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六英雄キ -異世界編-  作者: 上野 鄭
第五章 真相

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223話 取り違えた認識

1回分、お休みをいただきました。

次回は0時更新予定です。

「――それで、何から話そっか?」


 困惑を浮かべたままのアルシアたちに話し掛けると、彼女たちはしきりに鬱憤を隠さないゼインを気にする。

 彼が腕を組んで無言の構えを取るせいで、なかなか口に出せない空気だった。

 それでも代表して、マヤがおずおずと声を上げた。


「……あなたたちの目的は何? どうしてこんな酷い真似をするの?」

「何を指して“酷い”と定義するかにもよるけど、目的そのものは単純明快だよ」


 その言葉で、ぴくりと彼の眉だけが動く。

 それでも口を開かないのは、彼らしいところだった。

 他のみんなは催促するよう視線を強める。


「その目的とは、一体どんなことなのですか?」

「それはねアルシアちゃん、世界の繁栄のためなんだよ」


 告げられた事実に困惑を隠せないアルシアたち。


 世界の繁栄。

 簡単な一言だとしても、()み込むには些か時間を要していた。


「……それが、どうして人間の大量虐殺になるの?」

「その辺りは半分予想外だったんだけどね。元々は適度に暴れて、適度に君臨するだけで十分だったんだよ」


 軽い表情のまま、気付かれないようちらりと件の相手を見やる。

 知らなかったとはいえ、邪魔立てした事実は覆らない。

 この後のことに少々辟易としながらも話を続ける。


「あの子たちの役割は世界の浄化。(ひずみ)やら(けが)れやらを喰らい、秩序を守ることなんだ」


 アルシアたちは戸惑いを隠せない。

 きっと目にした実態と説明が噛み合わないからだろう。

 その証拠に、首を傾げて怪訝(けげん)そうな眼差しを浮かべていた。


「あまりに抽象的すぎて、よく分からないんだけど」

「順を追って説明するよ。まずは“世界”の在り方から。マヤちゃんたちも経験したように、この世にはいくつかの世界が存在するんだよね。マヤちゃんたちのいた世界、アルシアちゃんたちのいる世界、そして、君たちの知らない()()()()が。それらは密接に絡み合い、いくつも影響し合って成り立っているの」


 一旦そこで言葉を切る。

 彼女たちは浅く頷いて理解を示した。


「それぞれの世界が繋がったり良い刺激を与え合ったりするだけならいいんだけど、現実はそう都合よく進まないんだよね。だいたいが無秩序に枝葉を伸ばして、お互いへ侵略し合うんだ。根源を持たない世界図だと特に」

「それだと、異世界から人を呼ぶのも拙いんじゃない?」

「あはははは、そんな程度じゃ世界は揺らがないよ。動くのは世界同士が接近した時とかぐらい。どうしたってお互いを引き寄せあっちゃうから、その存在の大きさ故に影響を及ぼしかねないんだよね」


 いい着眼点ではあったけど、まだまだスケールが小さすぎる。

 世界は彼女たちが思っているより、もっと大きいものだから。

 一人だけ理解しそうな人は、絶賛別のことに集中しているからか、目立った反応は示さない。

 代わりに、さっきからずっと眉間に皺を寄せていた。


「だから礎となる世界が根を張り、そこを軸に他の世界が形成されているんだ。ちょうど一本の樹木のようにね。――その中心たる世界がここ第六世界、他世界の負債が集まる場所なんだよ」

「どういうことですか!?」


 流石に聞き捨てならないと、この世界の住人(アルシア)が声を荒げる。

 他の子たちも同様に酷く顔を(しか)めていた。


「さっきも言った通り、この世界が基点となっているからね。そりゃあ良いも悪いも集まるのが道理だよ」

「……っ」


 納得いってない様子の彼女たちへ更に言葉を重ねる。


「分かりやすいところで言えば、異世界人が最たるものかな? 他の世界から来ることはあっても、この世界から辿ることはないからね。それと迷宮遺跡(ダンジョン)もその一部だよ。あんな美味しい施設、そうそうない訳だし」


 もっとも、他に役割はあるけれど、と内心独り言ちる。


「それは、そうですが……」

「まぁ、無理に納得する必要はないよ。ただそういう仕組みだって理解してくれれば、それで十分」


 悩めるアルシアへ助言を送る。

 若干和らいだものの、思いつめた表情で口ごもる。


「なら、どうしてわたしたちを呼ぶなんて真似したの?」


 考え込んでいたマヤが再度疑問を投げる。

 ゆっくりと彼女へ視線を移し、平然と答えた。


「浄化の手助けをして欲しくてね。今回はタイミング悪く、顕現が複数重なっちゃったから。少しでも負担を減らしたかったんだ」

「……わたしたち、浄化系の魔法は使えないけど?」


 硬い声のマヤが眉をひそめる。

 彼女の懸念に気付かないふりをして、おどけた調子で返す。


「勿論承知の上だよ。回収も浄化も、基本はあの子たちだけで済むからね。ただ、普段は一人二人のとこ、全員出払うことになったから消失の余力が足りなくてね。君たちに討伐してもらいたかったんだよ」


