46話 魔法のお勉強 その1
区切りの関係で短めです。
次回は「魔法のお勉強 その2」を投稿予定です。
ちょっとだけ、見やすさのために会話を改行しています。
会話中の改行って見やすいですか? それとも見づらいですか?
正直、よく分かってないです。
子爵領を出ると、今までの出来事が嘘だったかのように穏やかな旅路となった。
落ち着いて物事に取り掛かれるとなって、馬車の休憩中、アルシアたちは訓練に取り組みだした。
今日はキエラが作った矢で弩弓の練習をしていた。
「これ、普通の矢に近づけたけれど、もっと貫通力とか弄れるわよ」
離れた的を狙っているアルシアの側に矢を生み出す。
隣で眺めていたリタが口を挟んだ。
「どの程度でしょうか?」
「う~ん、打ち出すのが普通の弓だから、そこまでじゃないかもしれないわね」
いまいち把握していなかったらしく、結局は実際に使ってみることになった。
念のため、リタがセットして打ち放つ。
スパッ――。
小気味よい音と共に、狙った的を貫通した矢は後ろの木々を何本も貫き、四本目でようやく止まった。
「どこまで行きましたか?」
「……」
アルシアは的に当たった後から見失ったようだが、目のいいリタは最後までしっかりと把握していた。
「それなりね。数本木を貫通できたぐらいかしら」
「えっ、そんなに貫通したんですか!?」
驚くアルシアに逆にキエラが驚いた。この程度なら障壁で易々と防げるからだ。
前の世界基準ではせいぜいが初級魔法に満たないぐらい。
速さはあるので牽制に仕える程度、通用するのも初心者相手ぐらいだろうと踏んでいた。
「もしかして、この世界の人ってそんなに強くないのかしら……?」
「……そちらが強すぎるだけではないのですか」
首を傾げるキエラにリタがツッコミを入れる。
本当はそんなことはなく、キエラの認識基準が高めなだけだった。
キエラはマグノリア自治区で教育係を務めていった。
主に十五歳から二十歳を対象に行っていたが、その生徒たちはみな優秀で国のエリートばかり。
彼らの実力は中級者レベルに到達するかどうかという水準だった。
そのため、先ほどの矢は実際には初心者には防げないレベルの威力を持っていたのだった。
そんなこととは露知らず、アルシアたちの中では、キエラもゼインと同じ人外の領域という認識になりつつあった。
二人の心中に気付かず、キエラは暢気に考え込む。
「……そもそも、こっちの魔法は何も知らなかったわね、私」
前に話していたことをつい忘れてしまっていた。
辺境にいた頃は旅の準備や魔法薬のことで失念しており、旅に出てからも攻撃魔法を使う機会がほぼなかった所為もいくらかあった。
矢の確認もリタが忙しくて、先ほどまで練習で使っていた普通の矢が作れることだけで終わってしまっていた。
「それでしたら、私たちにもそちらの世界の魔法を教えていただけますか? 代わりに分かる範囲であればリタたちが答えますので」
「それは構わないのだけれど、どうして答えるのがリタたちなのかしら? アルシアも魔法を使えるわよね」
ゼインは教えてくれなかったのか、とも思ったキエラだったが、アルシアが尋ねれば教えてくれそうな雰囲気はある。そんなことは無いかと一人納得。
問われたアルシアは、少しだけ物悲しそうに微笑むと、すぐさま首を振って普段通りの柔和な笑みを浮かべた。
「私の魔法はゼイン様から教えていただいたものです。お会いするまでは魔法は使えないと思っていましたので、魔法に明るくないんです」
「あら、そうだったの。どうりで見知った魔法の使い方をすると思ったわ。――魔法が使えないって何かあったのかしら?」
「ゼイン様曰く、こちらの判別用の魔道具に欠陥があるそうです。それと、魔力視……でしたか。その技術がこちらには無かったもので」
「え、じゃあどうやって魔法を感知するのかしら?」
驚くキエラにアルシアは隣にいるリタに視線を向ける。
流石に知らなかったので口出しを控えた。
「……魔法が発動されるまでは感知できません。それも人によってはまちまちでして、何となくや朧気ながらといった風に感覚的なものでして、ほとんどが目視に頼っております」
リタの説明にキエラは眉をひそめた。
「……そんなの、ほぼ出来ていないのと道義じゃない。よくそれで生きていられるわね」
しみじみと語るキエラにアルシアたちは顔を見合わせる。
二人の中ではキエラたちの世界はとんだ戦乱の世になっていた。……あながち間違っていなかったのが救いようはなかったが。
「ひとまず、情報交換をしませんか? ……私たちも強くなりたいので」
後半の小さく呟かれた言葉にキエラは相好を崩す。
どこか生徒を見守る先生のような眼差しで了承したキエラは、二人を伴って馬車へと戻った。
◆◆◆
全員を集めたキエラは、手始めにリタたちの適正について聞いた。
「私は火と土です」
「私は身体強化と水っすね」
「私は身体強化だけ」
「なるほどねぇ。――ゼイン、彼女たちの適正ってちゃんと調べたのかしら?」
我関せずと近くの木にもたれかかっていたゼイン。
声に従って顔をあげると、静かに首を振った。
「そう……。なら、一度ちゃんと調べたほうがいいかもしれないわね。アルシアが最初魔法を使えなかったって言うぐらいだもの、抜けがあるかもしれないわ」
