Ep.31
「……え?」
「あと、さっき言ってたヒカリさんと、ウミさん? もちょっとわからないな……」
ヒナタの発言に、三人は呆然としている。
「……えっと、私たちのことはわかりますか?」
「それはもちろんだよ! サクラちゃんにアズキちゃん、ユイちゃんでしょ? 忘れるわけないじゃん!」
サクラの問いかけに、ヒナタはスラスラと答える。
「ふむ、じゃあ、『星』とか『悪魔』ってわかる?」
「わかるよ。たしか気持ちよ~くなれるタロットと拘束とか誘惑ができるタロットでしょ?」
サクラからの再度の問いかけにも、スラスラと答える。
「ヒナタさん、一緒に医務室に行きませんか?」
「ん? いいよ」
アズキが、ヒナタを医務室へと連れ込む。
サクラとユイは、食堂にとどまっている。どうやら、ゲテモノの処理に四苦八苦しているようだ。
「それにしても、なんで医務室に?」
「あの、なにかわかることとかありませんか?」
アズキが医務室の扉を開ける。窓からは気持ちの良い日差しが入り込んでおり、ベッドは綺麗な白色となっている。
「うん? やっぱ清潔感あるきれいな部屋だよね!」
「そう……」
アズキは、少し残念そうな表情を浮かべる。
「アズキちゃん大丈夫? 体調悪い?」
「い、いえいえ! 大丈夫です!」
ヒナタはアズキのことを心配するが、アズキは大丈夫と心配をかけさせないように答える。
「じゃ、じゃあ次は一緒に物置部屋にいきましょう!」
アズキは、今度は物置部屋へと誘う。
(アズキちゃんどうしたんだろう。なんだかちょっとよそよそしいというか……)
そんなアズキの様子に、ヒナタは少し違和感を持つ。
ふと、何かを感じて、医務室を振り返る。
誰かが居た気がしたが、実際は誰も居なかった。
「……? ヒナタさんどうかしましたか?」
「ああ、いや、なんでもない」
そうして二人は物置部屋へと向かうのだった。
「……アズキにヒナタ。元気そうか?」
物置部屋には、すでにルゥがなにか探し物をしていた。
「元気だよ。ルゥちゃんは何してるの?」
ヒナタがルゥに対して問う。
「ああ、ウミの遺品がないか探していて……」
「……ウミ……さん?」
アズキが冷や汗をかく。
アズキから見れば今、ヒナタの様子は明らかにおかしい。まるで記憶を失ったかのような……
「ルゥさん、少し耳貸してください……」
「んえ?」
アズキはそのままルゥにそっと伝える。
もしかしたら今のヒナタは、記憶を失っているかもしれないと。
「……それマジ?」
「残念ながら……」
そんな話をしているうちに、ヒナタは物置部屋を漁っていた。
「あ、スタジアムだ! そういえばベイの方も見つかってたよね? これで皆で遊べるね!」
ヒナタはスタジアムを見つけていた。それと同時に、ベイゴマの存在を思い出す。
「……そういえばそうですね!」
アズキがヒナタに話を合わせる。一旦はルゥとの話は保留となった。
「あれ、皆さんここに居たんですか!」
そして、物置部屋の外からサクラの声が響く。
「ルゥもここに居たのか」
そこに居たのはサクラだけでなくヒビキも居た。いや、ヒビキ以外にも、ユイやケイ、ノノミ、マコトもいた。
「ヒナタ、君が記憶喪失というのは……ほんとうなのか?」
ヒビキが心配そうにヒナタに問う。
「え? 私が……記憶喪失?」
「そうですよ! ワタシ達はサクラさんに聞いたんですが、リリィさんやキヨさん……ヒカリさんやウミさんのことを覚えていないと……」
ヒナタの疑問に、ノノミが答える。そして、ノノミは、サクラに聞いた話を心配そうに話す。
「リリィさんにキヨさん……ヒカリさん……ウミさん…………」
ヒナタは深く考え込む。しかし、いくら考えてもその名前を思い出すことができなかった。
それはまるで、記憶がすっぽりそこだけ抜け落ちたかのようだった。
「ごめんなさい……わからないの」
「そう……」
ヒナタは申し訳なさそうに謝る。しかし、そんな彼女のことを責めるような人間は、ここには居なかった。
「私の推測ですが、これはヒナタさんの自己防衛じゃないでしょうか? 関連した記憶は覚えているのに人物情報だけ綺麗に記憶を喪失していますし……専門家じゃないので何もわかりませんが!」
サクラが推測を話すが、残念ながらここに専門家は誰も居ない。所詮、門外漢の集まりなのだ。
「私、記憶を失ってるんだ……」
ここまで言われれば、ヒナタだって気づく。自身が何かしらの記憶を失っていることに。
「まぁまぁ、そのうち思い出すっしょ」
「そうですね! 何がきっかけで思い出すかわかりません! このまま見守っていきましょう!」
ケイとサクラの一言で、この問題は一旦保留という形となった。
幸い、なくなった記憶はそれぞれの個人のみだったため、屋敷での日常生活に支障はなく、人格が急変したわけでもない。
「ううう……ごめんなさい……」
「そんな、ヒナタさんが謝ることじゃないです……」
ヒナタは申し訳なさに謝るしかなかった。アズキの慰めも、彼女の申し訳なさを緩和するだけで、なくすことはできなかった。
「まぁ、一旦今日のところは解散ということで!」
サクラの号令で、少女たちは解散する。時間は十二時を過ぎている。そろそろ昼食の時間だ。
「はぁ……なんだか申し訳ないな……」
ヒナタはずっと気を落としたままだ。
そんなヒナタに、サクラとアズキ、ユイがつきそう。今ではもはやおなじみの面子だ。
そして、そのまま四人も昼食を食べに食堂へ向かった。
「まぁまぁ、元気だしてください! 私たちがついています!」
サクラがヒナタを励まし続ける。
ただ、三人ともわかっていた。
おそらくその記憶は思い出さないほうが精神衛生上はいいということに。
なぜならヒナタが思い出そうとしている三人は、すでに死んでいるのだから。
ただ、そんなことは口が滑っても言えないのだった。




