2ー19 ケントの世界 その七
王都から王宮魔法師団の人が俺に会いに来るらしいんだが、その用向きが分からないまま王都の冒険者ギルドから通知が来たようだ。
王都からだと馬車で七日から十日はかかるらしいが、例えば国の伝書士などが使う早馬を使うともっと早いらしい。
あ、でも、俺みたいに転移魔法が使えるならもっと早くに来ることも可能だろう。
カルヴィアには、転送魔法陣なんて御大層なものは置いていないはず。
但し、公爵領と辺境伯領には設置しているかもなんていう都市伝説もある。
噂の出所を探ってみると、また聞きのまた聞きの更にまた聞きなんぞと、全く宛てにならない話になって来るんだがな。
俺が住んでいる伯爵領にはそんなものが無いと思いたいが、冒険者ギルドにはアーティファクトらしき通信装置が有って、ギルド同士の通信はできるらしいから、もしかすると魔法陣なんかじゃなくって、アーティファクトの転移装置そのものが有ってもおかしくは無いのかな。
但し、そんなのは噂にも出て来ないから当面は無視だ。
こっちで商人や冒険者が入手できる地図ってのは、方向も距離もかなりでたらめな絵図なので、地図の上で直線距離を測るってことがそもそもできないんだ。
カルヴィアから領都ザッセンハイムまでは、馬車で道なりに進むと概ね三日と云うことが分かる程度なんだが、俺も一度領都まで旅をしてその途中の地形を承知していたから、例の古代遺跡までは街道を無視して多少曲がりくねりながらもほぼ最短距離で行けた。
仮に俺のように数百メートルの転移が出来て、休み休みしながら来るとなれば、三日が一日程度に縮まるだろうから、その場合は、およその話だが三日程度、仮に都市や町ごとに転移ができるならば、即日若しくは遅くとも明日には到着できるだろう。
いずれにしろ、いつ来るかもわからず、どんな用件で来るかもわからない訪問者をびくびくしながら待っていても仕方がねぇよな。
いざとなればとんずらする覚悟を決めて、いつも通りに過ごすしかない。
午前中は地下で引きこもり、午後になって診療所で来所する冒険者や町の人の治療をし、夕刻からは錬金術師と薬師の仕事に励んだよ。
俺の診療時間にシーラとヒルダが来るのも相変わらずなんだが、三日に一回ぐらいで晩飯をゴチになって行くのもおなじみだな。
俺もそんな習慣めいたものに慣らされちまった。
そうは言いながらも、大分年下の親戚の子が来ているぐらいの感覚にしかならないから、男女の関係には絶対になりっこないな。。
少なくともあと6~7年は待たにゃ無理だ。
健司の方では例の美人さんと何となく良いお付き合いに発展しそうだが、こっちではなぁ。
俺が年上の良い女でも見つけない限りは、DT卒業は無理だろうぜ。
まぁ、カルヴィアには花街もあるんで、行こうと思えば行けるんだが・・・・。
こっちの世界では身売りが当たり前なんでね、そこに入り浸るというのも何となく罪悪感があるんで一度も言ってはいない。
ところで古代遺跡から出た石板と銅板の解析は継続しているぜ。
石板の解読作業は終了したが、俺にとって有益な情報は得られなかった。
魔法関係ではなくっても、錬金術師や薬師に関することであっても良かったんだが、そんなのはかけらもなかったな。
一方の神聖魔法と思しきものと、闇魔法については徐々に解読が進んでいる。
どちらも発動すると魔法陣を描くことになるようだ。
但し、効果のほどは確認していない。
発動の仕方はわかったけれど、仮に俺の秘密の地下工房で発動させて、万が一にでも地下施設が崩壊したら俺が無事でいるという保証はないもんな。
ここは、人里離れた山奥にでも行って、その効果を確認するしかないだろう。
但し、魔法師団の者が来る直前にまた騒ぎを引き起こしたくはない。
人里離れて場所であっても、天空まで届く光が出たり、黒い靄が広がったりしたら、人目につく恐れはあるから、できるだけ控えねばならないんだ。
一方でギルマスが要望していた通信機の魔導具がようやくできたぜ。
双方向じゃなくって、一方が送信している間はもう片方が受診できるが、送信はできないという無線機タイプの奴だ。
呼び出しは、ピーピーという甲高い音と振動でわかるようにしている。
人が居るような場所や音を出してはまずいような場所では、バイブレーションのみで使うことができるようにしている。
距離の方はテストしていないからわからん。
少なくともカルヴィアの街の中ならどこでもつながるし、俺の地下のアトリエでもつながるから仮に洞窟に入っていてもつながるんじゃないかとは思う。
遠隔地でつながらない時は勘弁してくれと言って、ギルマスに使い方を説明して通信の魔導具を渡したよ。
ギルマスが言った。
「中々便利じゃねえか。
もしかすると、王都のギルド本部とも通信ができるような代物ならもっと数が欲しいが、造れるか?」
「できないことは無いが、この魔導具は同じ空間波を使っているからな。
三台以上の魔導具が有ると使い方が面倒になるんだ。
一つには個別呼び出しができなくなる。
また、三つの魔導具が同時に稼働している場合は、何処かが話していると、他の魔導具は聞くだけになる。
例えば二者間で会話しているところに第三者が割り込むと、空間波が乱れて誰の声も聞こえないことになりかねない。
ギルマスに教えた通り、この送信ボタンを押している間は空間波でその声を送信中なんだ。
それでほかの二つの通信機が稼働していればその声が届くけれど、逆にその間は他の受信機から発信ができない。
だから、四台、五台と通信装置が増えると通信の仕方が難しくなるわけだ。
但し、一斉通報のような場合には便利だろうな。
やり方次第では、一台の通信機から複数の通信機に一度に通報できる。
例えば、ギルマスが王都のギルド職員と更に俺に通報したい時は、先ずギルド職員と俺を呼び出すんだ。
例えば、『王都ギルド聞こえるか』というような伝言をし、それを受け取った王都ギルド職員が『おう、聞こえるぞ』と応答し、さらに同じような方法で俺が応答した時点で、ギルマスから喋れば、王都ギルドと俺の両方に伝達はできる。
話が終わったら話の内容が伝わったかどうかをギルマスから個別に聞けばよい。
それで『王都ギルド了解』、『ケント了解』の返事が確認できれば、目的は達成できるんだが、やり方をよく覚えておかないと急ぎの時には間に合わんぞ。」
「なるほど、面倒だな。
それと個別の通信はできるのか?
