2―18 ケントの世界 その六
今回の古代語解析も、グルヌベルヌ村の遺跡にあった石板の語彙がベースにはなるんだが、若干違う部分もあり、そもそも文字の種類そのものが少し増えているみたいなんだ。
だから、ひょとしたら領都近郊の遺跡はゲルヌベルヌ村よりも年代が違うんじゃないかと推測している。
石板の方には、当該遺跡の町及び周辺領域の情報について記されたものが多いようだ。
例えば、どこそこの誰に子供が何人居るとか、畑がいくらあるとかの情報で、おそらく町を管理するための戸籍や土地台帳に近いものじゃないかと思われる。
或いは、これらをもとに人頭税や地租税をかけていたのかもしれないな。
その一方で、銅板の方は、そういった行政目的じゃなく、魔法知識を詰め込んだものだった。
しかも、内容からすると神聖魔法(?)と闇魔法であって、俺が持っていた石板よりも上級のモノじゃないかと言う気がするんだ。
沢山あるうちの十数枚程度を読んだところでは、俺の知っている聖魔法や闇魔法に比べて魔力の使用量が半端ない魔法だと言うことが分かっている。
《《神聖魔法》》というのは、俺が会得している聖魔法よりも上級の魔法のようだと思うことと、石板に残されていた『聖属性魔法』という表題に一つのワードが冠されていたからだ。
つまりは『**聖属性魔法』のようにだな。
そいつを俺の能力が勝手に『神聖属性魔法』と意訳したわけだ。
これが合っているかどうかはわからんが、試しに簡単な呪文を念じてみたら、少なくとも俺がこれまで使っていた聖属性の治癒魔法に比べて、使用する魔力量が三倍ぐらいに跳ね上がったからね。
あくまで試験的に行使した魔法なので、その効果のほどは判然としていないんだが、こいつは中級又は上級の魔法になりそうだと俺が判断しているわけだ。
そうして、生憎と俺は、魔法師ギルドには所属していないからね。
この世界の魔法師達がどういう分類をしているかは良く知らんのだよ。
ただ、一般的な情報として知っているのは、複数の属性魔法を使える魔法師は稀であることと、これまで三つの属性を使えた魔法師は後にも先にもたった一人だけで、当該人物は王国の筆頭魔導師としてかつて君臨した人物であるということを噂話程度に知っている。
当該人物は、もう二十年以上も前に亡くなっているけれどね。
だから、俺みたいに多数の属性の魔法を使う魔法師は他には居ないのじゃないかと思っている。
俺の場合、周囲には治癒師、錬金術師、薬師として良く知られており、スタンピードの際には火属性魔法を多用したことから治癒魔法以外にも火属性魔法の使い手でもありそうだと冒険者ギルドでは噂されているらしい。
その辺の情報が、王都あたりに流れて行けば、王宮魔法師団辺りが調べに来るかもしれないな。
少なくともデュプリス(二つの能力保有者)として認識されていると思った方が良いかもしれん。
正直なところ、俺としては、王家辺りに目をつけられて取り立てられるという構図は避けたいところなんだ。
今のまま、カルヴィアで静かに暮らしていたいと思っているよ。
中央なり、貴族なりに目をつけられると、色々と困ったことを押し付けられるかも知れんからな。
少なくとも、カルヴィアを治めている領主アブシオン伯爵との間柄は良好だから、これ以上のことは望まない。
金だって、富豪とまでは言えないものの、必要なものは手に入るだけの財力と能力を持っているからな。
おまけに、場合によっては、健司の世界から必要な物も取り寄せられるから、これ以上贅沢をしたいとも思っていないんだ。
強いて言えば、将来的な嫁さん候補なんだろうが、どうしても健司の世界の考え方や慣習に引っ張られるから、中学生程度の年齢で嫁を貰う気にはなれんのだよ。
これも今後の運任せ、風任せだな。
俺と赤い糸で結ばれている女性がいるとしたなら、きっとそのうちに現れるだろうと思っているよ。
いずれにせよ、俺の今の関心事は、新たに手に入れた石板と銅板の解読だ。
特に、銅板の方が価値が大きいとみているけれど、石板の方も全部を確認してからの話だな。
但し、さほど大きくも無い街程度の古代遺跡で、貴重な魔法の解説書や教科書がそうそうあるとは思えないんだよね。
その意味では、ゲルヌベルヌ村の石板と言い、今回の銅板と言い、ものすごくラッキーとしか言えないよな。
しばらくは、この解読に時間をかけることになったというわけだ。
但し、俺が午前中に冒険者稼業に出かけないことを知ったシーラとヒルダが、朝から押しかけて来るのには閉口しているよ。
仕様がないので、地下に新たな工房を造り、午前中はそこに潜って仕事をするようにしている。
