Ep.30
夕食を食べ終わったヒナタたちは、そのまま床につく。
極上の味も、すでに日常と化していた。
(もう、殺人事件なんて起こりませんように……)
そんな思いを抱きながら、今夜もヒナタは眠りにつく。
†
「ほら、ヒナタ。ご飯の時間よー!」
ヒナタを呼ぶ声がする。
(あれ、これは……お母さんの声?)
なにか違和感を感じるが、その違和感はすぐに消えていった。
「はーい! お母さん、今日のご飯は?」
ヒナタも返事をする。その様子は、まるで日常の一部分を切り取ったかのようだった。
ヒナタが母の顔を見る。不思議と、その顔を思い出せなかった。
「ただいま~」
「今日は手作りパスタよ~! あ、あなたもお帰り~」
(今度はお父さんの声?)
今度は父の声が聞こえる。父の方を見るが、その顔を思い出せない。
「おじゃましま~す!」
「あら、サクラちゃんもいらっしゃい! 皆の分のご飯もできてるわよ~!」
そこに、サクラも来た。
いや、サクラだけではない。
キヨ、マコト、ケイ、ヒビキ、アズキ、そしてウミがサクラと一緒に来ていた。
(なんだか……)
再び、ヒナタは違和感を覚える。なにか、本来ここに居ないはずの人物がいるような……
「それではヒナタさん、今日からよろしくお願いしますね!」
何をよろしくお願いされるのか、ヒナタには何も思い出せない。
「皆、今日は何があったっけ?」
「え、それはアレですよ! ※※※※※!」
聞き取れない。
「皆で※※※※※で※※※ましたもんね!」
「ヒナタ君も一緒に※※※※たじゃないか!」
何も、聞き取れない。
直後、その明るい光景に亀裂が入る。
それは思い出せないが一度経験したことのある光景だった。
(まって、やめて!)
もうその声は届かない。
ウミが、キヨが、亀裂に吸い込まれていく。
(あ、あああぁ……)
もはやヒナタにはどうすることもできなかった。
†
「おはようございます! ヒナタさん! 目の下のくまがすごいことになってますよ!」
牢屋の外では、いつものようにサクラがアズキとユイを連れて挨拶をしていた。ユイは相変わらず半分寝ている。
他の牢屋を見ると、すでにルゥたちは起きて何処かに行ったようだ。
「おはよう……ごめんね、少し眠れなくって」
気だるい気分を隠しながら、ヒナタも身支度を済ませる。
「ヒナタさん……無理はしないでくださいね?」
アズキが心配そうにこちらを見ている。
「あはは、大丈夫だよ」
心配いらないとヒナタはいい、そのまま四人で朝食に向かった。
いつもと変わらぬ味。極上の美味しさも慣れきった。
「うーん、やっぱ味には変化球が欲しいですね!」
「サクラちゃん、いくらなんでもそれは……」
サクラの机には、明らかに色々混ぜて出来上がったスープがあった。正直、ゲテモノとも言える。
「はむ……不味い!」
そして予想を裏切らず、そのあじは最高級を集めたものだと言うのに不味かった。
「あはは!」
その様子に、ヒナタは笑う。
「そういえばなんだけどさ~、ちょっと暗い話だけどいい?」
ふと、ユイがそんな事を言い始めた。
「いいですよ!」
「……ヒカリがリリィに殺されて、ウミがキヨに殺された。加害者の二人も、本来はそんな事するような人間じゃなかった……ってのがボクの感じることだったんだけど、やっぱりあの二人が……特にキヨが殺人を犯すのに違和感が……ね? この気持ちわからない?」
「確かにそんな感じが……」
ユイの言葉にアズキが賛成を示す。
「私がキヨさんを看病してた時、すごいいい子だったんですよ。私のことは構わないでいいとか……ずっとそんなことばっかりで……だから、あのときは本当に信じられませんでした」
アズキは一度キヨと二人きりになったことがある。その際の印象としては、キヨは殺人を犯すような人間ではなかったらしい。
「いや、キヨさんがすごいポーカーフェイスでずっと己を隠してたなら話は別ですが……」
「うーん、でもキヨさんも、大富豪大会とか素で楽しそうでしたけどねー!」
サクラの印象としては、特に大富豪大会の時のキヨが一番自分をさらけ出していたのではないかと言うものだ。
「ヒナタさんはどう思いますか?」
「……え?」
突然振られた話題にヒナタは困惑する。
「えっとね、ヒナタから見て、リリィやキヨはどういう人間だった?」
ユイがサクラの言葉に補足する。
しかし、ヒナタの口から飛び出したのは、誰も予想しなかった答えだった。
「えっと……リリィさん? とキヨさん? って、どなたでしたっけ」




