23.推測
真夜中の高速を高橋の運転で西へと向かっていた。車内は重い空気に満ちている。
俺は、意を決して高橋に尋ねた。なぜ、あのキーホルダーのことを聞いたのか。その問いに対し、高橋は車をサービスエリアに停め、エンジンを切った。
彼はシートに深く背を預け、真っ直ぐ前を見たまま語りだした。
「和真。俺は今、神奈川県警の捜査一課に所属している…刑事だ」
驚く俺の方を見て続ける。
「そして、俺がミサの行方を追っているのは失踪事件としてではない」
高橋は言葉を選びながら、ゆっくりと続けた。
「半年前、神奈川県内の山中でスーツケースに入った子供の遺体が発見された。ニュースで見なかったか?白骨化していて、死後十年以上。推定年齢は十代前半。…そして、遺体と共に、いくつかの遺品が回収された」
俺は嫌な予感に息が苦しくなるのを感じた。
「その遺品の中に、ミサが持っていたものと同じキーホルダーがあったんだ。猫のキャラクターと、桜のチャームがついた、あのキーホルダーだ」
「…まさか」俺の声は、掠れて言葉にならなかった。
高橋は、首を振った。
「まだ断定されていない。なんなら宮近ミサの可能性も、浮上していない。ただ、キーホルダーが気になって…俺は独自にミサの転校後を追い始めたんだ。ミサでなければいい…ミサのはずがないと、だがリカの証言を聞いて、俺の考えは変わった」
高橋は、鋭く俺の目を見つめた。
「リカは言った。『あれはユカリにあげたはずだ』と。ミサは、母親から双子の姉の存在を隠すように言われていた。担任からも双子の話は出なかった。…ユカリの出生届は出されているのか…?ひょっとしたら、ユカリは無戸籍なのかもしれない。そして、スーツケースの遺体はユカリなのかもしれない」
高橋の推測は、俺たちの想像を遥かに超えた。
「俺の推測だ。ユカリに何かがあって亡くなり、それをミサの母親が隠蔽しようとした。ユカリの死を隠すため、ミサを連れて逃亡した。」
病弱で、学校にも行けず、存在を隠されていた双子の姉、ユカリ。そもそも、本当に病弱だったのか。
「あの遺体は、ユカリの可能性が高いと思う…」
若すぎる母親。双子の秘密。そして、十数年前の殺人事件。
俺の頭の中で、リカのメモ、俺のメモ、そして誰にも言えずにいる血のついたナイフの残像が、高橋の告白と重なり、一つの恐ろしい絵を描き始めた。
(俺の持っているナイフの血は、ユカリのものなのかもしれない)
俺は、全身の震えを隠すように、シートの背もたれに強く体重を預けた。この旅は、初恋の相手を探す旅ではなく、双子の姉妹の悲劇と、殺人事件の真相を追う旅に変わってしまった。




