。
きっとあなたも同じようにここに捕らえられ、そして殺人事件、裁判を経験したでしょう。でもよく考えてみてください。今の今まで普通の人間として暮らしてきた君たちが、ただの衝動的な理由や恨みだけで殺人まで犯すでしょうか?
私が言うのもなんですが、普通は喧嘩……ひどくても殴り合い程度で済むでしょう。
しかしそんなこともなく、殺人事件は突然起こりました。
ここから導かれる結論は……裏で、私たちの感情を操ってる存在がいるってことですね!
他にも色々考えてみましたが、少なくとも私が関わった人たちは人も殺したことがない人ばかりでした。わかるんですよね、私には。
最後に、クモさんを知っている人に向けて。
おそらく、クモさんは『世界』の運命の持ち主です。
なぜって? 勘です!
クモさんが黒幕の線も考えましたが、よくわかりませんでした!
さて、長くなってしまいましたね。私にわかったのはここまで。この手紙を読んでいる君にはぜひとも頑張ってほしいと思っていますよ!
春の花の名前の少女より』
おそらく……いや、明らかにサクラからの手紙だった。
どうやら、燃やされ灰となり、誰にも見つからぬように存在自体を欠落させたこの手紙を、ユイは『復元』したようだ。
「黒幕……クモ……『世界』……?」
一気に謎が降りかかる。
だがそれは、真相を知りたいユイにとって、都合の良いものだった。その謎を解いていけば、自ずと真相に近づける。
「ユイ、大丈夫?」
「うん」
固まったユイに、ルゥが話しかける。
「クモって、ボク達に何を求めているんだろうね」
スマホを見るが、こんな事になっているのにクモは沈黙している。
「さぁ? ただ一つ言えることは、私はクモが嫌いだ」
「うん、ボクも!」
その点で二人は合致する。
こんな場所に突然連れ込まれ、運命を押し付けられ、挙げ句殺人事件まで起きた。
せっかくできた友達も、もう殆どが死んでしまった。
その責任はすべて、クモに取ってもらうつもりだ。
「じゃあ、いこうか」
そうして二人は手がかりを求めて瓦礫の山を調査する。
果てしなく時間がかかりそうだが、そんなことは二人にとって負担にすらならなかった。
いまだ止まらぬユイの黒い涙は、その足跡を残していた。




