少しの積極性と
それから佳那さんと千佳ちゃんと三人で少し話してから私は用事があると言って二人と別れてある場所へと向かった。
佳那さんの話では私の写真を見た佳奈さんの上司は一つ返事で広告モデルは私でいこうと言ってくれたらしい。
そして、撮影の際の衣装はやはりウェディングドレスらしい。
広告のモデルなどとは知らずにバスの中で千佳ちゃんからの誘いを軽く何も考えずに了承した自分を引っ叩いてやりたい気分だ。
……けれど本当に私なんかでいいんだろうか。
多分私は今ブライダルや婚礼といった言葉からは程遠いような生活を送っている。
恋人がいる人を好きになってしまったり、失恋と言っていいかわからないような状況でへこんだりと
結婚どころかこの先彼氏ができるのかも危うい。
そんな自分に誰かを惹きつけるような笑顔ができるなんて到底思えない。
なんというか日常が充実している人は幸せのオーラというか自分は今幸せだという事が周りにもわかるような何かを醸しだしているような気がする。
その人がいるだけでその場の雰囲気が変わってしまうような。
多分私にはそれがない。
撮影のその時その一瞬だけでもその雰囲気を身に纏いたいけれどきっと努力でどうにかなるものでもないだろう。
多分日々の積み重ねなんだ。
まぁでも、だからって諦めて何もせずに撮影に挑んでしまってはせっかく私を推してくれた千佳ちゃんや佳奈さん、佳奈さんの上司さんの気持ちを裏切る事になってしまうから自分なりに頑張ろうと思い私は書店へと向かった。
出来なかったとしても知る努力だけはしよう。
出来なかった。と やらなかった。では全く違うと思うから。
同じ失敗なら全力で頑張って全力で転けてしまえ。
書店へ入ると私は週刊誌の置いてある方へ真っ直ぐ向かって
ブライダル向けの本を探した。
ウェディングドレスの写真が多そうな目当ての本があったが
そのコーナーには幸せそうに話すカップルが何組かいて、それを見た私はとても自分が場違いな感じがして躊躇してしまった。
そして、その後ろで少し挙動不審にキョロキョロする私に前のカップルの男性が気付き『すみません』と頭を下げてその場から少しずれた。
私は顔を真っ赤にしながらそのカップルに頭を下げて、その棚の上にある結婚式場の紹介の本やウェディングドレスの特殊の本、結婚指輪の本など片っ端から手に取りその大量の本をお腹で抱えるようにしてその場を後にした。
『……あの女の人すごい買っていったね』と去り際そのカップルの女性が小声で話していたのが聞こえて
私は恥ずかしさのあまりその週刊誌のコーナーとは真逆にあるあまり人のいないビジネスや自己啓発などの厚い本がたくさん並んでいる場所まで逃げるようにして避難した。
大量に抱えた本をパラパラとめくって中を確認した。
『うわぁ……キレイ……』
本のウェディングドレスを見に纏った女性の写真のあまりの美しさに私は思わず呟いた。
真っ白な純白のドレスに身を包み、何処か遠くを眺めて微笑む女性。
その写真を見ているだけで優しい気持ちになれる気がした。
きっとこの女性は写真には映っていない大好きな新郎さんを見ているのではないだろうか。
映画のワンシーンを切り取ったような美しさと、そしてその世界へと吸い込まれるような優しい表情。
『私……このウェディングドレスがいいなぁ……』と私は本を見ながらニヤニヤと笑って一人呟いた。
『——鳴海、何してるの?』
突然の声に『うわぁ!』と大きい声を上げて私は驚いた。
顔を上げると目の前にはビジネス本を片手に持った岡田先輩がいた。
私は両手に抱えたブライダルの本を隠すように体を少し後ろに向けた。
先輩は私の咄嗟に隠した本の表紙がチラッと見えたのか目を丸くした。
『な、鳴海ってもしかして……』
『んん?なんですか!?』
『もしかして……妊婦さん?』と先輩はそう言って私抱えた本を指さした。
私は『へっ?』と変な声を出しながら自分の抱えた本に目をやるとブライダルの本の中に混じって一冊だけ赤ちゃんが表紙の出産に向けた週刊誌も間違って持ってきてしまったようだった。
『……大丈夫! 俺、口堅いから! じゃあね!』とそそくさとその場を去ろうとする先輩を私は早歩きで追いかけた。
『えぇ!?……ちょっと待ってください!』
それから会計を済ませながら先輩にこんなにも私が大量のブライダルに関する本を買った訳を説明した。
『——へぇ、広告モデルかぁ。なんかすごいなぁ』
『とりあえず撮影だけでもって知り合いに頼まれてしまって……全然自信もないんですが』
『いいんじゃない? 何事にも挑戦してみるって大事な事だよ。 それにさ』
先輩は何かを言いかけようとして少し言葉を詰まらせた。
私は先輩を見つめて首を傾げた。
『——いや、あの……俺も見てみたいなって思ってさ、鳴海のドレス姿』
とそう少しだけ照れながら話す先輩の言葉が嬉しくて私は思わず少し下を向いて溢れそうになる照れ笑いを下唇に少しだけ力を入れて必死で堪えた。
『……もし、この撮影が上手くいったらご褒美が欲しいなぁ……なんて』と私は先輩の顔は見ずに照れながらそう言った。
『ん? ご褒美?』と先輩は微笑みながら首を傾げた。
『えっと……休みの日にでも、どこかに出掛けられたらなぁって』
『鳴海とはよくご飯行ったりするしさ、それじゃいつもとあまり変わらなくない?』と先輩は笑った。
『はい、そうなんですが……なんというか……前もってこの日に遊びに行こう。ってしっかりと予定を立てて楽しいなって思える一日を過ごせたらな……って』
先輩は恥ずかしそうに話す私を優しく見つめて何度か頷いた。
『うん、行こう。 じゃあ撮影頑張って』と先輩は私の肩をポンポンと軽く叩いた。
『やったー、すごく頑張れそうです』と私は小さくガッツポーズをして笑った。




