2-33 ケントの世界 その二十一
エッケルハルト宰相の求めに応じて、真贋審理官がゆっくりと立ち上がり、俺の方へやって来る。
その際に、警備の近衛騎士二人が、真贋審理官を守るように一緒に移動した。
真贋審理官は俺の前で立ち止まると、少し高い声で言った。
うん、やはり女性のようだね。
但し、この場合、真贋審理官が男女どちらであっても構わない。
真実を確認できる能力が有れば、それだけで良いんだ。
「貴男にお伺いします。
返答は、『はい』か『いいえ』のみでお願いします。
では、神の御力により、我がスキルを発動して真実を検証します。
神の御許においてとく応えよ。
只今、我らが見せられ、聞かされたモノは、幻影ですか?」
「いいえ。」
「では、幻影でなければ、実際に有ったことと断言できますか?」
「はい。」
真贋審理官は、ふうっと小さくため息をついてから、国王陛下の方を向いて、断言した。
「この方は、嘘を申しておりません。
少なくともこの方の中では、只今我らが観たこと聞いたことは真実であると信じておられます。
では、次の方へ・・・。」
宰相が言った。
「では、只今、目の前で我らが見聞きした中に居られた御一人、ベイエル公爵にお尋ねして、我らが見聞きしたような事実が有ったのかどうかの真贋を検証願います。」
真贋審理官は、今度はベイエル公爵の前に赴いた。
その際に、やはり警備の近衛騎士二人が、真贋審理官を守るように移動する。
だが、ベイエル侯爵は、真贋審理官と目を合わせようとしない。
ン、目を合わせなければ、隠し通せるのか?
俺はこんな場面に出遭ったことが無いから、良く分からんが、一抹の不安が芽生えたよ。
だが、真贋審理官は委細構わず、ベイエル公爵に告げた。
「貴男にお伺いします。
返答は、『はい』か『いいえ』のみでお願いします。
では、神の御力により、我がスキルを発動して真実を検証します。
神の御許においてとく応えよ。
只今、我らが見せられ、聞かされたモノは、事実ですか?」
ベイエル侯爵はひたすら目を下に向け、黙っている。
なるほど返事をしない黙秘作戦か・・・。
だが、それでは疑惑が本物だという印象を与えるよな。
少し待ってから、真贋審理官が言った。
「もう一度、あなたにお尋ねします。
返答は、『はい』か『いいえ』のみです。
では、神の御力により、我がスキルを再度発動して真実を検証します。
神の御許においてとく応えよ。
只今、我らが見せられ、聞かされたモノは、貴男に起きたことですか?
もし、再度のお尋ねに返答をしなければ、自分に不利であると承知していて、真実を隠しているものと断定しますが、それでもよろしいですか?」
そのまま十秒ほど待って、真贋審理官は国王陛下に向き直って厳かに告げた。
「このお方は、嘘と見破られるのが嫌で、返答を拒みました。
これはある意味で神への冒涜にもあたる所業となります。
私は、この方が、罪を負うのを覚悟の上で、返答を拒んだものと見做します。
すなわち、只今私たちが見聞きしたことは、その全てが事実であると彼の者が間接的に認めたと断定します。
さて、次は、どなたでしょうか?」
再度エッケルハルト宰相は、フリーデル子爵の真贋検証をお願いした。
映像に映っていた二人の内の一人が、黙秘したことにより、映像が本物という判定を下されたのだが、フリーデル子爵はどう出るかだ。
「貴男にお伺いします。
返答は、『はい』か『いいえ』のみです。
では、神の御力により、我がスキルを発動して真実を検証します。
神の御許においてとく応えよ。
只今、我らが見せられ、聞かされたモノは、事実ですか?」
真っ青な顔で、フリーデル子爵が答えた。
「いいえ。」
だが、真贋審理官は、即座に頷き、国王陛下に向かって言った。
「この方は、嘘をつきました。
従って、私たちが見聞きしたことは事実であるものと断定します。」
そうして、宰相に尋ねた。
「この他にも真贋検証を必要とされる方がいらっしゃるのでしょうか?」
「はい、只今の真贋検証によりアインハルト殿下の暗殺を企んだ者の疑惑がほぼ確定致しました。
ベイエル公爵とフリーデル子爵は、その共犯と推定されますが、他国より毒を入手したカッスラー伯爵もその共犯の一人と思料されます。
また、ベイエル公爵の領内に潜む二千の軍勢の中に含まれているのは、旗印からバウマン侯爵、カッスラー伯爵及びフリーデル子爵の手勢であり、これまた、別の意味合いでの犯罪に共犯である疑いが高い人物となります。
従って、まずは、カッスラー伯爵に毒の入手を為したかどうか、また、アインハルト殿下暗殺の件を知っていたかどうかの点について真贋を検証願います。」
引き続き、カッスラー伯爵と、バウマン侯爵の嫌疑についても真贋の検証が行われた。
最終的に真贋審理官は、アインハルト殿下の暗殺未遂に、このバウマン侯爵とカッスラー伯爵の関与を断定したのである。
その結果、公爵派の首魁であったベイエル公爵、バウマン侯爵、カッスラー伯爵、そうしてフリーデル子爵の四人は、その場に居た近衛騎士によって拘束され、俺が結界を一時的に外すことにより、王宮の地下牢へ放り込まれることになったのである。
これでようやく一段落かと思ったのも束の間、王宮の一角から狼煙が上がったのである。
カーテンを閉じたままであるので窓からも外は見えないし、一旦解除した結界も、念のため再度張っていたので、この広間に外の音は届かないんだが、俺には気配察知があるので狼煙が揚げられたのがすぐにわかったんだ。
きっと公爵達が拘束されたのを見て、王宮内に居た公爵派の手の者が狼煙を上げたに違いない。
狼煙と云うか、どちらかと云うと打ち上げ花火のようなもので、炎は左程でもないが、大きな破裂音がする奴だ。
そうしてそれが揚がると、少し間をおいて、遠くで別の狼煙が上がったのがわかったよ。
なるほど、何か連絡手段はあると思ったが、公爵達は入念に準備していたようだね。
これで、恐らくベイエル公爵領内に居る軍勢にまで狼煙が伝えられ、およそ三千の将兵が王都に押し寄せて来るのだろう。
道程から考えて、急げば二日とかからないかもしれないな。
さて、こちらの王都側では、僅か二日間で彼らに対抗する軍勢を集められるのか?
