7.踏み出す
実家に戻ると和真は自室に隠していたマフラーにくるまれているビニール袋を取り出した。
透明なビニール越しに、血のついたナイフと、くしゃくしゃになったメモ。
ナイフは錆びてこそいないが、乾いた血の跡が黒くこびりついている。
何年経っても、その異様な存在感は変わらない。見付けた時の心臓を鷲掴みにされるような恐怖が蘇る。
『もう待たないで M』のメモは、和真の心臓を締め付けた。
このナイフとメモをどうすべきか。
和真は袋越しに2つを見つめながら考えた。
警察? 10数年経ったものを?
ミサの身に何があったか、本当に事件だったのか、何もわからない状況で警察に持ち込めば、自分が何らかの疑いをかけられるかもしれない。
いっそ高橋に見せてしまおうか。
しかし探るような高橋の視線と『最近見た気がする』というあやふやな言葉がそれを躊躇させる。『見た気がする』ならばその時に話しかけなかったのはなぜか。
悩んでいた和真の頭の中に、リカの顔が浮かんだ。
リカはミサの親友だった。そしてミサの転校後、彼女の行方を気にかけていた一人だ。リカなら、ミサの家庭の事情や、転校直前のミサの様子について、和真よりも詳しく覚えているかもしれない。
リカは小学卒業後私立の中学に進学した。
その為卒業以来没交渉で今日見かけたが、話しかけることもしなかった。
高橋はどうだろうか。俺に聞くくらいだ。当然リカにも話を聞いているはずだ。
もし、リカがこのナイフとメモについて何か知っていたとしたら? あるいは、リカがミサから何らかのメッセージを託されていたとしたら?
和真は、グループラインからリカの連絡先をメモし、一呼吸置いてからメッセージを作成した。
『ひさしぶり。覚えてるか? 5、6年生の時に同じクラスだった和真だ。急で悪いんだけど、今度二人で会えないか? 話したいことがあるんだ。小学校の頃の…宮近ミサのことだ』
詳しくは書かない。
直接反応を見たい。
和真は深く息を吐いた。凍結されていた時間が、今、動き出した。