すぐに始めようとするキエラにリタが待ったをかける。
「この後、私たちは大丈夫なのでしょうか? その……、御者等の仕事がありますので、差し支えるならば後日にして頂きたいのですが……」
言い淀むリタに、何のことかよく分からない様子のキエラ。
こういう時の原因に視線を向けると、当人が何てことないように話した。
「あぁ、俺が調べると相手がしばらく寝込むからな。今ならアルシアがいるから、多少は回復が早いんじゃないか」
予想通りの元凶が口を割ると、思わずこめかみを揉むキエラ。
その様子を見ていたアルシアとリタは、内心やっぱり普通じゃなかったのか……、とため息をつく。
「大丈夫よ。普通はそんなことにならないから、安心して」
とりあえずということで、リタから順に適性を調べていく。
彼女の手を取って軽く魔力を流す。
「ふんふん、なるほねぇ……」
数十秒かけて魔力を流し終えると、手元の紙に何かをメモした。
そのまま、ネリー、セルマと同様に調べたキエラが、念のためとアルシアも確認する。
四人の調査を終えたキエラが、それぞれに伝えながらメモを渡す。
「とりあえず、私が分かる範囲で適正と魔力量を書いたわ。
――リタは申告通り、“火”と“土”、あとは“風”も操作だけは出来そうね。魔力量は約五〇〇。
ネリーは“水”と“影”ね。“身体強化”は私たちからしたら適正って呼ばないのだけれど、問題なく使えるわね。魔力量は約四〇〇。
セルマはちょっと特殊で“身体強化”が使えて“重力”に適性があるわ。あと、たぶん“精霊魔法”も使えると思うのだけれど、こっちは私、専門外だから教えられないのよ。魔力量は約五〇〇」
自分の知らなかった適正を告げられて、三人とも嬉しそうな顔をした。
特にセルマの喜びようはひとしおで、顔を引き締めるつもりが失敗していて、口をニマニマしているようにしか見えなかった。
三人の結果から、期待して目を輝かせるアルシアに、ちょっぴり困ったように眉を曲げるキエラ。
「最後にアルシアだけれど――。ごめんなさい、適性は“回復魔法”だけね。操作だけなら“火”と“炎”、“水”は出来そうね。魔力量はだいたい三二〇〇ってところかしら」
思っていた程ではなかったが、それでも回復魔法以外を扱えると判って満足そうに笑っていた。
「……その、申し訳ないのですが、アルシア様の“火”と“炎”の違いは何なのでしょうか?」
リタの質問にゼインを振り返る。
「うーん、教えてなかった、かも? どうだ?」
「えっと、その……。血統魔法のようなものと思っていたので、聞いてなかったと思います」
曖昧な答えにキエラは一から説明することに決めた。
「そうね。――私たちは魔法の種類を“基本属性”と“上位属性”、“特殊属性”に分類しているわ。基本四属性の火・水・風・土、上位四属性の炎・氷・嵐・地、その他の属性を特殊属性としているの。基本属性を強力にしたものが上位属性なのだけれど、二つの違いは使用する魔力量と魔法の規模、あとは魔力操作の難易度が違うわね。同じ魔力消費量なら、上位属性のほうが威力も規模も大きくなる代わりに、魔力操作の要求が跳ね上がるわ」
新しい情報にアルシアたちはゼインを見やる。
「……たしか、ゼイン様は炎と氷と雷、それから空間魔法とおっしゃっていましたが、特殊属性は二つなのですか?」
「あー、雷は一応嵐属性の一部だ」
アルシアの勘違いにゼインが訂正を入れる。
ゼインの伝え方に疑問を抱いたキエラは首を傾ける。
「ゼインって火や水、風は使えないのかしら?」
「使えない。嵐もな」
きっぱりと断言されて、キエラの顔に困惑が広がる。
「何かおかしいのですか?」
「……えぇ、そうね。――普通は基本属性に適性がないと上位属性を使えるはずがないのよ。雷属性も嵐属性が使える前提の魔法だから、あまりにも歪ね」
雷属性は嵐属性に内包されている。
嵐属性が使えるからといって、雷属性が使えるとは限らなかったが、逆はあり得ない。
全員の視線がゼインに集まる。
ゼインの瞳が僅かに揺れ、目を細める。
「……言わなきゃダメか?」
「正直気になるわね」
「私も、出来ればですけど……」
毅然とした態度のキエラと、躊躇いがちなアルシア。
ゼインは仕方なしとばかりに視線を落としてため息を吐く。
顔を背けながらぽつりと零した。
「……過去の実験の産物、とだけ。――詳しい話は気持ちのいいものじゃないからするつもりはない」
有無を言わせぬ雰囲気を醸し出して、ゼインは追及を避けた。
アルシアたちは何となく事情を察した。――その実験が碌でもなかったということに。
気まずい空気が漂う中、キエラが足踏みしているアルシアの背中をそっと押した。
キエラを振り向くアルシアに、しっかりと頷き返す。
異を決したように、ゼインに歩み寄ったアルシアは優しく頭に手を置くと、静かに撫で始めた。
おもむろに顔を上げるゼインに、慈愛の籠った微笑みを返すアルシア。
彼の瞳が見開かれて揺れる。
すぐさま気恥ずかしそうにそっぽを向いたゼイン。
その手を払い除けることはせず、しばらく成すがままにされるのであった。
一言メモ
キエラはその能力の性質上、ほぼ単身で戦っていたので、実力に関しては一般的な認識との齟齬が生まれています。




