2ー20 ケントの世界 その八
良くわからないんだが、立った魔法師らしき二人は、男と女なんだが、男はギルマスと同じぐらいの壮年の男性、もう一人は若い女性ではあるが年齢の方は不明だな。
二十代半ばじゃないかとは思うが、女ってのは化けるからな。
俺の見立ては定かじゃない。
一方で椅子に座っている若い女は、ウチのメイド兼看護師のリディアと同じぐらいに見えるから、少なくとも俺よりは年上じゃないかと思う。
瞬時にそれを見て取ったが、正直なところ、この場でどういう風に対応したらよいのかがわからない。
ケントも健司もこんな場合にどうするのかは知らないからな。
但し、傍に立っていたギルマスが助け舟を出してくれた。
「ケント、こちらにいらっしゃるお方は、王家の第三王女殿下だ。
くれぐれも失礼のないように・・・・。」
王女殿下?
何で、そんなのが俺のところに?
そうは思ったが、口にはできないよな。
やむなく、健司とケントの知識から引きずり出したのが、中世の騎士の儀礼だ。
間違っていても仕方が無いと思いながらも、俺の考える方法で敬意を払うことにする。
片膝をついて、やや頭を垂れ、右掌を左胸に当てて、自己紹介をすることにしたんだ。
「お初に御目にかかります。
私は、冒険者のケントと申します。」
「面を上げよ。
私は、エルヴィーラ・ファラ・ディナスティー・バルテン、王家の第三王女じゃ。
見知りおけ。」
うん、まぁ、そう偉そうに宣ったね。
この辺は、健司の世界の中世と同じく身分社会だから、どうしようもないだろうね。
平民の俺は、盾突くことも出来ん。
まぁ、逃げ出そうと思えばできるけどね。
それをやったらギルマスが困ることになるだろうから、取り敢えず今はやらんだけの話だが、必要とあればいつでもとんずらするつもりではある。
俺は言われた通り、顔を上げてまっすぐ第三王女の顔を見た。
これが失礼に当たるんなら、向こうが何か言ってくるだろう。
俺は飽くまで礼儀を余り知らない冒険者を演じていれば良い筈。
エルヴィーラ王女殿下は、まぁ美人だろうね。
目鼻立ちの整った顔だが、魔法使いのローブと長いスカートで肢体が隠れているから全体の容姿はわからないが、これでスタイルが良ければ、モデルも出来そうだな。
顔は、健司の世界のエラ・ノイマンという若手のモデルに似ていると思った。
健司の記憶では、確かオーストリア出身の19歳のファッション・モデルのはずだよ。
あんまりじっと眺めていては失礼に当たるかもと思って、やや視線を下に向ける。
「ケントとやら、そなたがカルヴィアで起きたスタンピードを一人で鎮めた勇者であると聞いている。
この町にいる騎士団と冒険者ギルドから提出されたいくつかの報告書の写しも見せてもらったが・・・・。
そなたは、治癒魔法が使えるようじゃが、そのくせ剣士としての腕も一流と聞いた。
少なくとも、治癒魔法が使え、錬金術師でありながら、薬師であるとも報告書にはあった。
これは事実か?」
はぁ、ゴブリン討伐の際の話も報告されていたのかよ。
まぁ、今更シラを切るわけにも行かないよな。
ここは曖昧な答え方しかないかな。
「はい、治癒魔法もそれなりには使えますし、冒険者として剣もそれなりに扱えます。」
「ふむ、ゴブリンジェネラルの首を一刀のもとに撥ねたと聞くが、その武功をそれなりとは言わぬであろう。
また、瀕死の重傷を負ったものを助けたり、教会の治癒師では治せぬ病すらも癒せると聞いておる。
そのような治癒師など王都にもいないのじゃが・・・・。
そなた、まことに出身はグルヌベルヌ村なのか。
また、治癒魔法の師匠は誰じゃ。
いかにして治癒魔法を覚えたのじゃ。」
「あー、たくさんのご下問のようですが、順番に答えできるものはお答えしましょう。
出身はグルヌベルヌ村で間違いはございません。
但し、生まれは、グルヌベルヌ村の隣にあったサテュアンと言う村ですが、私が幼い頃に流行り病で両親を失い、グルヌベルヌ村に住んでいた樵の祖父に養われて育ちました。
治癒魔法の師匠はおりません。
いかにして治癒魔法を覚えたと言われても、いつの間にか身についたものであって、申し訳ございませんがお答えできません。」
「では、そなたの剣技はどうなのじゃ?
近衛騎士団の猛者に聞いたが、ゴブリンジェネラルの首を一振りで撥ねるなど、騎士団の剣の名手でも中々にできぬことと聞いた。
剣の師匠は誰じゃ?」
「田舎故、剣の師匠はおりませぬ。
すべて自己流にございます。」
「ふむ、では、スタンピードの際の其方の行動について確認しよう。
万を超える魔物の襲来に際して、そなたが一人で魔物を率いるオーガロードに立ち向かったというのは間違いないか?」
「スタンピードに対応したのは私だけではなく、カルヴィアに居る騎士団と冒険者も城壁の防衛についていましたので決して私一人ではありません。
ただ、夜間単身でオ―ガロードとそれを守る集団に立ち向かったのは事実です。」
「その際に、そなたは魔法を使ったのであろう?
