一分一秒の価値は変わらない
別室の大きな鏡がある準備室へと案内されて私は部屋の角にある大きなドレッサーの椅子へと座った。
『ではでは、早速メイク始めていきましょうか』
生田さんはそう言ってメイク道具が沢山のった車輪のついた作業台を私の隣へと運んだ。
そして手慣れた手つきで作業台からクリームを手に取りそれを自分の手の甲に軽く出した。
『鳴海さんは普段は何をされている方なんですか?』と彼女はクリームを私の額や頬に軽くのせながら尋ねた。
『普通の会社員です。 朝から晩まで椅子に座ってパソコンとにらめっこしています。 普段はこんな風にメイクしてもらったりだとか、そんな機会がないのでどうしていいのかわからなくって』
『そうなんですね。 お綺麗な方なので素人の方じゃないのかな?って思ってました』と彼女は笑った。
彼女は冗談を交えながら終始笑顔で話しかけてくれた。
けれど手元の作業はとても繊細で時折鏡に映る自分の変わっていくその姿に私はただただ驚愕するばかりだった。
きっと彼女が何気なくしている会話も緊張の緩和が目的なのだろう。
現に彼女と話していると自分がさっきよりも断然にリラックス状態であるような気もする。
それは多分彼女の人柄もあるだろうが、それとはまた別に彼女の返答や発する言葉には否定的な言葉や人を揶揄するような言葉は全くと言っていいほど無い。
とても親身になって深く頷いて共感してくれたり会話一つにしても彼女の凄みをとても強く感じる。
彼女の手にも、そして目には迷いやためらいなんてものは一切感じられない。
自分の好きなことをしている人はどうしてこうもみんな輝いているのだろう。
この生田さんや千佳ちゃん、私の職場のビルの入り口に貼られたポスターの中のあの女性スポーツ選手にしてもそうだ。
流石に一流の人と自分を比べてしまうのはどうかと思われるかもしれないけれど、その人達の生きる一分一秒の価値は私となんら変わりない。
だから余計にその生き生きとした顔を見るととても羨ましくもなってしまう。
しばらくして私のヘアセットとメイクが終わると試着室で佳奈さんと生田さんにマーメイドラインの細身のウェディングドレスへと着付けてもらった。
『——美咲さん、とってもお似合いです』と佳奈さんは試着室の大きい姿見の鏡に映るウェディングドレス姿の私を見て笑顔でそう言った。
『……うん、とても似合っています。 撮影はマーメイドラインがいいんじゃないでしょうか』と生田さんもアゴに手を当てながら私を見て深く頷いた。
私は鏡に映る自分を見て息を飲んだ。
少し光沢のある肩が大きくあいたその真っ白なドレスは自分の体の曲線をなぞるように下へと流れて行き着いたその先は人魚の尾ひれのように長く華やかに広がりながら伸びていた。
その白く美しいドレスと後ろへと立体的に編み込まれ襟足の方で綺麗にまとめられた髪、そしていつもとは違う艶っぽい鮮やかなメイクに自分が別人のように思えて私は感動して言葉を失った。