俺は、広間に居る人々に告げた。
「只今、王宮内から狼煙が揚げられたのを察知しました。
呼応する狼煙が、隣の宿場町からも揚がっており、恐らくは公爵領への伝達信号だと思われます。
先ほどお見せした中に、ベイエル公爵領に二千の軍勢が潜んでいることが分かったと存じますが、このほかにベイエル公爵の騎士団千名がベイエル領に駐屯しており、合わせて三千の軍勢が王都に向けて進発する恐れが高いと存じます。
大至急、王都の防備を固められることが肝要かと存じます。
また、王宮内に公爵一派に加担している者も多数いるかと存じますので、その対策も併せて実施する必要がございます。
特に、魔法師団にはフリーデル子爵子飼いの配下が多く存在する者と思われます。
第一王子殿下を呪術で仕留めようとした者も、実は魔法師団に属する者でございました。
敵味方の見分けは難しゅうございましょうが、背後から襲われないようにするためには、何らかの措置が必要です。」
それからすぐに広間は、喧騒に包まれたが、会議は踊るじゃないが、けっこうな数の貴族連中が居るんだが、有効な方策は出ないようだな。
止むを得ないから俺が国王陛下に進言した。
「恐れながら、国王陛下に申し上げます。
王都に進撃して来るベイエル公爵等の軍勢に私が立ち向かうことをお許し頂けましょうか。
軍勢そのものを謀反人として処罰するお許しが有れば、できる範囲で軍勢の力を削いでまいります。
今のところベイエル公爵領からはまだ出ていないと思われますが、恐らくは今日中には動き始めるものと思われます。
仮にこちらから動くならば、今の内であれば、こちらにとって有利な戦場を選んで迎え撃つことが可能となります。
王都に余りに接近してからでは、攻撃自体が難しくなります。」
国王陛下が言った。
「そなたが軍勢の力を削ぐと云うのは、・・・。
まさか、大規模魔法による範囲攻撃の話なのか?
それならば、王都の攻城戦になっては、使うことも難しいじゃろうな。
敵味方入り乱れているところに、強力な魔法など撃ち込めぬ。
それで、王都から遠く離れた地を、戦場に選ぶか・・・・。
ふむ、そなたにどれほどの力が有るかは知らぬ。
が、王都に在る軍勢かき集めても、恐らくは二千に満たぬじゃろう。
そうして、更に、魔法師団が当てにならぬとすれば、ますます守備力は減ずることになる。
斯様な時期に、恣意的に軍勢を動かすのであれば、そ奴らは不逞の輩じゃ。
その全てを打ち取っても、構わぬ。
いかにも其方が出陣するのを認めよう。
じゃが、勝算は有るのか?」
「生憎と、こればかりはやってみなければわかりませんが、できる範囲で謀反人の兵力を削いでまいります。
それでは、私は直ちに出陣いたします。」
そう言って、広間の結界を解き、俺はその場から消えた。
この際だから、多少の能力がバレても仕方がないよね。
転移により、俺が監視カメラを置いたベイエル公爵領から王都への途上の地点にまで移動して、最寄りの樹上に潜んだよ。
そこで気配を察知していれば、軍勢の動きもわかるだろう。
他にも間道があるが、そちらを大軍勢が通るのは却って進軍速度が遅くなる。
精々数十人規模の小部隊なら動けるだろうが、そうしても到着の時間はさほど変わらないはずだ。
まぁ、斥候なら密かに先行する意味合いが有るけれどな。
夜の帳が降りてきたが、暗闇の中でも俺は待たざるを得ない。
あれが王都に居る公爵達の緊急事態を知らせる狼煙であれば、すぐにでも軍団が動いたはずだ。
夜行軍をするかどうかはわからんが、真夜中ぐらいまで進軍して野営するぐらいならできるだろうな。
そうして夜明けになって再度進軍を始めれば、明日の日没前には王都が見える位置にまで来られるんじゃないかな。
そうして俺が選んだポイントは、周囲を丘陵に囲まれた盆地の草原地帯であり、大軍が野営するには最適な場所なんだ。
俺の周囲には結界を張っているし、隠形にしているから、仮に真下から見上げても俺は見えないはずだ。
あぁ、ここで言う結界というのは、虫よけのためのものだよ。
だから、物理防御や魔法防御と違って、強度は押さえてあるんだが、虫程度ならば、まず結界内に侵入できない代物だな。
時系列が間違っていた部分もあり、主として健司が登場する部分について色々と修正いたしました。
ストーリー自体は変更しておりませんので、悪しからずご了承ください。
2026年9月3日
By サクラ近衛将監




