2ー9 復帰した健司の世界 その七
翌日の午前10時過ぎ、彼の会社に電話をしました。
受付の方でしょうか、女性が応答してくれました。
「私、最上瑠偉と申しますが、御社の矢田健司さんをお願い出来ましょうか?」
「はい?
失礼ですが、お仕事のお話では無いのでしょうか?」
「はい、私は、昨日矢田様に危ういところを助けていただいた者でございまして、是非ともお礼を申し上げたいと存じまして、失礼ながら勤務先に電話をかけさせていただきました。」
「わかりました。
では、矢田におつなぎいたしますので、そのままお待ちください。」
矢田健司さんに電話をつなげてもらい、挨拶とともに一言お礼を言ってから、お時間が有れば夕食をご一緒にいかがでしょうかとお誘いしたら、午後六時以降ならホテルにも来られるということでしたので、最終的にホテルの和食レストランでの夕食に決まりました。
奈美と二人でメニューを調べ、夕食では二番目に高い定食コースを選びましたよ。
新入社員の月給ではとても高い夕食につくのですが、私の命を救ってくれたナイト様へのお礼なら惜しくはありません。
因みに大学時代を含めて、男性とのプライベートな夕食は初めてのことなのです。
我が家は、男女関係にはうるさく、中高時代は男女交際が許されるような雰囲気ではありませんでした。
大学に入ってからは、ようやくそれが多少なりとも緩やかになった筈なのですけれど、生憎と急に異性との交遊ができるほど私は器用ではありません。
大学時代にも何かと私にすり寄って来る男子学生が居ましたけれど、そういう方とのお話がまず上手くできないんです。
女子学生同士なら何ということもないのに、男子学生が前に来ると途端に無口になってしまいます。
当然のことながら、男子学生からお付き合いをお願いされても、小さな声でお断りして、その場を逃げ出す私でした。
奈美が言うには、私はオクテなんだそうです。
もしや男性に対して非常に消極的なのは、最上家の躾が厳し過ぎていた所為なのでしょうか?
どうも私には、世間一般のまともな男女交際が少々難しいのかもしれません。
私も人並みによく小説を読んだりしますから、ラブストーリーには憧れることもあるんですよ。
でも現実には小説で書かれているようなことは、ほとんどあり得ないのじゃないかとも思っていたりするんですよね。
でも、なぜか、私を助けていただいた矢田健司さんのことは気にかかります。
◇◇◇◇
小中高を通じての親友である亜弥の結婚披露宴はとても素敵でした。
和服の花嫁姿も良かったけれど、洋装のウエディングドレスがとても似合っていましたね。
キャンドルサービスの際に「亜弥、おめでとう」って、奈美と二人でハモって言いましたよ。
亜弥の幸せそうで、とっても嬉しそうな笑顔が凄く印象的でした。
そうして、午後三時には披露宴も無事終わったのですが、少々時間が空いたところに二次会的なお誘いがありました。
亜弥の同僚達が新郎新婦を交えてホテルの隣にあるカフェバーで、二次会を開くことから、私と奈美も出席してはどうかと誘われたのです。
新郎新婦は、今夜23時発のフライトで関西国際空港からシンガポールへと新婚旅行に出発するらしいのですが、福山から新幹線で新大阪へ、さらに関西国際空港まで行くにしても、概ね2時間強で到着してしまうので、空港での待ち合わせ時間があり過ぎるようなのです。
そのために、亜弥の同僚達が、若者だけの二次会をホテル近傍のカフェバーで企画して、送り出すことにしたようですね。
私達も矢田さんとの待ち合わせに時間的な余裕が有りましたので、奈美と相談して二次会に参加することにしました。
矢田さんとは6時にホテルロビーで待ち合わせですが、新郎新婦ともどもすぐに二次会会場へ移動するようなので私たちも和服姿のまま二次会に出席し、矢田さんとお会いするときは和服姿でお会いすることにしました。
広島に帰る際には、私たちも洋服に着替えますけれど、ホテルと交渉して前日に宿泊した部屋を延長して利用できるようにしてもらいましたので、着替えの場所は確保できています。
私も大学時代に従姉妹の結婚式に参加したことはありますけれど、その際には二次会なんぞはありませんでしたね。
その意味では随分と新鮮に思えたのですが、色々と同僚たちが企画していたようで二次会はなかなか楽しい催し物でしたよ。
私と亜弥も自己紹介をし、カラオケで歌まで歌わせられました。
亜弥の同僚さん達と中々出会う機会は無いかもしれませんが、一応友達の友達にはなれたかもしれません。
おそらくは、未婚の男女が集まるお見合いの機会でもあったのじゃないかと思います。
ですから私からはほとんど話しかけませんでしたけれど、男性参加者からは色々とアプローチもされましたね、
でも男性には免疫がないので、私は適当にお茶を濁していただけですよ。
午後5時半になって、新郎新婦やその同僚たちにも別れの挨拶をして、私と奈美は二次会会場を出ました。
この二次会は、この後も午後7時過ぎまで続けるとのことで、それから福山駅まで新郎新婦を団体で見送りに行くのだそうです。
うーん、私たちは新郎新婦の見送りには多分参加できそうにないでしょうね。
◇◇◇◇
5時30分過ぎからホテルのロビーで矢田さんを待っていると、矢田さんが5時45分頃には見えられました。
そこで挨拶を交わして昨日のお礼を改めて申し上げ、それから和食レストランへとご案内しました。
食事は大変美味しくいただけました。
そうして、食事の合間に矢田さんとお話ししていると不思議に話が弾むんです。
私のお仕事、家族の話など、意外と何でもぺらぺらと話している自分に驚いていましたね。
あら、私って、こんなに男性に話をできたりもするの?
