2ー25 ケントの世界 その十三
さてさて、これで王都の政局がどう動くかなんだけれど、呪詛と毒が使われた以上、第一王子を亡き者にしようとした一派が必ず居るはずで、そいつらが今後どう動くかを見極めねばならないだろうな、
折角、苦労して急ぎの旅をして、命が危ういところを助けたのに、また第一王子が狙われて、むざむざと殺されるような羽目にはしたくないよね。
一番良いのは、当該殺人未遂(多分王太子に対する殺人未遂だから大逆罪に近い重罪になるはず。)の罪で背後に隠れている連中を炙り出せば良いのだけれど、それをするとなれば、多分、かなり長い時間が必要だろうね。
何せ、海千山千の連中が揃っている筈だから、物証なんて残している筈もないだろうな。
いずれにしろ、王太子である第一王子の周辺は、今後とも厳重な警戒が必要なんだろうね。
エッケルハルト宰相が、それなりに犯人の追跡と対策を考えては居るようだけれど、何せ一度はまんまと呪詛と毒を盛られる失態を犯したんだ。
ある意味で向こうの方が上手なんだよね。
それにしても、呪詛の方はともかく、毒については、王太子の身近の者が仕込んだ可能性が物凄く高いんだよね。
王族なんだから、当然に相応の毒見役なんぞがついているんだろうけれど、その辺も宰相から事情を聴かないとどうなっているのかがわからない。
王家のことなんだから、平民の俺が口を出すところじゃないとは思うけれど、少なくとも明日の診察で第一王子が大丈夫と判断されるまでは、俺なりに少し探ってみようとは思うんだ。
宰相派と対立していそうなベイエル公爵か、その一派が怪しそうなんだけれど、念のためにベイエル公爵とその一派の邸へ潜り込んでみようと思っているんだ。
忍び込むのは、認識疎外と光学迷彩を重複させる隠形で十分だと思うけれど、俺が忍び込んで見聞きしましただけでは多分通用しないよね。
相手がお貴族様だから、その証言は嘘だと決めつけられてしまえば、それまでの話だ。
うん、健司の世界の監視カメラと盗聴装置を用意しておいた方が良さそうだな。
今のところ、そんな便利な道具はインベントリには入っていないんだけれど、少し疲れているからちょっと昼寝で一眠りしている間に、健司が何とかしてくれるだろうと思う。
カメラもマイクも指先に乗っかるくらいの出来るだけ小さいのが良いんだけれど、健司の世界にはそんなのがあったかいな?
それともう一つ、カルヴィアから急ぎ戻って来るであろう王女殿下の心配もせにゃならんよね。
エルヴィーラ第三王女殿下が連れて来るのじゃないかと思われている俺だけを狙っているなら、王女殿下に危害は及ばないかもしれないが、仮に、王女殿下に同行しているであろう俺を狙うとすれば、事のついでに王女殿下の命だって奪ってしまえと言う指示が出ている可能性がある。
馬車に乗っているであろう俺だけの命を狙うなんて、腕利きの刺客にとっても結構難し過ぎるからな。
仮に、依頼者からの明確な指示が無くとも、刺客サイドは、弾みで王女殿下に怪我を負わせるぐらいは許されると考えているような気がするぜ。
俺は、伯爵邸で昼飯を食べたら、健司の動きを期待しながらも昼寝としゃれこんだよ。
俺の思いは、そのまま健司の世界にも伝わっているだろうからな。
ただなぁ、昼寝の分、向こうでの日付が変わるのか、そうでないのかは良くわからんが、まぁ、それでも健司が何とかしてくれるだろうと思っている。
◇◇◇◇
昼寝をした後で、健司の世界の出来事が俺の脳裏に蘇ったので、インベントリを確認したら、ちゃんと小型のカメラと超小型盗聴器が各16個、それに文庫本サイズの小型タブレット(多分7インチかな?)が4個入っていた。
健司が伝手を頼って急ぎ入手してくれた代物で、カメラと盗聴マイクからタブレットに無線でデータを送信できる仕組みだ。
健司が短い時間で急遽手配できたのが、カメラとマイクでは16個が限度だったみたいで、それに対応するために四個のタブレットを用意してくれたんだ。
タブレット1個で、5台までの映像と音声を管理できるみたいだけれど、タブレットとカメラやマイクの設置距離が30m以上離れた場合、建物等の障害物があって受信ができなくなることもあるようだ。
特に、こっちの世界は、石造りの建物が多いから、30mと言わず、もう少し近い距離に設置した方が無難かもしれないな。
タブレットは現場に置いておいて、後で取りに行く方式になるな。
