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六英雄キ -異世界編-  作者: 上野 鄭
第二章 遭遇

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二章幕間3 連続解放事件

0時にも投稿します。

 夜。

 城門は閉ざされ、人の往来は減る。

 歩哨として城壁の上から外を警戒しているとはいえ、異変というのは滅多に無い。

 今日もいつものように退屈な仕事を行う兵士たち。

 その中の一人が暇そうな欠伸をかみ殺す。


「おい、もっと集中しろッ」


 見咎(みとが)めた上司が注意を飛ばす。

 すみません、と頭をかきながら言い訳を口にした。


「……そうは言っても、何か起こるなんて、まず無いじゃないですか」

「そんな態度ではいざという時に異変を見逃す。ガチガチになるまで気を張る必要はないが、常に集中して周囲を警戒しろ」


 上司の男は外に顔を向けたまま部下に厳命を下す。

 ばつの悪い顔をしながら、部下も視線を戻した。

 すると視界の先、城壁から百メートルも離れない所に人影が現れた。


「へ……? あれっ、え? ひ、人影があります!」


 状況を飲み込めなかった様子だが、見たままの通り、声を張り上げる。


「どこだ!?」

「あそこです! 一〇〇ほど離れた先に、数人の人影が突然現れました!」


 部下の声に上司の他二人が集まる。

 他の歩哨は、抜けた穴を埋めるよう周囲の警戒を厳にした。


「……見たところ、薄着の女性だな」

「盗賊の類ではなさそうですね」

「……ここまで気付けなかったのか?」


 近寄ってきた部下の一人が発見した男に疑問を投げる。


「……さっきまではいなかったはずです。透明になっていたみたいに、急に現れました」


 欠伸を注意されていたばかりで説得力はないと思いながらも、見たままの事実を述べる。


「……ふむ」


 悩む上司を余所に、その女性たちは門のほうへ近づいてくる。

 遠くて表情までは見えないが、小走りに近づく彼女たちからは性急さは見て取れなかった。


「――私が見てくる。お前たちは、引き続き何かないか警戒を続けてくれ」


 上司の言葉に持ち場へと戻る部下たち。

 今回の件で、皆の表情は引き締まる。欠伸をしていた部下も、先ほどとは比べ物にならない真剣な表情を浮かべていた。

 それを確認した上司は城壁を降りていった。



 ◆◆◆



 コンコンコンッ――。


 夜間用の非常口の戸が叩かれる。

 上から降りてきた上司は、城門の内側で歩哨をしていた部下を連れて扉の前にいた。

 ノックの音から間隔を空けて誰何する。


「こんな夜更けに何用だッ! 名を名乗れ!」

「わ、わたしはエミリと言います。どうか街に入れていただけないですか……」


 エミリと名乗った女性に心当たりがない。

 振り返ると部下たちも同様で首を振っていた。

 静かに覗き窓を開けて姿を確認する。

 遠くから見た通り、エミリは布を巻きつけただけの格好をしていた。

 後ろには似たような薄着の女性が他に三人程いた。

 愛嬌(あいきょう)のある顔立ちだとは思ったが、どこかで見た覚えもない。

 彼女たちは布をぎゅっと握りしめながら、安心と不安がない交ぜになった表情を浮かべている。

 受け答えした女性が一番年上に見えたが、若い女性という以外の共通点は見つけられなかった。


「夜間の立ち入りは原則禁じられている」

「そ、そこを何とかなりませんか? わたしたち、盗賊から助けてもらったばかりでして……」

「何……?」


 彼女の言葉に顔を顰(しか)める。

 助けて貰ったと言う割には、その相手が見当たらない。

 後ろの三人含め、どこからどう見ても戦える雰囲気ではなかった。

 嘘を言ってるかとも思ったが、彼女たちにメリットはない。

 入市税よりも謝礼金のほうが高くつくのだから。


「貴方たちを助けた相手はどこにいる?」

「それが、その……」


 言い淀む女性に不審な目を向ける。