因みに、矢田さんは車でホテルまで来ているとのことで、アルコールはご辞退していました。
こんなところにも矢田さんの誠実さが見えたような気がします
勿論、私と奈美も余りお酒には強くないので、お酒は注文しませんでしたよ。
今日の亜弥の披露宴でも、アルコールは飲みませんでしたし、二次会もウーロン茶で通しました。
職場でも新入社員の歓迎会的な懇親会はありましたが、私は下戸と説明してアルコールは一切口にはしていません。
我が家の家系はどうも下戸が多いようですし、女性は特にそうですね。
矢田さんとの食事の合間に、スマホでメルアドなどを交換し、メル友にしていただきましたよ。
矢田さんのこともいろいろと聞きましたが、彼は所謂ベンチャー企業の社長さんのようです。
年齢が若くても起業をする人のために色々と支援制度もあるようですけれど、彼の場合は、起業のための資金は自分で出したそうです。
あら、お金持ちなのかしら?
そう思ったら、少し違っていたようですよ。
彼の場合、大学卒業後二年程、一部上場入りしている有名企業の本社勤務をしていたのだそうですけれど、社用で霞が関に向かう途中、交通事故に遭って大怪我を負い、1年半も入院していたとのことなんです。
一応会社から手厚い保護を受けていたものの、最終的には再起不能と診断されて、事故から一年後には結構な保証金で会社から解雇されたようです。
医師からは再起不能とまで診断されていたのですが、なぜかその後になって驚異的に回復し、昨年無事退院までに至ったそうなんです。
その後いろいろあって、瀬戸内海で難破船の遺物とされる埋蔵金を探し当て、数億円の所得を得たそうです。
その臨時収入を元に、昨年10月にこの福山で新たなハードウェア製造企業を立ち上げたらしく、彼はその社長のようですよ。
会社の経営は、順調で十分な収益を得ているとのことでした。
奈美が、「因みに矢田さんの収入は?」と随分失礼なことまで聞いていました。
すると返って来た答えがびっくりものです。
「今のところ、月に300万円ぐらいだけれど、この10月にはもう少し上がるかな?」
社名がLLCですので大企業では無い筈なんです。
また、経営者なのでボーナスは無いようですけれど、月300万円は年収にすれば3600万円でしょうか?
一般的に高額所得者として知られているお医者様でもそんなに貰っているかどうかですよね。
矢田さんの話し方は、筋道立てて、とてもさっぱりとした話し方ですし、こちらが応答している間は表情がころころ変わるところがとても面白いんです。
私の周囲には居なかった人物ですし、何となくカリスマ性を思わせるようなオーラと言うものを始めて感じ取りました。
年齢は26歳、私よりも4歳年上ですけれど、素敵な男性だと思います。
あら、ひょっとしてこれが吊り橋効果というものなのかしら。
危ない場面に遭遇し、そこに現れた素敵な救い主を慕うような・・・・。
うーん、今のところよくわかりませんが、好感が持ますし、気になる男性ではありますね。
お礼のつもりの夕食会は午後7時半ころに無事に終わりました。
この後、新幹線の駅までは彼が送ってくれると言うので、私達は着替えをしに部屋に戻り、支度をしてからロビーに行きました。
彼はその間ロビーで待っていてくれました。
それから三人連れで福山駅へ行き、改札口で別れました。
最後までとても印象的な方でしたね。
新幹線こだまの中で、隣の奈美が言いました。
「矢田さんて、とっても良い男性だと思うし、きっと玉の輿だわよ。
瑠偉、ちゃんとアタックしなきゃ。
あんたがぐずぐずしていたら私が獲っちゃうヨ。」
うーん、またまた奈美に発破をかけられましたね。
広島に戻ったら是非とも確かめたいと思っていることが有ります。
同僚から聞いたのですが、勤め先の近傍にとってもよく当たる占いが有るんだそうです。
私は、未だ、行ったことは無いけれど、職場から目と鼻の先のビルにあるようなので一度行ってみようかと思ってはいたんです。
ちょうどよいチャンスなので、彼と私の運勢を占ってもらいましょう。




