10.双子
リカとの待ち合わせの日、少し早めに喫茶店に着いた和真は悪夢の中にいるような気分だった。
ナイフと共に、封をした初恋。
なぜ昨日まで忘れていたのか。何故、考えないでいられたのか。
いや、ずっと心の奥底では思っていたのだ。
ただ考えることが怖かった。向き合うには幼すぎたのだ。
「和真、久しぶり」
声をかけられ、和真は振り返った。向かいに座ったリカがカフェオレを注文し、一息ついたところで和真は本題に入った。
「わざわざ来てくれてありがとう。早速で悪いんだけど…昨日のLINEの…」
和真は一呼吸置いた。
「本当に、ミサに姉がいたんだな?」
リカは顔を上げず、カフェオレのカップの縁を指でそっとなぞった。
「うん…ごめんね、いきなりあんなこと送っちゃって。でも、ミサが引っ越してから何年も経ったし…高橋に色々聞かれてさ…私もずっと誰かに話したかったんだよね。それなら、まず…和真に伝えようかなって思って。」
リカは口籠りがちに打ち明けた。
「うん…ありがとう。まず、俺はミサがひとりっ子だって聞いてたんだ。だから、お姉さんがいるってことに驚いて…ミサのお母さん、いつも若々しくて小柄で、姉妹みたいにミサと仲が良かっただろ? お母さんをお姉さんと勘違いしてた…とかではないんだよな?」
和真の言葉に、リカはそっと頷いた。
「そう。だからこそ、私もミサから聞いた時、すごく驚いたの。だって…」
リカは深呼吸し、顔を上げた。しかし和真の目ではなく、和真の肩越しに見える壁を見つめている。
「すごく、変な話だから…」
「頼む、聞かせてくれ」
リカは、意を決したように小さな声で話し始めた。
「小学校の頃、ミサ家の前で話してたとき。雨が降ってきて…ミサの家に入れてくれない?って聞いたの。そうしたらミサが、本当に申し訳なさそうに、『うちにはね、ユカリがいるの』って」
ユカリ。俺はミサから聞いたことのない名前だ。
「ユカリって、誰だ?」
「ミサの、双子のお姉さん…って聞いた」
和真は絶句した。
「双子…まさか。じゃあ、なんで学校に来なかったんだ?」
リカは両手でカップを包み込むように持ち、震える声で続けた。
「ミサが言うには、ユカリはずっと家に居て、学校には通ってなかったって。体が弱いからだって。そして、それが一番怖かったんだけど、『本当はお母さんに、誰にもユカリの話をするなって、言われてるの。もし誰かに話したら、ミサ、すごく怒られるから』って。その時の顔が…本当に可哀そうで、私も怖くなっちゃって。だから、誰にも言えなかったの」
秘密の存在。隠された双子。そして、姉妹のように仲が良かったはずの母親からの、厳重な口止め。
リカの言葉が、和真の胸に深く突き刺さる。ミサの笑顔と、若く小柄な母親の笑顔。その裏で、もう一人の娘、ユカリの存在が秘密にされ、母子とリカ以外誰も知らない。




