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事故に遭いました~俺って全身不随?でも異世界では元気ハツラツ?  作者: サクラ近衛将監
第二章 再起と発展

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2ー12 ケントの世界 その四

 ウン、まぁ、修羅場だな。

 おそらくは魔物の爪でひっかかれたのだろうが腹部にでかい傷を負って、大出血をしている。


 そうして素人なりの止血に努めてはいるが、一時間以上もこのままだろうから、時間が経てば失血死になるだろう。

 すぐさま治癒魔法で止血を行い、同時に深い裂傷部分を縫って行く。


 俺も手術には随分と手慣れたもんだよな。

 当初なら、おたおたしていたであろう酷い大怪我でも、慎重かつ迅速に対応し、内臓機能の様子を見ながら適宜に治癒魔法をかけつつ、傷口を縫い合わせて行くんだ。


 手術には15分から20分ほどもかけたかな?

 取り敢えず現場での応急措置は終えたが、何せ野外での措置なので後々感染症等が懸念されるんだ。


 手術前にも一応の浄化魔法はかけたんだが、俺が来るまでに細菌感染をしている場合もあり得る。

 ましてや、魔物に襲われてできた傷なんだから、破傷風を含めて何らかの病原体が体内に侵入している可能性が高い。


 出来たらこの負傷者を早急にカルヴィアに運んで、診療所に入院させて安静にし、しばらくは経過を見ることが重要なんだ。

 動かすにしても、人手を使うと不注意で怪我が悪化する恐れが高いので、俺は魔法を使って患者を浮かせ、そのまま街道まで運ぶことにした。


 魔法で人体を浮遊させるのはきっと珍しかったのだろうな。

 傍についていた二人が目を()いていたぜ。


 但し、運び始めてすぐに危険がやって来たのに気付いたよ。

 気配察知から危険度の高いグレイベアの変異種とわかったが、患者を運ぶのが優先だから立ち止まったりはしない。


 当然にモンスターが俺たちの進路前方に現れたが、接敵と同時に、俺は無言で風魔法を発動して、奴の首を瞬時に切り落とした。

 またまた、ついてきた冒険者二人が目を剥くことになったな。


 まぁ、無理もない話だろう。

 遭遇してしまったグレイベアに命懸けで立ち向かい、多少の傷を負わせたにせよ、追い払うのが精一杯だったのに、自分たちと同じか年下であろう治癒師と思われる若い男の魔法により、そのグレイベアの太い首が一瞬で切り飛ばされれば流石に驚きもするだろう。


 折角だから、倒したグレイベアの遺骸を俺のインベントリに収納したが、あちらこちらに結構傷がついているから毛皮の価値は落ちている奴だなと判断している。

 いずれにしろ、そんな些細(ささい)な出遭いもあったが、無事に馬のところまで辿り着き、そこでインベントリから俺の患者輸送用の馬車を出して、患者を寝かせたよ。


 浮遊させたまま運べないこともないんだが、流石に診療所まで運ぶとなれば長距離になってしまい、疲れてしまうから、後の診療が有っても対応できなくなる恐れもある。

 馬車で運ぶ方が楽だし、緊急事態にも対応できる。


 馬車は飽くまで患者の輸送専用だから、当然のことながら、俺も冒険者二人も徒歩でカルヴィアに向かうことになる。

 一応付き添っていた仲間から患者の名前なんかも聞いて、わかる範囲での持病の有無も確認しておいた。


 冒険者ギルドまで通報に来たのがトムと言う男性で斥候役、大怪我を負ったのがリディアと言う女性剣士、傍についていたのが、盾役のロイドと剣士のバルドという二人でいずれも男だ。

 パーティでの男女混合はさほど珍しくも無いが、女性が剣士役をやっているのは比較的珍しい方で、精々五組の内一組ぐらいだろうな。


 剣士とは言いながら、剣を振り回すには結構筋力を必要とするから、冒険者で女性の剣士は珍しいんだ。

 通常の場合、女性冒険者であれば、斥候役や弓や槍を使う場合が多いんだ。


 いずれも、ヴェルスの冒険者ギルドに所属している17歳の冒険者で、ヴェルスの近郊にあるデランド村の出身らしい。

 輸送用の馬車には振動軽減用のダンパーや緩衝装置は取り付けているんだが、できるだけ患者の身体に負担をかけないよう、また、振動を与えないように馬車の歩みはゆっくりとさせており、カルヴィアの診療所に着くまで概ね一時間余りを要したよ。


 途中でロイドから診療費用について聞かれたから、ウチの診療費について説明しておいたら明らかにほっとした顔つきをしていたな。

 カルヴィアはともかく、ヴェルスの場合は、教会の治癒師に診て貰うしかなく、大怪我の場合は、小金貨どころか大金貨すらも要求されることが有るらしい。


 俺の診療所の場合は、余所者であっても、カルヴィアの町の住人と同じ診療一回に付き大銀貨一枚だからな。

 冒険者の互助会に入っていたらもっと安い金額で済むんだ。


 但し、入院すれば食費もかかるから一日に付き小銀貨一枚を徴収しているし、更なる治療が必要であれば追加徴収もあり得る。

 リディアについては、傷の程度を見る限り、二週間程度は入院しなければなるまい。


 その日から診療所に入院患者が一人増えることになった。

 リディアのパーティメンバーは、一旦ヴェルスの町に戻って事情をヴェルスのギルドに報告してから、カルヴィアの町に戻ることにしたようだ。


 因みに『赤目』と呼ばれるネームドのグレイベアの遺骸は、カルヴィアのギルドで納品し、大金貨二枚と小金貨三枚で売れたから、その約半分の大金貨一枚(=小金貨十枚=大銀貨百枚=小銀貨千枚)を彼らに渡してやろうとした。

