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エロがり上司の灰原さん  作者: 小坂あと


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第44話「いちゃいちゃ、したい」




 いきなり、


『えっちしたい』


 は、引かれちゃうかなって。


 一番受け入れてもらえそうで、なおかつ日暮さんをダイレクトに感じられそうな“ハグ”を選択したけど。


「——瑞月、さん」


 普段、職場では絶対にありえないような、切迫感のある声色が鼓膜を突き破って、脳内に飛ぶ。慣れていないからこその、余裕のなさが。


 ——む、むり。


 全然、こんなんじゃ足りない。


 セックスは避けるにしても、なんでキスって言わなかったの、私。過去の自分を責めても、今の沸々とした欲情は晴れないと知っていて、心の中だけで罵倒する。


 とはいえ、こうして触れ合えるのなら、許される限り触れ合っていたい。


「こ、これは……いつまで」

「あっ。ご、ごめんなさい」


 まだ時刻は昼過ぎ。最初から飛ばしすぎたと反省して、名残惜しくも体を離す。


 貴重なデート時間、スキンシップだけで終わらせるのももったいなくて、他にやりたいこともいくつか。だから、声をかけてくれてよかった。さびしいけど。


「お昼ご飯、食べました?」

「たべてない。祥子さんは?」

「家で、少し」


 お腹が空いたら食べようと会話をして、ひとまずひと息つく。お互い、冬だというのに汗だくだった。暖房もかけてないのに。


 くっつくだけでこんなに緊張してたら、いざするってなったら、どんな風になっちゃうんだろう……?


 想像したらやってみたくなっちゃうから、自主的に脳内でモザイクをかけた。平常心、平常心。


 しばらくベッドを背もたれに、横並びになって呼吸を整える。日暮さんはもう、いつも通りの涼しい顔に戻っていた。


「おうちデートって……具体的に、何をするんですか?」

「そうねぇ」


 プライベートでも計画をきっちり立てたい日暮さんには申し訳ないけど、今回はゆるっとした感じが良くて、実は何も決めてない。


 世のカップルはどうしているのかと聞かれたから、経験を元に、思い当たるものを提示してみた。


「映画見たり、お料理したり、お話したり……イチャイチャしたり?」

「いちゃいちゃ……」

「ま、まぁ。私達はしないけどね。付き合ってないのもあるけど、そういう目的だけで呼んだわけじゃないもの」


 していいんだったら、もちろんしたいけども。


「……いちゃいちゃは通常、どのくらいするものなんですか?」

「どのくらい?」

「時間にしたら、何分くらいなんだろうって」

「えー……どうだろ」


 意識したことなかった。女同士は着の身着のまま、赴くまま、何時間でもしようと思えばできちゃうから。


「飽きるまで、かなぁ」

「飽きなかったら?」

「んー……時間が許す限り」

「ずっと?」

「うん」


 欲を言えば、延長もあり。お泊まりとかもしたい。


 本音をひた隠しにするのは大変で、口を滑らせそうになるたび、唇を固く結んだ。


 何を思ったのか、日暮さんも言いかけては閉じ、困った素振りを見せる。もしかして、同じ気持ちだったりするのかな。そうだったら、嬉しいな。


 まぁ、あるわけないよね。


「じゃあ……しても、いいですか」

「ん?」

「いちゃいちゃ」


 っていう決めつけは、無事。


「どんな感じなのか、教えてください」


 素直に懇願してくれた相手のおかげで、否定された。


 目線の高さ的に私を見下ろしてるはずなのに、潤む瞳のせいか、かわいらしくねだられているようにしか映らなくて。


 ——そん、なの。


「うん……」


 するに決まってるでしょ!と、叫び出したいくらい暴れた心の内は見せないで、腕を広げた。


「おいで。こっち」


 甘やかす気満々で誘ったのに、首に腕が巻き付いて、逆に相手の胸にすっぽり収まる。背中に当てた手は、ぽんぽん宥めるように動かした。


 潰さないようにしながらもぎゅうぎゅう絞めてくる力の強さに愛を感じて、口角は上がりっぱなし。心拍数も、すんごいことになってる。死んでないよね?私。


「ふふ。くるしい」

「す、すみませ」

「いいのよ。私も、そうしたくなることあるもの」


 むしろ、もっとしてほしいくらい。


 お返しのつもりで、肩の方まで回した手で服を掴んでみたら、温度がまたひとつじんと上がる。


 甘えてすり寄ってくれた日暮さんの、のぼせるくらいの熱さが首筋に近付いて、額から垂れる汗ごと張り付いた。


 もう少しで肌へ触れそうな唇の気配に、期待した体がぶるりと鳥肌を立てる。


 ——あ〜……まっずい。


 めっっっちゃ、襲われたい。このまま押し倒すか、押し倒されたい。できたら後者希望で。


「瑞月さん……」

「うん」

「す……好き、です」


 追い打ちをかけるように、愛の囁きが耳を劈く。おかげで、鼓膜じゃなくて心臓が破けそう。


 ——はぁー……やばい。耐えろ〜。耐えるのよ、私。


「私も、すき」


 とりあえず、好きで好きでたまらない激情は、吐き出す。それだけで、ほんの少し楽になった。


 でも、一度心から落ちた愛情が、脳へ続く螺旋を通じて響き渡ると、際限なく湧き上がってきて止まらなくなって。


 時計の針は、まだ午後一時にもなってない。


 残り、五時間以上も。


「瑞月さん……好き」


 耳元で、切なく名前を読んでくる好きな人相手に、耐えられるかな。私の理性。


 








  

 

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