Ep.44
「ねぇ、ちょっとこのメールを見てほしいんだけど……」
ヒナタが差し出したのは、クモからのメールだった。
「『さて、皆さん揃いましたね。悲しいことに、また一人死んでしまいました。悲しいですね、恨めしいですね。ですので、犯人を処刑する裁判を開きます。今が二十四時前なので、まぁ明日の八時にしましょうか…………』……ってあるよね。見てほしいのはこの時間の部分。『二十四時前』ってあるけど、こんな時間経ってたっけ?」
ヒナタの疑問はまた一つ議論を進歩させる。
「……たしかに、私が牢屋に戻ろうとしたのは二十三時より前のはず」
ルゥも、その異常性に気づいたようだ。
「そうだよね。だって二十三時になると施錠されちゃうから、それより前に戻ったはずなんだよ。でも、アズキちゃんが見つかったのは二十四時、おかしいんだよ」
そう、そこには時間的な齟齬が生じていた。
「それってさ、時計がずらされてたってこと?」
「まぁ……そうなるかな」
ユイの確認に、ヒナタは同意する。
「うーん、でも一時間も時計がずらされてたら普通気づくと思うんだけど……」
「……まぁ、それもそうかも」
ただ、再び口を開いたユイの言うことももっともである。
「それよりも問題は、なぜそんなことがされたかだ」
ルゥは、時計をずらした理由を知ろうとしていた。実際それがわかれば、犯人に近づくこともできるかもしれない。
「うーん、犯行時刻を誤魔化すため……でも結局は全員同じ時間を認識してるから意味無いなぁ」
ヒナタは、咄嗟に思いついた推論を話すが、結局全員が同じ時間を認識していたら意味がないと結論を出す。
「結局、謎が一個増えただけかぁ」
ユイが嘆く。
いつの間にか進む一時間の謎が増えたが、いまだ犯人へつながる証拠は見つかっていない。
いや、ここでユイが一つ思いつく。
「あ、そういえば昨日アズキがやけに早く寝てたけど、そういうことか!」
「え、どういうこと?」
ユイの突然の言葉に、ヒナタが説明を求める。
「多分だけど、アズキだけは正しい時間? って言えばいいのかわからないけど、とにかくずらされた時計に惑わされてなかったんだよ。だから私たちより早く寝たんだ」
ユイの説明に、ヒナタはなるほどと思う。だが、それと同時にもう一つの疑問が浮かぶ。
「……でも、それによって何ができるの?」
「そりゃ、決まってるでしょ! 犯人は、アズキに一人になってほしかったんだよ!」
その一言は、皆を納得させるだけの力を持っていた。
アズキが自力で気づいて正しい時間を知ったのか、はたまた時計をいじった犯人がアズキだけに正しい時間を教えたのかはわからないが、どちらにせよアズキだけが正しい時間を知り、アズキ以外は犯人によって一時間間違った時間を認識していたのは事実だ。
そこから推測されるのは、アズキが一人で牢屋に戻るという状態を作りたかった、ということだった。
「……あれ、でも結局アズキを刺したやつがわからないな」
結局、アズキを刺した犯人はわからずじまいだ。
「……また行き詰まってしまいましたね。もう一度まとめましょうか!」
サクラが再び事件のおさらいをする。
「まず、大前提として私たちの認識している時間とアズキさんの認識している時間にはズレがあった、ということがありましたね! そして、私たちが二十二時だと思っていた頃がおそらく実際には二十三時、つまりは施錠時間です。アズキさんはそれまでに部屋に戻ったということですね!」
時間の認識のズレ、それが新たにわかった情報だ。
「そして、私たちが二十三時だと思っていた時間は、実は二十四時で、そこでアズキさんの死体が発見された、という感じでしょうか!」
そうしてまとめが終わる。
だが結局、アズキが殺された時刻などは分かっていない。
「あの、一ついいでしょうか」
そこで、ノノミが発言する。
「もう一つワタシ達にわかってないこととして、あの紐についてなんですけど」
それは、アズキに刺さっていた剣についている紐であった。
「それがなにか?」
「えっと、一つ考えてたことがあって、やはり何かしらのトリックに使われたっていうのが自然じゃないのかなって思って……それで確か牢屋の鍵って錠ですよね?」
そうしてこちらに視線を投げかける。おそらく求めている情報は牢屋の写真だろう。
それを見せると、ノノミはやはりと言った表情で納得する。
「これ、錠に紐をくくりつけて、錠が閉まった時に紐が外れる機構、作れますよね。そうすれば、錠が閉まる二十三時、だれもそこに行かなくても、時間になれば自動的に剣が落下して下の人間を刺す……なんてことも可能な気がします」
たしかに、ノノミの言うとおりであった。
部屋の錠に紐をくくりつけ、蛍光灯か何か上にあるものに引っ掛ければ、時間差で剣を落とすこともできるだろう。
ただ、それには大きな問題があった。
「でもそれってさぁ、確かに紐の使われ方としてはありそうだけど、そんなわかりやすく剣が吊り下がってたら流石に気づくんじゃない?」
ユイの言うことが無視できない問題としてある。
ただ、ヒナタはそこで一つのことを思い出した。
「いや、ユイちゃん、それができる人が居るよ。それは……」