カメラは解像度が1080Pだけれど、白黒で、大きさは500円硬貨と同じぐらいの大きさで、厚みは5ミリ程度かな。
一方、盗聴マイクは、ボタン電池程度の大きさなので、こんなに小さくできるのかとびっくりしたよ。
試しに実験してみると、監視カメラの方は、俺の魔法を使って天井や壁に埋め込むように隠すことができるし、レンズ部分が小さいのでピンホールカメラの原理を使ってやると意外と目立たなくなるみたいだ。
盗聴マイクの方は、天井裏の天井板程度を通しても普通の会話程度ならばよく聞こえるレベルだね。
今日の夕食が終わったら、宰相に監視すべき貴族と場所を確認して、午後8時頃には設置しに行くつもりだよ。
まぁ、姿を隠して該当の屋敷に忍び込み、室内に監視カメラと超小型盗聴器を設置するだけの話だから左程の時間は取らないだろう。
その日、日没後に帰宅した宰相と秘密会議を行い、ベイエル公爵一派の主要貴族三人の名前を聞き出したよ。
バウマン侯爵、カッスラー伯爵、それにフリーデル子爵が、公爵一派の主要貴族らしい。
特にフリーデル子爵は、国軍の魔法師部隊を率いている人物であり、その配下の魔法師には闇魔法に秀でたものが居たらしい。
居たらしいというのは、今日の午前中に当該魔法師が急死したとの情報が入っているからだ。
或いは、この死んだ魔法師がアインハルト第一王子に呪術をかけた当人かもしれない。
俺が神聖魔法を付与した解呪をしたので、通常の何倍もの反呪が術者に還った筈なので、その反動で死んでも決しておかしくはないのだ。
であれば、フリーデル子爵が一枚嚙んでいることになるんだろうな。
問題は、そうした手駒をフリーデル子爵等のベイエル公爵派の貴族が幾人抱えているかによるな。
呪詛が失敗したとなれば、再度の呪術を行使することは無いだろうと思うが、他にどんな手を隠しているかだな。
今晩その打ち合わせや作戦を立てたりすれば、俺にとっては好都合だな。
健司の世界なら、監視カメラの映像と音声の録音は証拠になるんだけれど、こっちの世界ではどうなのかな?
ある意味で、こちらの世界では映像や音声の記録って、魔法に近いものだしね。
再現魔法と言うことで信用されればよいけれど、捏造だと主張されれば、反論が難しいかも知れない。
まぁ、そんな場合には、実証実験をすれば済むことではあるけどね。
その場合、無断で貴族の屋敷に忍び込んだことが罰せられるのかしらねぇ・・・。
その辺は、証拠の映像なり音声なりを拾ってから心配しよう。
宰相と打ち合わせた際に改めて知ったのだけれど、第一王子の名は、アインハルト・フォル・ディナスティー・バルテンというようだ。
そうして公爵派が推す第二王子は、ディール・トゥル・エステルン・バルテンと云うらしい。
名前の中で、二番目と、三番目が異なっているんだが・・・。
二番目の『フォル』が王太子を意味し、『トゥル』が第二継承順位を示すらしいんだ。
一方で三番目の『ディナスティー』と『エステルン』の違いは、第一王妃がディナスティー家の出身で、第二王妃がエステルン家の出身であるからだ。
つまりは、第一夫人の子と第二夫人の子が王位継承を争っている形になる。
一方で、ベイエル公爵の名前は、フェルス・ディラ・エステルン・ベイエルと言い、彼の母親がエステルン家の出身なので、第二王妃は母の姪であり、公爵にとっては従妹になる人物であるらしい。
その親族の血筋と言うことでベイエル公爵は、第二王子に肩入れをしているらしい。
因みに第一王妃の出自であるエステルン家は、公爵であったが、後継ぎ(第一王妃の兄)が急逝して、断絶したようだね。
一応、王家の継承順位が決まっているから、第一王子が急逝しない限り、問題は無かった筈なんだけれど、今回第一王子が重篤になったことで、王位継承の争いが表面化したようだね。
その日俺の時計では午後8時半ごろかな?
伯爵邸を密かに忍び出て、同じ貴族街区にあるベイエル公爵、バウマン侯爵、カッスラー伯爵、フリーデル子爵の屋敷に次々と忍び込み、内緒話に使う可能性の高い部屋(指標となるものは無いから応接間やそれに代わる部屋を勝手に見繕った。)に盗聴器とカメラを設置したよ。
当該部屋に人が居ても、平気で設置工事をするあたり、かなり大胆だとは思うけれど、俺の姿を消し、物音を結界で消しているから、その場にいる人に気づかれる心配は無いんだ。
その設置中に、従者の話から、午後9時半頃ベイエル公爵家にフリーデル子爵が訪れることを知ったよ。




