第41話「デートプランのご提案」
ま、まずい。
計画通りに物事を進めようと、性急すぎた。相手への配慮に、欠けていたかも。
そもそも、自分で立てた人生設計を本人の許可もなく付き合ってもらって当然、というスタンスから変えるべきだった。灰原さんには、灰原さんのペースがあるのに。
血迷って迫った結果、距離を取られてしまった。
脱兎の如く立ち去ったのを、追うわけにもいかず。岩村さんと、気乗りしない恋バナで盛り上がり。
「やっぱ……素敵な人ですよね、灰原さん」
彼女に注がれた羨望の眼差しに、愛想笑いもぎこちなくなるほどの嫉妬心に駆られた。
——こんなんだから。
いちいち、誰かに取られるかもとビクビクするような小心者だから、逃げられる。繋ぎ止めておける魅力を備えればいいだけなのに、私は。
「……よし」
改善箇所が明確なら悩む時間がもったいなく、就業後は真っ直ぐ家に帰り、名誉挽回のため作戦を練った。
スマートにデートの提案をして、とにかく灰原さんに喜んでもらう。で、あわよくば大切にしている価値観なんかをチェック。
オススメする食事処なんかも事前に調べておいて……予算は、私に合わせた方がいいかな。無理して収入の高い相手の水準に合わせたら、貯蓄に影響する。将来のため、お金は残しておきたい。かと言って出し渋りすぎず、ケチではなく堅実に。
なにより、ご馳走できる範囲でご馳走して、好かれたい。得意げな顔してエスコートしたい。
『嬉しい……おいしかったわ。ありがとう』
って、お礼を言われて。
『ふふ。良い子ね』
なん、て。
頭を、撫でられちゃったり……したい。
「や。こ、子供すぎる。だめ」
そうじゃなくて、私はもっと大人な女になりたくて。
何度も何度も、理想の自分を再生しては、
『もう〜。仕方ないんだから……おいで?』
腕を広げ、微笑む女神が空想の世界へ侵入してきて、
『抱きしめて、あげる』
私の未熟さごと、閉じ込められる。
——す、好き。
幼さのある灰原さんも、色気を振りまく灰原さんも、聖母のような美しさの灰原さんも。
好きすぎて、崩れる。
「ぅ、うぅわ〜……」
机に向かってデートの企画をまとめていたはずが、気が付けばベッドで、枕相手に抱擁したい欲を発散しながら暴れていた。
「好きすぎる……!」
うるさい声量の本音を、本人に伝えられるわけもなく。(恥ずかしくて言えない)
「——デート先のご提案なのですが」
『うん』
「プランをふたつ、ご用意しておりまして」
『うんうん。聞かせて?』
夜の八時。
通話に応じてくれた灰原さんへ、何がなんでも掴み取りたい営業マンさながら、渾身の説明をしたら。
『どっちでも嬉しいよ』
曖昧な返しを、された。
——もしかして、どっちも気に入らなかった?
念のため用意しておいた三つ目のプランなら、いけるかもしれない。それがだめでも、四つ目が。奥の手に、高級ディナーの五つ目も。
「であれば、他にもいくつか……」
『ふふ』
「ん……?」
なんで、笑って——?
『そんなにたくさん……一所懸命、考えてくれたのね』
電子機器を通した温和な微笑みは、凄まじい勢いで脳に電撃を走らせた。ページを捲ろうとしていた手も、動けなくなるほどの衝撃を連れて。
『かわいい』
ほめ、られた。
どこがどう可愛かったのかは不明だが、彼女の心に慈愛をもたらした私の言動は、
『でも……もう少し、肩の力を抜いてほしいな』
不満の種でもあったらしい。
『デートは営業トークじゃなくて、ふたりで話し合って決めたい……かも』
「あ……」
初歩中も、初歩。
根本からズレていた事実を、ものすごく申し訳なさそうに教えてもらい、硬直する。
『あっ。もちろん、提案が嫌とかじゃないの。だから、今回はせっかく用意してくれたさっきのプランから選んで決めましょ?』
フォローまでさせてしまう、無能っぷり。
「すみません……」
『私こそ、ごめんなさい。やってもらったのに、口を出して』
「いえ……灰原さんは、悪くないです」
悪いのは、ポンコツな私。くっ……。
『やだ』
ほら。
灰原さんも、失望して——
『名字呼び、やめて』
顔を見なくても、拗ねたと分かる潤んだ声が、鼓膜を殴る。
『名前がいい』
お願いされなくても呼びたいくらいなのに、私としたことが。ミスが連続していて、そろそろ心が折れそう。
挫けることなく続けられたのは、灰原さんの方から甘えてくれたからで。
「瑞月さん」
『……ん』
「初デート、何がしたいですか?さっきまでのプランは、忘れてください」
『いいの?』
「はい」
「じゃあー……」
選択肢を提示する前に、相手にも聞く。という、なんとも当たり前なことを実践に移したら、
『おうちデート』
早くも、最大の危機が訪れた。