例えば俺とケントの間だけでしゃべるとか・・・・。」
「うーん、それをしようとすると結構面倒なことになるだろうな。
少なくともこの通信機ではそんな器用なことはできない。
呼び出しをかければ、空間波の届く範囲で複数の通信機で呼び出しがなされるから、そこで稼働状態にすると、全員が傍受できることになるので内緒話は無理だ。
それをするにはまた別の方式が必要になるな。」
「そうか、内緒話は無理か。
出来ればそんな機能もつけてほしいんだが、できるか?」
「まぁ、検討はしてみるがアテにはするなよ。
通信機だけに専従していると他の事が出来なくなるからな。
まぁ、長い目で見てくれれば何年か先にできるかもしれん。」
「何だ、そんなに待たにゃならんのか。」
「おいおい、この魔導具だってアーティファクトに相当するぐらいのもののはずなんだぞ。
そんなに簡単に造れてたまるか。
ギルマスがそんな魔導具を造れる奴を知っているならそいつに頼めばよいじゃねぇか。」
「怒るなよ。
そんな奴が居れば、ケントに頼るわけもないだろうが。」
まぁ、そんな風なやりとりが有ったな。
でもって、ギルマスから魔法師団の者が来るとの連絡を受けてから十一日後に、件の魔法師が来たようだ。
診療所で治療をしている時にギルドから連絡が入った。
診療所で治療中と言うことを理由に、面会はその日の夕食後若しくは明日午前中にできないかと連絡してもらったら、魔法師との面会は翌日の午前中になったよ。
因みに伝令の話では、魔法師団の訪問者は全部で三人らしいが、警護の者を含めると15名ほどになるらしい。
随分と物々しいんだが、途中の道がそんなに危ない処なのか、それとも別の理由があるのかだな。
まあ、いずれにせよ明日の話だ。
俺の方は、すぐにでもとんずら出来るように、逃走に必要と思われるものは全部インベントリに放り込んでいる。
尤も、取り敢えず逃亡中に必要でないと思われるものなんかは、地下のアトリエに隠してあり、必要に応じ、ほとぼりが冷めた頃に内緒で戻って来て、持ち出せば良いと思っているんだ。
出口のない地下のアトリエはそうそう簡単には見つからないはずなんだけれど、高位の魔法師がもしかしたら気付く可能性もある。
それはそれで仕方がない話だなと思っている。
逃げ出したなら残したものは没収されても仕方がないだろう。
◇◇◇◇
翌朝、午前中に冒険者ギルドのギルマスの部屋で面会することになっていたので、朝食を食べてから、朝一でギルドに出向くと、ギルドの前の道路には白銀の甲冑に身を包んだ騎士が十名ほどもいたな。
それとギルドの前には立派な馬車が止まっていたぜ。
王宮魔法師団ともなれば、こんな立派な馬車を使えるのかとも思ったよ。
伯爵邸にお邪魔した時に迎えに馬車も高級なものと思っていたけれど、何となくギルドの前に居座っている馬車の方が立派に見えるんだよ。
おまけに家紋らしきものが馬車の側面についているんだが、生憎と俺にはその家紋の意味が分からない。
もしかするととんでもない大物が同席しているのか?
そうして俺がギルド二階にあるギルマスの部屋に行くとドアの前には、二人の騎士が立っていた。
こいつは要人警護ってわけだろうなと思いつつ、声をかける。
「本日、ギルマスのところに来るように言われているケントですが、中に入ってもよろしいですか?」
騎士二人は無言でうなずき、ドアの中に向かって言った。
「冒険者であるケント殿が出頭して参りました。
ドアを開けます。」
そう予告してから、ギルマスの執務室のドアを開けたんだ。
部屋の中にも騎士が二人いた。
そうしてギルマスの机の前の応接セットには、魔法師らしき三人が座っていたが、俺の姿が見えると二人が立ち上がり何となく身構えているような感じだった。
独りは座ったままだったが、その座ったままの魔法師姿の者は若い女性だったよ。