この地下の工房は入り口が無いからな、転移魔法を使える俺以外は入って来れない場所なんだ。
従って、午前中はここに籠り、午後の診療時間になったら地上に出て来るというわけだ。
これでシーラとヒルダが押しかけられる時間は俺の診療時間と夕食時ぐらいになった。
目当ての俺がいなければ、彼女らも何もできないから諦めて家に戻るわけだ。
偶にそのことを愚痴って来るが、俺の知ったところではない。
俺の自由な時間を邪魔する方が悪い。
まぁ、診療時間で暇な時にはそれでも相手をしてやっているがな。
そんな中で、悪いニュースが入って来たぜ。
その日も診療時間を終えたところでギルマスに呼ばれ、俺はギルドのギルマスの執務室を訪れた。
「よう、久しぶりだな。
うちの娘二人が世話になっているが、迷惑をかけてはいないか?」
「迷惑と言うほどではないが、診療時間に押しかけて来るから、正直なところあまり相手も出来んのだよ。
最近は、診療所を訪れる人が結構な数でいるからな。
余り暇は無いんだ。」
「おう、そうらしいな。
娘たちからも忙しそうだから邪魔はしてはいないと聞いている。
それでも夕食はしばしばお前のところでゴチになっているらしいんだが、・・・。
食費を払おうか?」
「そんな金を貰ったら、俺の診療所が食堂になりかねないからやめてくれ。」
「そうか、すまんな。
ところで、午前中は居ないようだがどこかに出かけているのか?」
「あぁ、まぁ、内緒の仕事があるんで秘密の場所でやっているんだ。
だから、午前中は連絡がつかないと思ってくれた方がいい。」
「そうか・・・。
急な案件が起きた際に、お前と連絡がつかないと困る場合もあるかと思うんだが、何か連絡方法はないのか?」
「ふーむ、連絡方法か・・・・。
無いことも無いから、検討しておくよ。」
この時に俺が考えていたのは電話もしくは無線機だ。
ギルマス直結で俺に何らかの連絡手段が有れば良いということだろう。
連絡が有ってすぐにギルマスのところに現れるようであれば、こき使われそうだから、タイムラグは敢えて置くけれどな。
無線機の魔導具を一式造っておけば、急な場合にも間に合うだろう。
「ところで、王都の冒険者ギルドから情報が入ったんだが、王宮の魔法師団から派遣された人物がカルヴィアに来るらしい。
一人なのか複数なのかはわからん。
今のところカルヴィアへ来る用件は不明だが、おそらくは先のスタンピードでの一件について調査に来るんじゃないかと見ている。
一連の経緯については、アブシオン伯爵と王都のギルド本部へ報告書を提出しているから、伯爵若しくはギルド本部から王宮へもそれなりの報告がなされているに違いない。
魔法師団がわざわざ来るのであれば、可能性が高いのは、カルヴィアでの調査で、どんな魔法が使用されたかを確認するためだろうと思う。
当然にその魔法を使ったお前にも尋問がなされるだろうな。」
「そいつは、面倒な話だけれど、そもそも面会を断ったり、証言を拒否したりできるのかな?」
「さぁて、そいつは俺にもわからんな。
お前は魔法師ギルドに属する魔法師じゃないから、冒険者のスキルとしての秘匿はそれなりにできるが、それにも限度がある。
王家の魔法師団の強制力に対抗できるかどうかだが・・・・。
正直なところ、冒険者ギルドがお前を庇ってやるのは難しいと思ってくれ。
貴族のお抱え魔法師ぐらいが言って来たのであれば何とかなるが、流石に王宮お抱えの魔法師団ともなれば話は別だ。
仮に王命でも出された日には、王都のギルド本部でも庇えないことになる。
そりゃぁ、ドンパチ覚悟で庇おうとすれば出来ないことは無いが、この国でのギルドの足場が無くなるだろうからな。
たった一人の冒険者のために、そこまでの危険は冒せないだろう。」
「なるほど・・・・。
まぁ、そん時は、ここからおん出て行くことを覚悟の上で抵抗してみるよ。
場合によっては、他国へ逃げるさ。」
「うーん、正直なところカルヴィアにとってはそれも困るんだが、・・・。
但し、王家にお前の身柄を押さえられれば同じことだからな。
まぁ、お前の思う通りやってみな。
但し、俺からの手伝いも援護射撃も出来ねぇぞ。
あるとすれば、冒険者ギルドの不文律である冒険者のスキルは秘匿できるって奴を使え。
但し、こいつは王命には実質的には効かねぇぞ。」
そんなこんなで、王都ザスブルクから魔法師団の使いがやって来るという話が、ギルマスから伝えられたんだ。
いい迷惑だよな。
少なくとも俺としては首輪なんぞは嵌められたくないから、場合によっては、とんずら覚悟で対応するつもりだ。
向こうの話を聞いてからの判断になるけどな。