 普段はサポートに回ってくれるズィゴスまでもが顕現した今回に至っては、このぐらいしか方策がなかった。

 そう告げると、明らかにほっとした人といっそう表情を曇らせた人とに分かれた。

 前者には悪いと思うけど、ただし、と断りを入れる。


「それは粗方回収が済んだ後、顕現から半年以上経った後の話なんだけどね」

「それじゃ、つまり……」

「いくつかは早すぎて、うまく機能しなかったんだ」


 視線がゼインに集まる。

 当の本人は僅かに目を細めたまま口を開く。


「そんなもの、俺の知ったことじゃない」

「ゼイン君の場合、倒し方にも問題があってね。君、元の世界(向こう)の力のまま振るったでしょ? そのせいで残った子たちに(しわ)寄せが行ったんだからね」

「知らん」


 すげなく切り捨てるゼイン。

 まぁ、彼の言い分も正しいことには正しい。

 事情を知らなければ、いつものように倒してしまうだろうから。

 普通の人ならそれで問題にはならないのだけれど、彼の場合は事情が異なった。


「でもゼイン君、()()()()()()()をガン無視したじゃない。それで本来の力を発揮できなかったでしょう?」

「は――?」


 ようやく彼の動きが止まる。

 大きく口を開け、眼を(すが)めていたゼインだったけど、ややあって意味を理解したのか「……そういうことか」と苦々しげに(つぶや)いていた。


「どういうことですか?」

「ゼイン君の魔法が通じにくいって話は、アルシアちゃんも知っているでしょ? あれはゼイン君とこの世界の相性が悪いんじゃない。問題は、彼がこの世界の摂理をよく理解してなかったことに起因しているのよ」


 それでも疑問符を浮かべるアルシアに、噛み砕いて真相を告げる。


「彼の力の源である理力って、知覚できるものによってその濃淡が変化する代物なの。力の――世界の理解が深ければ深いほど、より多くの、より濃密な理力を操ることができて、強力になるのよ。逆に無知だと――()()した状態だと、著しくその効力を落としてしまうものなのよ」


 ハッとして隣を振り向くアルシア。

 マヤたちも目を丸くして渋く(ゆが)んだ横顔を見つめていた。


「――世界が変われば理も変わる。その注意を怠った反動が、その身を(むしば)んでいるんだよ」

「――っ!?」


 ゼインの表情がいっそう険しく(ほの)暗くなる。

 その瞳に紫紺が宿り、刺々しい殺気を放っていた。


「お前、どこまで……!」

「これ以上は君に任せるよ。でも、一つだけ忠告。――大切なものを零れ落としたくないのなら、これから先、ちゃんと考えて行動すること。周りを顧みず、激情に駆られちゃダメだからね。……失ったものは、二度と戻らないんだから」

「……」


 温度が更に下がる。

 粘度の増した視線に、内心、ため息をつく。

 ……強すぎるのも考えものかもしれない。

 彼の場合、巡り合わせが絶望的に悪かったせいかもしれないけれど。


 しばし視線が火花を散らす。

 今のゼインは声を掛けられる雰囲気ではなく、望みの綱も音沙汰ない。

 誰もが息の詰まる空気に呑まれていると、不意に彼の口が開かれる。


「……お前があの独楽野郎と鉢合わせるよう差し向けたんじゃないのか?」

「別にそんなつもりはなかったかな? そろそろもう一人を呼ぶ頃合いだっただけで、()()()()()()のは計算外だったし」


 そう言った途端、紫紺が瞬く。

 荒々しい光を放ち強襲したゼインは、溜めていた右の掌底を鋭く突き出した。


「――ほら、言った傍から我を忘れて。ダメじゃないの」


 この身に届く寸前、彼の手首を軽く捻る。

 勢いは空へといなされ、余波が木々を泣かせた。


「――っ、放せ!」

「ダーメ! 今暴れちゃ、キエラちゃんたちにも迷惑でしょ?」


 穏やかに眠る幼子の名前を告げると、藻掻いていた体が大人しくなる。

 平然と対応しながらも、胸は静かに早鐘を打つ。


 座ってからずっとゼインが黙々と魔力解析をしていたこともあって、紫紺が牙を剥く。

 (つか)む手に伝わる彼の魔力が、その異常さを物語っていた。

 侵食速度は想定以上。

 極力、彼の知らない力で阻んでいたはずなのに、寸前まで食い破られていた。

 あと一秒でも抵抗されていたら突破されていたかもしれない。

 そう思うぐらいギリギリだった事実に、背筋が凍る思いだった。

 先輩の助言に従っていて良かったと、密かに胸をなでおろす。


「それに、まだ話の途中だよ? 最後まで聞いてから判断しなさいな」

「……っ」


 忌々しそうに奥歯を噛みしめるゼインだったけど、(たぎ)らせていた紫紺を引っ込めた。

 瞳は未だ変わらないところを見ると、警戒は続けている様子だ。

 突然の出来事に理解の追い付かないアルシアたちは、手を取られ宙に浮く彼の姿に唖然(あぜん)としていた。


「とりあえず、座ろっか。今なら膝の上で甘えてもいいよ?」

「いらん」


 手を振り解いて降り立ったゼインは、キエラたちの側で怖い顔をする。

 それでもさっきみたく噛みついて来ない分、可愛らしく思えた。


「えっと、何があったんですか……?」

「ゼイン君が勘違いして食ってかかっただけだよ。――先に安心させておくと、君の想像は的外れ。今もちゃんと、無事に生きているよ」

「……ふん」


 その言葉を聞いて安心したのか、微かに雰囲気が柔らかくなる。

 それでもまだ刺々しいのは、疑っているのか、確認するまで心休まらないのか……。

 いずれしっかりと説明するから放っておくことにした。


「えっとどこまで話したっけ? ――あぁ、役割の話か。マヤちゃんたちを呼んだ理由は概ね話し終えたけど、一番の目的を伝えてなかったね」


 記憶を手繰って話を戻す。

 最後の言葉はゼインも気になるのか、視線の湿度が増した。

 軽く咳払いをして空気を変えると、おもむろに告白した。


「――君たちには、()()()()()を手助けして欲しいんだ」


 その宣言に、三者三様の反応が見られた。


ゼインが腕を掴まれた描写の一部を修正しました。 (2026/4/11)

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