Ep.38
「それって、別に拘束しなくてもできると思います」
「……どういうこと?」
ヒナタの言葉に、マコトは疑問の投げかける。
「ケイちゃんの能力は、確か『感覚共有』……文字通り、他人と感覚を共有できるはず。つまり、例えばヒビキちゃんを刺した時に、ケイちゃんにも同じ痛みがあったはずです」
もしも突然刺されたら、どう思うだろうか。少なくとも、痛みなどで動けなくなってしまうだろう。
そして、ケイが実際に『感覚共有』を使っていたかどうかはもはや関係ない。それができるかどうかが重要なのだ。
「でも、それだとケイの剣の説明がつかない」
ルゥがヒナタの推理の穴をつく。
しかし、ヒナタの推理にはまだ続きがあった。
「いや、そもそも、ケイちゃんに刺さっていた剣はケイさんの剣なのでしょうか?」
「……どういうこと?」
ヒナタの言葉に、一同は疑問を持つ。
「別に、ヒビキちゃんとケイちゃんを刺した剣がケイちゃんのものである必要がないですよね」
そしてヒナタが提示したのは、アズキ以外の全員が常に携帯している剣だった。
「つまり、マコトが自分の剣でヒビキを刺し、ケイをも殺した……ということか?」
ルゥのまとめにヒナタは頷く。
しかし、マコトが黙っているはずがない。
「……たしかに私が彼女らを殺したかもしれない。そういう可能性があることは認める。けど、推測だけで証拠もなしに私を犯人だと決めつけるのはよくない」
マコトの言うこともまた事実であった。
結局のところはこれは可能性の話であり、マコトがやったという決定的な証拠があったわけではなかった。
「ふむ、ではマコトさんがやったとすれば、今マコトさんが持ってる剣はケイさんのもの、ということになりますね!」
そこで、サクラが話し始める。
「なぜなら、例えばヒビキさんやケイさんを刺した剣をそのまま持ち帰った場合、その血濡れた剣に気づかれてしまったらどうしようもありません。実際、食堂でマコトさんと会いましたしね。そして、私たちが庭に出た後、マコトさんは医務室へ向かいました。つまりは、その剣を洗い流す時間はなかったということですね!」
サクラの言うことにだれも反論できない。
そして、ヒナタもここでようやく思い出す。
剣には、それぞれ選ばれたかのように数字が刻まれていることに。
「それではマコトさん、その剣を見せてください!」
「……わかったわ」
マコトは渋々といった表情で剣を抜く。そこに刻まれていた数字は……『XVIII』、つまりは、マコトに選ばれた『月』である。
「あれ、じゃあマコトちゃんは犯人じゃない……?」
ヒナタにそんな考えが浮かぶ。
しかし、サクラは止まらない。
「では、触らせてもらいますね!」
そう言ってサクラはマコトの持つ剣に触れようとする。
「やめ、やめて!」
「やめません!」
マコトの抵抗虚しく、サクラはその刀身に触れる。
すると、マコトの持つ剣の姿がサッと変わる。変わったのは刻まれた数字だ。
その数字は……『VI』、つまりは、ケイに選ばれた『恋人』の数字であった。
「あ……」
だれかが、そんな声を漏らした。全員が何も話せずに居た。
明らかで、決定的な証拠が……出てきてしまったのだ。
「まぁ、いいや」
すでにマコトは諦めていた。
その顔は、清々しいような、やってやったという表情をしていた。
†
マコトは、極度のさみしがりだ。
そばに誰かがいなければ、その心は深く、深く沈んでしまう。
だからこそ、ここに来たばかりの頃、自分に話しかけてくれたウミやルゥ、ノノミ、そしてリリィたちに感謝していた。
しかし、殺人容疑でリリィが処刑され、ウミは殺されてしまった。
ルゥはノノミと仲が良かったが、自分と仲が良かったリリィは居なくなってしまった。
ルゥにコバンザメのようにくっつく生活をしていたが、だんだんと彼女の心は暗くなっていった。
そんななか彼女の目に入ったのはケイとヒビキ、そしてヒナタ達一行だ。
うらやましい。
うらやましいうらやましいうらやましい。
そんな考えが次第に心を支配していく中、それはやがて嫉妬となった。
その瞬間、彼女の内側にどす黒い感情が駆け巡った。
そうだ、殺そうと。
私と同じ目に合わせようと。
ターゲットは、人数の少ないケイたちだった。
自身の『幻惑』で朝、ルゥたちと行動をともにする。
ルゥ達はボディタッチをあまりしないから、この幻影がバレることはなかった。
そこでアリバイを作っている間に、ヒビキの後を追い……孤立したところを自身の剣で背後から刺す。
そこで、逃げる予定だった。
しかし、ケイがまるで死んだのがわかったかのように戻ってきたのだ。
焦ったヒビキは、なにかされる前にそのままケイも殺した。
本来の計画と狂ってしまったが、そこでマコトに妙案が浮かび上がる。
そうだ、自殺に見せかけようと。
自身の血濡れた剣はそのまま刺しておく。ちょうど番号が刻まれた部分が見えなくなるように努力した。
そして、二人の死体を近づけ、手を使い血のハートで囲む。
なんともドラマチックな自殺現場になったのだろう。
そして自身の刺した剣の代わりに、ケイのきれいなままの剣を持ち、そのまま去る。
そして幻影は一度リリィたちの前から離れ、自身と入れ替わる。
そして、完璧なアリバイが出来上がったのだ。
†
「じつはヒナタ達と朝食を食べている時、私の両手も体も血で濡れていたんだ」
問題だったのは返り血だった。こればっかりはどうすることもできない。『幻影』は、他人に触れられると強制的に解除させられてしまう。だからこそ、彼女は仕方なく、多くの時間を一人で過ごしたのだ。
「手は調査の時に洗ったけど……体はほら、このとおり」
マコトがその『幻影』を解除する。するとそのマコトの衣装は、血で染まっていた。
あきらかに、マコトが犯人だと示すものだった。
「マコトちゃん……」
「なに? ケイかヒビキを殺したら、次はあなた達の予定だった。それでもそんな目をする?」
ヒナタの目は、殺人犯を見る目ではなかった。
それはまるで、いまだに信じられない、そう語っていた。