 彼らが一生懸命に頑張ったにしても、グレイベアの毛皮の価値を落としただけに過ぎないんだが、苦労して仲間が大怪我を負ったにもかかわらず、ただ働きになるよりはましだろうと思ってのことだ。


 流石に大金貨一枚の山分けは多すぎると断ってきたが、金欠病だったのか、小金貨一枚ならばと受け取っていたよ。

 まぁ、今後ともリディアの診療費用もかかるし、彼らとしてはその損失が埋まるだけでも御の字なんだろう。


 彼らのパーティの名前は『デランドの双剣』と言うらしいんだが、ここしばらくは双剣ではなくって単剣になりそうだな。

 少なくともリディアが回復するまでは、カルヴィアで細々と活動をするつもりだと聞いている。


 そのリディアに多少の発熱はあったが、後遺症や合併症は認められず、俺の診療所に入院して二週間後には元気になって退院していった。

 但し、PTSDというか心理的なトラウマは残っているだろうから、今後とも冒険者として活動できるかどうかは不明だ。


 本人にも一応注意喚起はしておいたけれど、デランドの双剣のリーダーであるロイドには、リディアの様子に気を使ってやらないと大事な場面で動けなくなる場合もあるから注意しろとは言っておいた。

 俺は精神病医じゃないから、PTSDまでは面倒を見切れない。


 あるいは、闇魔法で何とかなるかもしれないんだが、闇魔法でこれまで使ったのは影魔法的な使い方と教会の治癒師に雇われた刺客の自白を強要させる際に使ったぐらいだから、精神療法に使えるかどうかはわからないんだ。

 人体実験をするには余りにも危険すぎるからな。


 余程に切羽詰まった状態でなければ、精神を左右する魔法は、対象者が悪人でもない限りは使いにくいんだ。

 例えば凶暴性のある狂人であって、どうしても何とかしなければならないような事態に陥ったら試行的にやることがあるかもしれないが、俺としては興味本位で人体実験はしたくないんだ。


 リディアが退院して二か月後、デランドの双剣が破綻したと人伝(ひとづて)に聞いたよ。

 大きな魔物と遭遇した際に、リディアが動けなくなって、ロイドとバルドがリディアを庇って怪我を負ったらしい。


 ヴェルスの教会で治癒を頼んだらしいが、多少の借金を抱えることになってしまい、斥候役のトムとトラウマを抱えたリディアだけで金を稼ぐのは難しく、最終的に実家に泣きついて何とか負債を返し終えたものの、パーティの継続活動は無理と判断して解散したらしい。

 その噂を聞いてから一週間後、リディアが俺の診療所を訪ねて来た。


 話を聞くと、リディアも冒険者としての活動は無理だけれど、お世話になったお礼をしたいので、可能ならばこの診療所で雇ってもらえないかと言うお願いだった。

 リディアもまだ17歳だから他に転職もできるだろうけれど、実家は農家であり女のリディアが農家を継げるわけでもない。


 いずれは最寄りの農家に嫁として嫁がされるぐらいの未来しか無いようだが、実は田舎の農家もかなり厳しい生活を余儀なくされる。


 農家の嫁として入れば、それこそ給料のいらない女郎兼女中さながらにこき使われるようだ。

 そんな生活が嫌で冒険者になったのに、またまた、農村に戻るのは避けたいそうだ。


 この世界では、教育制度があまり発達していない所為で、無学な者が多い。

 特に農村部ではその傾向が強い。


 従って、リディアも特段の教育を受けていないことから、ヴェルスで商家などへの就職は難しいようだ。

 勿論、娼館にでも身売りをすれば別だけれど、流石にリディアもそれは敬遠したようだ。


 できればお世話になった診療所の手伝いをして恩返しをし、日々の生活に困らないだけの衣食住を与えてくれればと申し出ている。

 リディアは、顔立ちの整った可愛い子だよ。


 冒険者をやっていた際は、わざと前髪を垂らしていたし、日焼けして肌もざらついていたから、美少女には見えなかったかもしれないが、診療所に入院している間に、きちんと洗顔し、髪もポニーテールに整えたら、美少女になっていたから間違いはない。

 尤も、診療所を退所する際には、また、前髪を垂らして目元を隠すようにしていたんだが・・・。


 多分、(ひな)には稀な美少女の風情を隠すために、わざと顔の半分近くを隠していたんだろうと思う。

 美女と知られれば色々と性的な勧誘もあるし、中には貴族の横暴に遭遇したり、悪意を持って近づく奴が居たりする場合も多い。


 そうした中で気づかれないようにするには、目元を隠し、なおかつ肌を少し荒れさせて、さらに農民のように泥などで肌を汚しておけば、男は意外と近づかないモノなんだ。

 まぁ、彼女なりの身を守る(すべ)だったのだろうね。


 今では、実家でも厄介者(やっかいもの)見做(みな)されていて、実家に戻ることもかなわないので、思案の挙句、ダメもとで俺の元を訪ねてきたようだ。

 俺も色々考えた末に、診療所での看護師兼自宅のメイドとして雇うことにしたよ。



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