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事故に遭いました~俺って全身不随?でも異世界では元気ハツラツ?  作者: サクラ近衛将監
第二章 再起と発展

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2ー22 ケントの世界 その十

 戻って来た姫さんが俺に言った。


「先ほど私が申したので大体合っておるのじゃが、私の供の者でも正確な方位となると少々難しいらしい。

 但し、ワーレンが言うには、昔子供の頃に古老から聞いた話として、アブシオン伯爵領の領都ザッセンハイムからは、常に北を指し示すアルボーラの星方向に王都が有るというらしい。

 従って、このカルヴィアから概ね北と言うのもあながち間違いではないと思うのじゃ。

 肝心なのは、到達できる時間が問題じゃ。

 いくらそなたが早いと言うても、魔物が跋扈(ばっこ)する森や山では危険が伴う。

 私とともに来た方が確実なような気がするのじゃが・・・。」


「失礼ながら、姫様が王都を()たれて何日が過ぎましたでしょうか?」


「あぁ、それならば今日で十日目になる。

 今発てば、九日、いや急げば七日か八日後には王都に戻れるじゃろう。」


「姫様が、王太子様の余命を知られたのは何時にございますか?」


「それは・・・。

 半月前の事じゃ。」


「なれば、王都に戻った時には、それから間違いなく20日を超えておりましょう。

 保って一月と言うことは、それよりも短い恐れもございます故、できるだけ早く王都に行かねばなりません。

 私ならば、()くまで推量にしかすぎませんが、夜を徹して走れば、三日で王都に辿り着けるやもしれません。

 ですから、姫様の書状と、姫様から託されたとわかる証を私にお預け下さるようお願い申します。」


「あいわかった。

 そなたしか兄上の命を救える者が居ないと思うからこそ、ここまでやって来た。

 書状を今すぐに書こう。

 ペンと羊皮紙をくれまいか?」


 俺は冒険者ギルドで使っているペンと紙を渡した。

 そもそも羊皮紙なんてものは、俺のところには置いていないんだ。


 その紙を見て、姫さんがまたまた驚いていたようだが、何も言わずに書状を書き始めていた。

 書状を書き終えると、書状をたたみ、表に宛名を書き、裏には署名の上で蝋を垂らして、指輪の封印を押してから俺に差し出した。


 俺が書状を受け取ると、腰につけていた小さなポシェットからペンダントを差し出した。


「これは、王家所縁(ゆかり)の品であり、ペンダントの文様から私のものとわかる品じゃ。

 この品は二つと無きもの故、無くされると困るのでくれぐれも大事にしてほしい。

 書状の宛先は、表書きに王宮の宰相あてにしておる。

 私が信用する者の一人じゃ。

 そなたが訪ねるは、まずは王都にある宰相の屋敷じゃ。

 そこでこの封書を見せよ。

 じゃが、宰相以外の者に書状の中身を見られてはならぬ。

 それでも言うことを聞かぬ者が居れば、この品を示せば普通は無理が通る。

 それでも無理が通らねば、邪魔するものを()ぎ払っても宰相に会見してこの書状を渡せ。

 宰相にこの症状が渡れば、後は宰相が何とかするだろう。」


「わかりました。

 宰相の名を教えていただけますか?」


「宰相は、ギルベルト・フォン・エッケルハルト、顎髭あごひげを生やした爺様じゃ。

 身長はそなたより握りこぶし二つほど高いが細身じゃ。

 武術は左程できぬが、賢いぞ。

 行けるか?」


「はい、これが有れば何とか宰相のところまではたどり着けましょう。

 私の力で王太子の命が救えるか否かはわかりませんが、できる限りのことをいたしましす。

 では、これから私は出立します。

 姫様は、お茶を飲まれ、菓子でも摘まんでから出立してください。

 私は、一足早く王都へ参ります。」


 そう言って、俺は居間を出て、リディアに告げた。


「チョット王都に急用が出来たので、しばらく不在にする。

 冒険者ギルドのギルマスにも伝えておいてくれ。

 診療所の方は、爺さんと弟子二人に任せる。

 リディアは、留守番をお願いな。

 戻ってくるのは、今のところは不明だ。

 場合によって20日余りも不在になるかもしれないな。」


 玄関を出たところで、おそらくワーレンと言う男の魔法師とサンドラと言う魔法師に出遭(であ)ったが、その際に二人にも告げた。


「姫様のご要請により、私がこれより王都に先発します。

 姫様は間もなく出て参られるでしょうから、速やかにご出発の用意を願います。

 それと内緒の話は済みましたので、居間に入っていただいても結構ですよ。」


 俺はそのまま、領都方面へまっすぐ走り出した。

 道なりでは遅くなるから、そんなのは無視だな。


 家の屋根を伝い、カルヴィアの防壁を飛び越えて一気に町の外へ出る。

 途中に道もあったりするが、ほんのわずかであり、俺の進路の大部分は山野なんだ。


 例によって光学迷彩と認識疎外を掛けつつ、空中に浮かび、転移を行いながら王都までの距離を詰めて行く。

 おそらく前回よりも早い移動になったと思う。

 

