Ep.39
『たった今、投票が終わりました。投票結果を公開しますね
・白石マコト 7票
というわけで、今回処刑されていただくのは、白石マコトさんです』
クモの声が裁判所に響く。
三回目の処刑。マコトは、何も聞かずとも裁判所の中央の四つの束のカードを引く。
そして再び現れる一つの束。
『勝手に動いてくれて仕事が楽です』
クモ言葉と同時に、マコトがそのカードを引く。
『結果は……IX.隠者。いい運命ですね』
クモの声とともに、裁判所は強大な光に包まれる。
皆が目を開けた時に現れたのは、一つの椅子と大きなランタンだった。
「……ッ!」
マコトは足を止めようとする。しかし、その意志に反して、足はどんどんと椅子の方へと歩いていた。
「くそ……」
やがてマコトは椅子に座る。直後、その椅子からツタが伸びたかと思えば、マコトの体をガッチリと固定した。
マコトはどうにか振りほどこうとするが、そのツタはびくともしない。
『それでは処刑……執行です』
ランタンが、椅子の上から覆いかぶさる。まるで、マコト自身が光源になったかのような光景だ。
「……ッ! 熱い熱い!」
マコトの悲鳴が裁判所に響く。
その様子は、まるでマコト自身が光り輝いているかのようだった。
その光は、少しずつ、少しずつ強くなっていく。
「クソッ……なんで私ばっかり! なんでアイツらはあんな平和で! なんで私が!」
その魂の叫びは、マコトの本心であった。
マコトの近くに居た人間はすでに二人も死んでいる。
孤独に弱いマコトは、それがどうしても耐えられなくて……許せなかった。
「ああぁぁぁぁああぁぁぁ熱い熱い熱い!!!!!」
どんどんと、その光は強くなる。もはや、直視しては居られないほどに強くなっていた。
「あ……あぁ…………」
何分経っただろうか。
いつしか、マコトの悲鳴は聞こえなくなっていた。
そして、やがて光も収まる。
六人の少女たちの目に写ったのは、すでに焼けたように息絶えたマコトの姿だった。
孤独を恐れた彼女は、最期の姿を誰にも見られることなく、焼死体となってしまった。
「あれは……」
直後、マコトから黒いスライムのようなものが現れる。その体積はだんだんと大きくなっていき、やがてランタンの中を満たした。
『戻りなさい。※※※※※』
クモの声とともにスライムは沈んでゆく。そしてマコトの死体とともに、すべてが消え去っていた。
『無事、罪人の処理が完了しましたね。それでは飛鳥井ケイ、桑原ヒビキ殺人事件裁判……閉廷です』
クモの一言により、裁判は終わった。
裁判所の空気は今にも押し潰れてしまいそうなほど重い。
「……」
普段は元気に牢屋に戻りましょうと言っていたサクラが、無言で裁判所を後にする。
サクラに続き、全員が裁判所から出る。
今日の日はもはや誰も何も話さなかった。
何も話さずに共に夕食をたべた。
慣れきってしまった極上の味も、もはや何も感じなかった。
†
「おはようございます!」
朝が来る。
相変わらず牢屋の窓から外は見えないが、今日も元気にサクラは挨拶をしている。
「あ、おはよう……」
ヒナタは目をこすりながらも支度をする。
もうここの生活にも慣れきってしまった。
「よし、今日は図書館に行きますよ!」
サクラの元気な言葉が響く。
そんなヒナタは昨日の事をふと思い出してしまった。
(ケイちゃんにヒビキちゃん、そしてマコトちゃん……)
ヒナタの記憶は未だに戻っていない。
サクラたちの話を聞くと、すでに死んでしまった人たちのことを忘れているようだった。
(忘れないように、メモを取っておこう)
ヒナタの気持ちとしては、もう誰のことも忘れたくなかった。
だからこそ、こうやってメモに取る。もしも忘れてしまった時に、これを見て思い出せるかもしれないと考えたからだ。
「ん? どうしましたか? ヒナタさん?」
そんなヒナタの暗い気持ちに感づいたのか、サクラが話しかけてくる。
いつの間にか、アズキとユイもそこに居た。
「大丈夫だよ。それよりも早く行こう」
ヒナタはサクラに心配はかけさせまいと答える。
その様子のヒナタに、サクラは安心したようだ。
「それなら行きましょう!」
そうして四人は朝食を食べ、図書館へ向かう。
「最近、気になる本を見つけたんですよ」
そう言うのはアズキだ。最近は図書館に長く居座っている。
「どんな本なの?」
「これ……なんですけど」
ヒナタが問うと、アズキはすでに机の上においてあった本をヒナタに渡す。
題名は……
「……読めない」
読めなかった。
自分が意味を知らない単語だったとか、そういう次元ではなかった。
ヒナタが今まで生きてきて、一度も見たことがない文字であった。
「アズキちゃんは読めるの?」
「い、いえいえ! というか正直、ここにこの本が読める人は居ない気がするんですよね……」
アズキの言うとおりであった。見たこともないその文字は、もはや外国語が得意とかそういう次元ではない。
それこそ、言語学者でないとわからない文字、というレベルである。
「うーん、どうにかして解読できないものでしょうか?」
サクラの愚痴ももっともだ。
もしもこの図書館の中に翻訳に関する本があれば話が早いだろう。しかし、この図書館はかなり大きい。現実的ではないだろう。
「やっぱさー、挿絵から読み取るしかなくない?」
ユイの言った通り、この本にはところどころ挿絵が存在している。
絵ならば、言語がわからなくともある程度の意味は理解できるだろう。
しかし問題といえば、その挿絵がかなり少ないということだった。
「これは……何かを崇めている絵でしょうか? こちらは……黒いもや?」
アズキがパシャパシャと挿絵のあるページを写真に収めていく。その挿絵は、どれも謎多いものであったが、いくつかわかるものもあった。
「この黒いモヤは、おそらくあのスライムのことでしょうね!」
サクラの言う通り、見れば見るほど例のスライムだった。
「あとこの絵……崇めてるのか捧げてるのかわかりにくい……」
そしてもう一つの絵。崇めているのか捧げているのかわからないが、中央に一人が立ち、その周辺に何人もの人が跪いている。
「んー、なにかの宗教画みたいですね!」
サクラがそのような感想を言うのも無理はなかった。
「……」
「アズキちゃん大丈夫?」
ヒナタは、アズキが紙で手を切っているところを見ていた。
アズキが気にしている様子はないが、どうしても心配で声をかけてしまう。
「大丈夫です。能力のおかげか、痛みもないし外傷ならすぐに治っちゃうんですよね……」
そういうアズキの目は、少し悲しそうだった。
「私もいつか、ああなってしまうのでしょうか……」
そんなアズキの孤独なつぶやきは、誰の耳にも届かなかった。




