Ep.41
あれからもずっと図書館にこもり続けた。
しかし、どれだけ頑張っても、今以上の成果を出すことができなかった。
「うーん、やはりと言うかなんというか、無理ですね!」
サクラがきっぱりと言い切る。すでに何十回も本を見直し、文字の形だけなら意味はわからずとも模写できるようになってしまった。
「ルゥさんの『創造』で辞書とか作れたら良かったんですけどねぇ」
ルゥにそのことを相談した時、ルゥからは無理と告げられた。
どうやら、ルゥの知っている情報のみでしか物は作れないらしく、未知の言語はおろか、英和辞典や国語辞典もルゥの知る知識のみでしか作れないようだった。
「しばらく別のことしたほうがいいのかな……」
ヒナタは呟く。ユイはすでに解読作業に飽きたのか、漫画を読み漁っていた。
結局、得られた情報としては、この本はとても昔にできたものである、という程度だ。
「たしかにそうですね! 久々に外の空気を吸いに行きましょうか!」
サクラの言葉で、四人は庭に出ることとなった。
「うーん、空気が美味しいとはこのことでしょうか!」
庭に出れば、相変わらずの太陽が迎え入れ、森や湖を通った澄んだ風が四人を包む。
「ずっと図書館に入り浸ってたからね~」
そんなヒナタも大きく息を吸い込む。新鮮な空気が自身の肺を満たす。
「ではでは! 走りましょう!」
もはや恒例となった、木までの競争。四人はそれぞれ準備運動を始める。
「よーい、スタート!」
サクラの号令とともに、四人は一斉に走り出す。はじめの頃こそ疲れ果ててしまったが、今では慣れたのか体力がついたのか、かなり余裕もできていた。
「やった! 一番乗り!」
一着はアズキだった。つづけて、サクラ、ヒナタ、ユイの順番で到着する。
「ふぅ~、やっぱり走るのは気持ちいいですね!」
サクラはいつも以上に清々しい表情をしている。
ヒナタとユイも、息を切らしながらも気持ちの良い表情をしていた。
「あ、あれってルゥさん達じゃないですか?」
アズキの言葉に、ヒナタ達は指された方向を見る。
たしかに、平原で寝そべっているルゥとノノミの姿があった。
「行きましょう!」
サクラの言葉に続き、皆でルゥ達のもとへ向かう。
「あれ、どうしたの?」
ルゥとノノミもこちらに気づいたようだ。
「実は皆で外に出ようという話になりまして……」
「なるほどね」
ルゥは、寝転がりながらも相槌を打つ。
「ルゥちゃんたちは何をしてたの?」
「特に何も。ただ寝転んでただけ」
ヒナタの質問に、ルゥは答える。特に目的があってここに居るわけではなさそうだった。
「ワタシがちょっと無理やり連れ出したんですよ。ルゥさんずっとレクリエーションルームに引きこもっていましたから」
ノノミが言うには、ヒナタ達が図書館で本を読み漁っている間、ルゥはレクリエーションルームに引きこもっていたらしい。
それを心配したノノミが、半ば無理やり外に連れ出したということだった。
「なるほど! 確かに引きこもってばかりだと体調崩しちゃいそうですしね!」
サクラは、自身の今までの行動を棚に上げていた。
そんなサクラは、そういえばと言わんばかりに懐から何かを取り出す。
「見てください! 実は食堂からお米を拝借しておにぎり作ってたんですよ! 一緒に食べましょう!」
取り出されたのは、紙に包まれたおにぎりだった。少し冷めて入るが、その米の輝きは失われていない。
「わぁ、美味しそうですね!」
アズキが一つ受け取る。ユイやヒナタ、ルゥとノノミも、それぞれ受け取った。
「おいしい」
ルゥが、まごうことなき本音を漏らす。少し冷めてはいても、そのおいしさは保たれている。
その上、目の前には素晴らしい景色、そして気持ちの良い風が吹いている。多少の味の変化は気にならなかった。
皆で食べる気持ちの良いおにぎりは、普段の食事よりも美味しく感じた。
