Ep.28
『ふむ、まぁ少しは答えてやってもいいでしょう』
クモは一呼吸おいて話し始める。
『まず、なぜこんなことをさせるのかについてですが……そもそもあなたたちが原因では? 殺人事件なんて起こさなければこんなことしなくてすむんですよ』
そしてまた一呼吸おく。ずずずと、何かを飲んでいる音も聞こえてきた。
『ぷはぁ、次に、なぜあなた達なのかと。言ったでしょう? あなた達は運命に選ばれたと。それだけですよ』
そしてまた一呼吸がおかれた、まるでもったいぶっているかのような態度である。
『最後に、あのスライムはなんなのかと、この裁判中に言ったはずですよ、「運命」だと。強いて言うなら、あなたたちも結局ああなるんです。まぁ、幽霊みたいなものなので、気にしないでくださいね』
そういってすぐに返答はなくなる。まるで追求を避けるかのようだった。
「ちょっと! 説明が少なすぎますよ!」
サクラの文句も、もうクモには届いていなかった。
結局、よくわからない、ということだけがわかった。
「……とりあえず、牢屋に戻りましょうか!」
サクラの声で皆が動く。
ウミを失い、皆どこか元気がなくなっている。
それはそうだろう。
ウミは皆の心の支えであり、頼れる存在であったから……
†
「……」
裁判所を出たヒナタは、一人で医務室へ向かう。
そこには、もう誰も居ない。
あの強烈な腐敗臭も、裁判所から出たときには消え去った。
キヨも、もう居なくなってしまった。
「う、うぅ……」
ヒナタは泣いた。
この屋敷に閉じ込められて、初めて泣いた。
別に今までが何も感じなかったわけではない。
ただ、ここまでまじまじと喪失を見せられては、その涙が止まることはなかった。
「なんで、こうなっちゃったかなぁ……」
思い出すのは、ここに来る前の光景。
学校に通い、ご飯を食べ、友達と遊ぶ、そんな光景。
しかし、それはもう遠い現実となってしまった。
ここから逃げることができないのは、ケイが何度も証明していた。
すでにケイも諦めている。
「ん? こんなところで何してるの?」
ヒナタに声を掛ける者が居た。
ユイだ。
「ユイちゃん……」
「ちょっと、涙でくしゃくしゃじゃん。泣いちゃった?」
ユイの言葉に静かに頷く。
「あれ、ヒナタさんにユイさんじゃないですか!」
そこに、サクラとアズキも合流する。
「あの、どこか具合が……?」
「大丈夫だよ、アズキちゃん。大丈夫」
アズキに大丈夫と伝える。自身にも、大丈夫と言い聞かせる。
「それでこれからどうします? もう三時のおやつの時間終わっていますが」
サクラの言う通り、医務室の時計を見れば、その時間が三時を過ぎていることがわかる。
「わたしはちょっと外出たいかな……」
その言葉にヒナタは答える。
今のヒナタは、とにかく自分自身が落ち着ける場所を探しているのだ。
「なら行きましょう!」
「ええ~」
ユイが不服そうな顔をするが、そんなことはお構い無しとサクラがユイを含め外に連れ出す。
「一緒に行けば楽しいですよ!」
そんな事を言いながら、四人は外へ出る。
まだ元気に輝いている太陽は、皆を暖かく出迎えた。
そんな太陽に照らされた平原は、いつもより輝いて見える。
「おお~、案外きれいじゃん……って、ぎゃぁぁぁぁ!」
ユイが外の景色に見とれたのもつかの間、いつの間にかすぐそこに居た例の黒いスライムに悲鳴を上げる。
「あはは、ユイさん、この子は無害なんですよ!」
そういってサクラはスライムのことをツンツンする。しかし、その手はスライムを幽霊のようにすり抜け、何も感じていなさそうであった。
「そうだけど、そうだけどさぁ~」
それでもユイは涙目だ。
「あ、いっちゃった」
そして少し目を話した隙に、そのスライムは地面へ染み込むように消えていく。
「はあぁぁ、助かった……」
それでようやくユイは胸を撫で下ろす。
「うーん、クモさんが言うには私たちもいつかアレになるらしいですが、どういうことなんでしょうね? まぁ、今はそんなこと関係ないですが!」
そういうと、サクラは木の方向を指差す。
サクラの行動に、ヒナタとアズキはおおよその予測がついていた。なぜならその木は何度も見たことがある、例の大きな木だからだ。
「さぁ、競争ですよ! 準備はいいですか!?」
「え、えぇ?」
準備運動を始めたヒナタとアズキに戸惑うユイ。
その理由は、直後に思い知ることとなる。
「よーい、スタート!」
一斉に駆け出す三人。おいていかれるユイ。
「え、えぇ! ちょっとまって!」
急いでユイも駆け出すが、一歩出遅れる形になってしまった。
「はぁ、はぁ……三人とも、速すぎ……」
ユイが木についた頃、すでに三人は思い思いの姿勢で休憩していた。
「まさかアズキちゃんに負けるとはな~」
サクラが一着であり、二着はアズキ、三着がヒナタであった。
二着となったアズキ自身も、この結果にびっくりしている。
「これって、はぁ、なんのために……」
息を切らしながらも、ユイがサクラに問いかける。
「走るのが好きだからです!」
そんなユイにサクラは堂々と答える。その姿は見ているだけで元気が貰えそうだ。
「ふふ、あはは」
気づけば、ヒナタも笑っていた。
先程まではあんなに落ち込んでいたが、サクラと一緒にいるとどこか気持ちが軽くなる。
「次は森にでも行きましょう!」
「……しょうがないなぁ」
ユイもすでにサクラの雰囲気に慣れたようだ。
四人は今度は森へと駆ける。
時が止まったかのように変わらない風景。走るほどに通り過ぎていく気持ちの良い風は、少女たちの傷ついた心を少しずつ癒やしていくのだった。