 昼前に出て、午後三時頃には領都ザッセンハイムの城壁が見えたぜ。

 だが、領都に用事は無い。


 領都の東方向にある城壁付近へ向かい、そこから一路北方向へ向かうことにする。

 こんな時には、健司の世界のコンパス(磁針方位)が役に立つ。


 途中で多少の休憩をとる必要もあるが、今は目一杯の速さで王都に向けて進むことが大事なんだ。

 日没後もできるだけ進んで深夜になって休息のために岩山に穴を掘ってシェルターを造り、そこで野営をした。


 例によって岩で入り口を塞いでいるから、魔物はもちろんだが、虫すらも入れないようにしている。

 空気の入れ替えは無いが本当に小さな穴をあけてフィルターを通して空気だけは還流させているんだ。


 飯は、インベントリに貯めこんでいる非常食糧だ。

 こいつは、健司の世界で購入した奴で、5年間も保存できる代物だ。


 まぁ、インベントリには時間に関係なく保存できる機能もあるんで、健司の世界の弁当とかも入れてあるんだが、余り美味いものばかりを食っていると癖になりそうだから、あまり美味くは無いが腹は膨れる非常食糧をこんな時に少し消費するんだ。

 料理の必要が無いサプリみたいなもんだし、移動しながら食べるのにも手間暇はかからない。


 但し、水分は必要なんだよな。

 そっちも健司の世界で入手できるスポーツドリンクを飲んで代用だ。


 夜明け前、多分五時頃だろうとは思うんだが、正確な時間は不明だな。

 健司の世界の時計はあるんだが、生憎とこちらの世界とは1日の長さが違うからあまり使えないんだ。


 どうしても使おうとすると、電卓を使って時差の換算をしないといけないんだ。

 面倒だから一々そんなことはしない。


 概ね、自分の勘に頼った方が早いんだ。

 いずれにせよ、日の出前に出発し、更に踏破距離を延ばす。


 二日目は、夜の10時頃に休憩だ。

 概ね17時間もぶっ通しで動くとさすがに疲れる。


 今晩は8時間ほどは寝ることになるな。

 例によって岩山の中でお休みだ。


 翌朝、日の出前には出発したが、途中で垂直方向に飛翔して、前方の景色を確認する。

 すると山越しに王都らしき大都市の片鱗が垣間(かいま)見えた。


 おそらくは、昼過ぎにはあそこまで到達できると思う。

 そうして概ね昼頃には王都が見える1キロほど離れたところで、旅人に尋ねて前方に見えるのがハルマンド王国の王都であるトリエスティアと確認できたんだ。


 それから間もなく、俺は王都の城壁の門前から少し離れた場所に立っていた。

 足掛け三日だが、実質はほぼ二日と少しで王都に到達したことになる。


 さて、ここまでは姫さんとの約束を守れたわけなんだが、ここから先はどうなのかな?

 万が一にでも、アブシオン伯爵の令嬢のように第一王子の敵対者が居るような場合、俺の存在自体が好ましい事態ではなかろうから、何らかの妨害行為に遭う恐れもあるんだよな。


 姫さんが信頼している宰相の周辺だって、そんな奴がいる可能性もあるから、ここは密かに王都に潜入することが望ましいだろうな。

 そのため、俺は王都内に入る者を改める門衛の目をかすめて王都内に潜り込んだよ。


 王都に入る空の荷馬車の中に忍び込み、光学迷彩と認識疎外をかけておけば、兵士の目は誤魔化せるんだ。

 王都内に入れば、後は宰相の屋敷の確認だ。


 色々と王都内を歩き回って何とか宰相の屋敷を探り出したときは、日没近くだったよ。

 生憎と宰相の屋敷と云うのは、貴族街の奥まったところにあり、貴族外に入るには王都の中の第二の城壁を越えなければならないんだ。


 ここでも光学迷彩と認識疎外を掛けて、俺は城壁を飛び越えた。

 生憎と城壁内の地図は無いんだが、とある商人から聞き込んでいた情報として、屋敷には大きな半球状の温室があると聞いていた。


 何でも宰相の趣味が花を()でることで、国内各地から花が咲く植物を収集して育てているんだそうだ。

 貴族街のなかでも比較的高い尖塔を持つ教会の天辺(てっぺん)に跳び上がって、日没間近の中で、宰相の屋敷を見つけたよ。


 さて、宰相の屋敷に行くわけだが、門番にも気づかれないよう隠密で入るのが相応(ふさわ)しいと考えて、俺は屋敷内に忍び込んだ。

 問題は、宰相が屋敷内に居なくては困るんだが、炊事場の梁の上に潜んで情報を集めていると、これから来客が宰相の元に来るという話が聞けた。


 既に夕食は終えているのだが、炊事場では来客のために酒のつまみなどを準備するようだ。

 つまりはここで見張っていれば、宰相のところに案内してくれるみたいだな。


 無論、当人にそのつもりはないだろうけれど、酒とつまみを宰相の元へ運び出せば、結果としてそうなるよね。

 概ね1時間近くも梁の上で待っていたら、ようやくその時が来たよ。


 料理を運ぶメイドがやって来て、数人分の料理と酒を運び出した。

 俺は、そのまま隠密状態で彼女らの上を浮かんでついて行く。


 こういう時に天井の高い家は便利だよね。

 下から上を見ても俺の姿は見えないしね。


 そうして問題の伯爵がいる部屋に至ったよ。

 寝室じゃないし、執務室でもなさそうだね。


 居間とか応接間って雰囲気かな。

 俺は、そのまま、部屋の隅の天井付近のコーブ(天井部分の折れ込み部分)に居座っているよ。


 宰相と思しき人間にはすぐにあたりがついたよ。

 メイドたちが明らかに当該人物の指示を受けていたし、人払いを命じたのも彼だった。


 確かに、姫さんの言う通り、「顎髭を生やした爺様」だし、高身長の細身の体形だ。

 話を聞いていると宰相派とでも言うべき人達の集まりのようで、テーブルを囲んで四人で話しているんだ。


 人払いをしている辺り、内緒話のようだね。



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