「まるでピクニックですね!」
サクラもおにぎりを頬張りながら嬉しそうな表情を浮かべる。
ヒナタ達も、おにぎりを頬張りながら気分よく過ごしていた。
そうして、時は過ぎる。
皆でゆっくり談合していると、いつの間にか日が暮れていた。
「そろそろ戻ったほうが良さそうですね」
サクラの言う通り、日の光があるうちに帰ったほうがいい。真っ暗になってしまったら屋敷に戻るのは難しくなってしまう。
そうして全員で屋敷に戻った。
途中、門番のように黒いスライムがいたが、無害だとわかった今、もはやマスコットのようになっていた。
「ふあぁぁ、今日はいい日だなぁ」
ユイがそんなことを呟いた。すでに日は暮れ、夕食後の時間帯を各々が自由に過ごしていた。
ヒナタとユイは、休憩室でお茶を飲んでゆっくりしている。
「それにしても、こうやって皆で過ごすのがこんなに楽しいとは思わなかったよ」
ヒナタも、今日の日には特別な感情を抱いていた。
普段は決まったメンバーとしか話していなかったが、ルゥやノノミと関わり合い、普段と違った刺激をもらったのだ。
「たしかにね~、ちょっとトイレ行ってくるわ」
ユイはそう行って休憩室を後にする。
一人残されたヒナタは、時計をチラ見する。
(まだ夜の九時か、もう少しゆっくりしていこうかな)
ヒナタはお茶を飲みながらこれまでのことを振り返る。
サクラと出会い、アズキと出会い、ユイと出会い、それから……
(なにか大事なこと忘れてる気がするんだよなぁ……)
しかし、それを思い出すことはできない。思い出そうと考えるほどにわからなくなるのはいつものことだった。
「よっす、ヒナタはもうそろ寝る?」
そんなことを思っていたら、ユイが帰ってきた。
「いや、まだだけど。どうしたの?」
「アズキがもう寝るらしいからさ、早寝早起きは健康のもとなのかなぁ」
そうしてちらりと時計を見るが、まだ夜の九時を過ぎたところだ。ただ、いい子は寝る時間なのだろう。
「ボクは今からレクリエーションルームで暇つぶしするけど、来る?」
「行く!」
そうしてヒナタとユイは、施錠までの少しの間、レクリエーションルームで遊ぶことにした。
レクリエーションルームには、すでにサクラとルゥ、ノノミがいた。
「これで終わりです!」
「つ、強い……」
サクラ達は、大富豪を遊んでいた。どうやらサクラがルゥとノノミに圧勝したらしい。
「わぁ、サクラちゃん強ーい!」
「ふっふっふ、もっと褒めてくれてもいいんですよ!」
サクラは褒められて嬉しそうだ。
「ヒナタさんとユイさんも一緒にやりましょう!」
そうして、二人は巻き込まれるように大富豪に参加する。
しかし、どれだけやってもサクラに勝てなかった。
「うぅ~、勝てない……」
ユイはサクラのあまりの強さに気を落としている。もはや、運とかそういう次元ではなさそうだった。
「そろそろ時間が迫ってきましたね」
時計を見れば、夜の十時を過ぎている。そろそろ牢屋に戻ったほうがいいだろう。
「そうだね、片付けしようか」
そうして一行は片付けを終える。五人で片付ければどれだけ散らかっていてもあっという間だった。
「戻ろう」
ルゥがそう行って、先に部屋を出る。それに続いて、皆牢屋へ戻る。
この時点では、みな平和だった。今日という日を楽しく過ごし、また平和な明日があると思っていた。
しかし、そんな平和は、脆い岩盤の上に成り立っていたものだと、すぐに気づくのだった。
「あ……あぁ……」
ルゥが口を抑えて後ずさる。
異変を感じた四人が、すぐにルゥのもとへ駆け寄る。
「あ……」
しかし、その四人も目の前の光景に声を失う。
そこには、アズキの死体があった。
その胸には紐のついた剣が突き刺さっており、明らかに致命傷と言える。
光の届かぬその場所で、『太陽』は目の光を失っていた。




