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エロがり上司の灰原さん  作者: 小坂あと


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第6話「ドタイプすぎる」




「で?どうだったの、出張は」

「聞かないで」

「あっそ。失敗したんだ」

「言わないで」


 陽光が降り注ぐ開放的なカフェテリアで、どんよりとした空気を醸し出す私に、親友の南未はケラケラと笑った。

 

「緊張しすぎて飲みまくって爆睡?おもろ」

「……何も面白くない」

「起きたら毛布かけられて放置って、完全脈ナシじゃん。ウケる」

「笑えない」


 それも、わざと外していたのにしっかりと第一ボタンまで閉められた状態で。


 引かれたかな?私の谷間を視界に入れたくもないくらいの気持ちだったら、どうしよう。泣いちゃう。


「一目惚れしてから、半年だっけ。未だ落ちないか〜」

「もう、無理よ」

「なーに諦めモード入ってんの」

「だって……相手は、ノンケだし」※異性愛者。


 想い人と出会ってから、半年以上。あの手この手でアピールしているのに、鳴かず飛ばずの日々。


 ここまで積極的にアプローチしても部下としての態度を変えないってことは、南未の言う通り完全に脈ナシ。そもそも同性に興味があるかも分からないし、諦めた方がいいかもって、頭ではセーブしてるんだけど。


『——灰原さん』


 会って、名前を呼ばれると、止まらなくなっちゃう。


「そんなに好きなら、聞けば?女もイケる?って」

「き、聞けるわけないでしょ」

「なんで」

「それでもし、イケないって言われちゃったら……」

「その時は、次に行けばいいじゃん。モテるんだからさ、瑞月は」


 南未は、分かってない。


 好きな相手に好かれて、結ばれないと意味がない。


「また、バー行こうよ。そんで、好みな女見つけたらいいじゃん」

「……軽いのは、やだ」


 チャラい人も、きらい。南未みたいな。彼女は友達だから好きだけど、恋人だったら最悪。


 どちらかと言わなくても、真面目な人が好き。見た目も雰囲気も中身も、全て。誠実で、優しくて、理性的で——まさに、日暮さんのような。


 ひと目見た瞬間、恋に落ちていた。あまりに、タイプすぎて。


 おまけに。


『冷えますから……ね。よかったら、これ』


 タオルにジャケット、膝掛けまで。事あるごとに体調を気遣ってもらえて、そのたびに胸の奥がキュンとする。まぁ、おかげで遠回しなアピールは失敗続き。


 物静かな感じもたまらなくて、ああいう人が私にだけお熱になってくれたらいいのに、って。


 叶いもしない妄想が止まらない。


「てか、カタブツ相手ならさ」

「カタブツ呼ばわりしないでよ」

「まあまあ。色仕掛けなんてやめて、正攻法でいけば?」

「い、色仕掛けじゃない。してない」

「えぇ〜?おっぱい出したりしてんのに?」

「出して、は……」


 ないことも、ないけど。


 あれは「あわよくば、意識してくれたらいいな〜」程度の気持ちで、単に誘惑して体の関係を持ちたいわけじゃない。


「まずは相手の好みとか〜……中身が大事なら、そういうとこから探っていけば?」

「……そうね」


 さすがは、恋多き女。慣れてる。


 私も猪突猛進すぎたと反省して、アプローチの方法を変えてみることにした。


 南未の助言に従って、とりあえず情報収集。日暮さんについて、本人とたくさんお話して知っていこう。


「——学生時代の部活、ですか」

「そう。気になっちゃって」


 さっそく休憩中にランチへ誘って、会話がてら質問してみた。


「中高はテニス部でした」

「へぇ、そうなの?」

「はい。灰原さんは?」

「私は吹奏楽部」

「楽器は、何を?」

「フルートよ」


 思いのほか日暮さんの方から質問を返してくれるから、会話は盛り上がるけど……私ばかり話してる気がする。


 彼女は、あまり自己開示をしないタイプ。それ故か、聞き上手。


 ——そういうとこも、好き。


 些細なところひとつ、心を惹き付けてくれる。好きと思えば思うほど苦しく、手を繋いでみたくなった。体温に触れてみたい。


 テーブルの上にあった日暮さんの手に自分の手を重ねると、彼女の黒目がそこへ落ちる。


「……楽器なら、私もギターが弾けます」

「そ、そうなのね」

「はい。憧れのアーティストがいて」


 何食わぬ顔で、表情ひとつ変えず。


 さり気なく、スッと手をテーブル下まで引かれた。


 ——嫌だった?


「今度、フルート聞かせてください」


 ズキンと痛んだすぐ後で、優しさをまとった微笑によって救われて、頭の中は幸と不幸でぐちゃぐちゃだった。


 好き。


 何度でも惚れてしまう。


 人生で、初めての経験だった。こんなにも、のめり込むのは。


 



 


  

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