そなたが北の城壁から出撃したことは聞き及んでいるが、そこから一筋の道のように魔物集団の遺骸が残されていたと聞いておる。
騎士団からの報告書には、城壁北側より北北西に延びる方向に討伐された魔物が放置されており、その中には地面から穿たれた傷により絶命したと思しき遺骸が数百あったという。
これは、魔法師団の見立てでは、土属性魔法を発動した結果ではないかと推測されている。
また、それとは別に鋭利な刃物で切断されていた遺骸が数百もあったという。
それらの切断面は一見すると刃物のようにも見えるが、見分した騎士の話によると風属性魔法の風刃によるものとよく似ているとの報告が入っている。
太い魔物の胴体を真っ二つに寸断できるような刃物は無いが、強力な風刃ならば可能じゃと魔法師団でも判断しておる。
生憎と、オーガロードが居たと思われる地点付近には大きな穴が空いており、周辺に焼け焦げた石や泥が認められ、大きな魔石が多数残されたおったようじゃな。
騎士団の報告書によれば、城壁に登っていた者でこの周辺に大きな炎の発現が認められたとあり、この付近で強力な火属性魔法が使われたのではないかと推測されているようじゃ。
これらは、すべてそなたの所業か?」
「えー、その御下問にはお答えしかねます。」
「別に其方の罪を問うているわけでは無い。
事実を確認しているだけなのじゃが、何故、答えられぬのじゃ?」
「冒険者は、自らのスキルを隠します。
己が能力を知られることは、場合により命の危険を産むことになりかねません。」
「少なくとも私の口からは漏れぬぞ。」
「失礼ながら、姫様が王都に戻られた際にどなたかに申し上げれば、秘密が漏れることになります。」
「ふむ、王家からの下問とあっても言わぬか?」
「真に失礼ながら、王家の魔法師団は、誰にでも自分の使う魔法がなんであるかを教え、また、その拾得した方法を公開するのでしょうか?
少なくとも、私は、そのようなことを記した書簡を目にした覚えはございませんが・・・。」
「魔法師ギルドに属している者であれば、誰しもその師を公開し、少なくとも一つの属性魔法は登録しておるものじゃが・・・。
そなたは魔法師ギルドにも属してはおらんのじゃったな。
何ゆえに魔法師ギルドに入らぬのじゃ?」
「そもそもカルヴィアに魔法師ギルドはございませぬし、入るメリットを感じません。」
「魔法師ギルドに属すれば、魔法師としての証明がなされ、望むならば職も紹介されるのじゃが、不要なのか?」
「証明書は、冒険者ギルド等の資格証明書で事足ります。
仕事についても特段困ってはおりません。」
「ふむ、そなたは冒険者の傍らで、治癒師として働き、また錬金術で魔導具を造り、薬師もやっていると聞いている。
治癒師として活動するには、教会に属しているのが普通であるのに、そなたは教会とは縁が無いようじゃな。
治癒師なれば、治癒魔法を為すことが出来ねばならぬが、これまでは、幼き頃より教会で修行を積まねばできぬものとされていたにもかかわらず、何故に教会に所縁の無いそなたに治癒魔法が使えるのじゃ。」
「さて、それも私にはお答えしかねる問にございます。
気付いた時には治癒魔法が使えるようになっていましたから・・・。」
「ふむ、そなたは少なくとも、土属性、水属性、それに火属性魔法と治癒魔法も使える魔法師と言う風に推測されるのじゃが、他の魔法は使えぬのか?」
「その問いにもお答えしかねます。」
「では、そなたは、王家の魔法師団に属する気はないか?
私から口添えもできるが・・・」
「ありがたきお話なれど、謹んでお断り申しあげます。
冒険者として、あるいは、治癒師として、このカルヴィアの街で過ごしたいと思っております。」
傍にいる年寄りの魔法師が割って入った。
「そなた、王女殿下の御前であるに、その物言いは不敬であろう。
王女殿下に出仕を請われているのに断るとは何事か。」
「私は、礼儀を知らぬ平民にございます。
正直に申し上げたのがまずいと仰せであれば、この場で嘘をつけと申されますか?
王女殿下は、そのようなことをお望みではないと存じますが?」
「痴れ者め。
そのような物言いが不敬じゃと申しておる。
この場で切り捨てられても仕方が無いのだぞ。」
「脅されても、私には効きませぬ。
それともゴブリンキングやオーガロードを討伐した者を切り捨てますか?
己が命が危ういとなれば、私もやむなくお手向かい致しますが。」
その途端、年寄りの魔法師が素早く詠唱を唱えて拘束の魔法が発せられた。
おそらくは空間系の魔法だろうが、俺は難なく無詠唱でその魔法を解除した。
自分の魔法を瞬時に無効化されて、年寄りの魔法師が驚愕の表情を浮かべていた。
おそらくは自慢の魔法であって、これまで無効化などされたことが無いのだろう。
次いで若い女が「この者を無力化しなさい。」と叫んだ。
指示を受けた騎士二人が抜刀しようとしたその瞬間に、年寄りの魔法師が発動した魔法を二人の騎士に発動する。
騎士二人が、その場で固まった。
なおも、喚こうとした若い女を、同じく拘束して声も出せぬようにした。
「王女殿下、私の本意ではございませぬが、危害を加えようとしたものを押さえました。
これ以上の話は無いかと思われますので、私は失礼いたしたいと存じます。
それとも王女殿下も私に危害を加えるおつもりですか?」