 しばし悩んでいた女性だったが、信じてもらえないかもしれないですけど、と前置きをして説明を始めた。


「……は?」


 一から聞いても全く理解できなかった。

 突然現れた少年に助けられて、そのままここまで送ってきた――ここまではまだいい。いや、正直胡散臭くはあるが、まだ許容できた。

 問題は彼女たちを送った方法。

 その少年曰く、“転移”で移動させたのだとか。

 おとぎ話でしか聞かない単語に頭を抱えそうになる。

 彼女たちも眉唾だと思ったらしいが、実査に一瞬で目の前の景色が変わったのを経験したら、そんなことは吹き飛んだそうだ。

 先程までは不安そうにしていた彼女たちが、口々に感想を述べて色めき立つ。

 その様子に、集団幻覚かもしくは薬でもやっているのかという考えがもたげた。


「……とりあえず、貴方たちから詳しい事情を聞く必要がありそうだ。扉を開けるから、大人しくしてくれ」


 部下に警戒指示をハンドサインで送った上司がゆっくりと扉を開く。


「ひっ――」


 上司が一歩踏み出すと、誰からともなく息を呑む悲鳴が聞こえ、女性たちは体を強張らせた。

 演技であれば大したものだ。

 そんな思いを抱きつつ、女性の顔色をうかがうと、どの女性の瞳にも怯えが色濃く映っていた。

 困惑した上司に、エミリが喉を鳴らしてたどたどしく言葉を紡ぐ。


「あの、えっと、その……。まだ、ちょっと、男性は怖いというか、その、えっと……」


 視線を彷徨(さまよ)わせていっぱいいっぱいの様子の彼女に、上司は一歩下がる。

 見るからに筋骨隆々で逞しい体つきの上司。

 今まで男性に暴行を受けて来たと考えれば、彼女たちの態度も頷けた。

 演技だと疑った自分を恥じながら、努めて優しい声音で話しかけた。


「すまない、配慮が足りなかった。申し訳ないが、しばらくここまで待って貰えるだろうか――おい、女性の兵士を呼んで来い。彼女たちの対応を任せる」


 ぎこちない頷きを確認すると、上司は背後の部下に指示を出した。


 しばらくして、女性の兵士によって彼女たちは保護され、事情聴取を受けるのだった。


 女性兵士の事情聴取の結果、彼女たちの話は本当のようだった。

 盗賊に襲われた後、囚われていたところに黒髪赤目の少年が助けに来たのだとか。

 暴行を受けていた彼女たちに、体を隠せる布と金品を渡すと、領都まで“転移”で送ってくれたそうだ。

 件の少年はいつの間にかいなくなっていたそうで、行方知らず。彼女たちも正体は知らないらしい。

 何とも変な奴だと思いながら、荒唐無稽なことを報告する上司は気が重かった。



 ◆◆◆



「……またか」


 奇妙な事件から三日が経過した。

 あれから三日三晩。昼も夜も問わず、似たような事件が発生した。

 何の前触れもなく人が現れ、その誰もが乱れた服装を隠すように布を体に巻き付けていた。

 上司は知らなかったが、似たような事件が子爵内の他の街でも発生していたらしく、心労を同じにする同士がそこかしこに生まれていたのだった。

 夜も大変ではあったが、日中だと他の入市待ちの人目がある。

 好奇の目に晒される女性を守るべく、最近では女性兵士を必ず配置するようにしていた。


「そういえば最近、盗賊被害を聞かなくなりましたね」


 夜番の歩哨中、部下の一人がおもむろに口を開く。


「あるだろ。現にこうして女性たちが解放されているじゃないか」

「そうですけど、前はどこそこで襲われたーってよく耳にしていたじゃないですか」

「単に女性たちの解放で埋もれているだけじゃないのか? ほら、“謎の義侠(ぎきょう)、囚われの女性を次々と解放する”って巷じゃ持ちきりですよ」


 どこの誰が言い出したのか、一連の事件を“連続解放事件”として謎の少年をモチーフにした唄が流行っているそうだ。

 確かに部下の言う通り、隊商が襲われたという話は最近聞かない。

 以前は街から街への移動だけでも気を張っていた商人たちの顔色が良くなった気がする。

 そんなことを考えながら、またしても現れた人影に上司は嘆息を漏らすのであった。


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