専門店
次の日の朝、今日も私はいつものように早く目を覚ました。
けど今日は土曜日で仕事は休みだけれど早起きが日課になってしまっているせいか二度寝することも出来ずにベットから体を起こしてリビングの方へと向かった。
そして、ソファーの横には昨日千佳ちゃんと一緒に買いに行ったコテと大量の服が袋から出ずに置きっぱなしになったままだ。
私は洗面所から歯ブラシを取ってそれを咥えながらスマホを手に取り、昨日帰りに千佳ちゃんが教えてくれたヘアセットの動画を見ながらソファーへと腰掛けた。
しばらく動画を釘いるように見た後
私はスマホを持って思い立ったようにソファーから腰を上げ
洗面所でうがいを済ませて洗面台の棚からヘアゴムを何個か手に取りリビングへ向かった。
昨日買ったコテを箱から出して説明書を見ながら慣れない手つきで温度設定をした。
『んーと、あまり高い温度ですると髪が傷んでしまうのか……あと火傷に気をつけよ』と私は一人リビングで呟きながらソファーの前にあるテーブルの上にスマホとその隣に小さい鏡をセットして自分の後ろ髪を束に取ってコテで内側へと緩く巻いた。
そして、髪全体を巻き終わると、またヘアアレンジの動画をジーッと見ながら見様見真似で自分の髪を編み込んでいく。
『おっ、初めてにしては上出来じゃん……』と私は鏡の中の自分に話しかけた。
そして私は大きな袋の中からスカーフと雑誌のモデルさんがきていたものと同じ薄いニットのセーターとベージュのスカートを取り出して着替えた。
そして、そのまま寝室のクローゼットの前にある姿見の大きい鏡の方へ行き自分を眺めた。
『……なんか違う』
髪型も髪につけているスカーフも上から下まであのモデルさんと同じはずではあるのに何かが決定的に違う。
なんというか垢抜けていないというか私の堅いようなイメージがそれを邪魔しているような感じがした。
バックから雑誌を取り出してまたそのモデルの写真を眺めた。
『髪の色変えたいなぁ……あとメイクも』
スマホでいつも通っている美容室に予約の電話をかけた。
運がいいことに昼から予約が空いているとのことだったので『その時間でお願いします』といつも担当してくれる美容師さんにその時間に予約を入れてもらい早速、家を出る準備をし始めた。
まだ美容室の予約をいれた昼までは少し時間のある午前中に私は着慣れない新品の服を着て駅前の以前に愛沢と一緒に行った大型ショッピングモールへと足を運んだ。
そして入り口で店舗を確認してからエスカレーターに乗って目的のフロアへと向かった。
化粧品の専門店が何店舗か入っているフロアへ着くと
そのきらびやかさに少しだけ足がすくんだ。
いつもは百貨店で自分なりに選んでしていたが千佳ちゃんと話していて自分の知識のなさを痛感してしまったから割と意を決してここへきたつもりだ。
が、やっぱりどのブランドが自分の肌に合っているのかも分からず挙動不審に店の前をキョロキョロしてしまう自分がいた。
『——なにかお探しでしょうか?』
ある店舗の綺麗な一人の女性が私に話しかけた。
髪を後ろで綺麗にまとめて黒いスーツを身にまといパリッとしたメイクの笑顔が素敵な女性。
『……あの、私……どれが良いのかわからなくて……』
私は緊張のあまりカタコトでその女性の顔も見ずに小さな声でそう言った。
『わかります。たくさんあるので悩んでしまいますよね』
とその女性は私を包み込むような優しい笑顔でそう言った。
『——無料ですので、よければお肌のカウンセリングだけでもしていきませんか?』
『はい』と私は頷いてその一度も使ったことのない化粧品メーカーの専門店の中へと入っていった。
奥の席へと案内されて席へ着くとまず自分の肌のタイプを知る為に専用の機械で肌の水分量や油分とのバランス、肌のキメなの様々なことを知ることができた。
『お肌とてもお綺麗ですね』とその綺麗な店員さんはモニターを見ながら褒めてくれたりしたが私はなんて言って良いのか分からず『そうですね』と自意識過剰な発言をしてしまったがその店員は特に笑ったりもせずに優しく微笑んでいた。
そしてメイクは毎日のものであるから自分の肌にあったものが一番良いと言って大量の試供品をくれたり
ファンデーションの塗り方から、まゆの整え方、アイメイクやポイントメイクの仕方まで無知な私が納得するほど丁寧に色々と教えてくれた。
そして、私は店員さんがメイクを施し終えた後に鏡を見て愕然とした。
『すごい……自分じゃないみたい……』
メイクでこうも人は変わるものなのだろうか。
じゃあ、私が今までしていたメイクはなんだったのだろうって話になってしまうのだけれど、そんなことよりもプロの方の技術はとてもすごいと身をもって痛感した。
そしてその技術を出し惜しみすることなく無知な私でも明日から出来るくらい、分かりやすくとても丁寧に教えてくれた。
そしてもう一つ一番驚いたことが店に来てから一時間半ほどが経過しているがまだ料金が一円も発生していないということだ。
それどころか技術を丁寧に教えて、大量の試供品を私に渡してむしろマイナスじゃないか?と思ってしまう。
最後まで店員さんは押し売りなどもすることなく試供品試してみてくださいねと微笑んで店から出る私を見送った。
これもイメージと全然違った。
勝手なイメージでこういった専門店に入ってしまったら最後。
買うまで帰れないような、逆に気を使って買わなくてはいけないような空気になってしまったりするものとばかり思っていたのに全然違うじゃないか。
私が思っているより世界はもっと優しい。
けどこれは自社の商品に絶対的な自信があるから出来ることだろう。
一度使えばその良さが絶対わかる。
だから無理に買わせようとする必要もない。
分かる人にはその良さがわかるからだ。
おいしいパスタの法則か。
……その良さが分かれば離れられなくなってしまうのか。
恋愛にも似てる気がする。
無理に引き止めたりしなくても、また会いたくなってしまうような心理がとても。
おいしいパスタの法則は仕事だけじゃなくって恋愛でも重要だ。




